ダンジョン攻略実習

「佐島くん。先生が今度の探求だけは出てくれないか……って」


 三学期が始まって一ヶ月が経ったある日。

 いつものように教室の隅っこで空気椅子ならぬ負荷付き魔力椅子に座って読書に勤しんでいると孔明くんが話しかけてくる。


「あ、それ私も姐さんに伝えてくれって言われました!」


 それに追従するように、早乙女さんも――あぁ。因みに何があったのかは知らないけど、転校初日に俺に絡んできたギャルはなんかいちかちゃんの舎弟(舎妹?)になっていた。

 まぁ、いちかちゃんが慕われるのは良いことである。


 ただ……


「靖くんなら兎も角……なんで私にも直接伝えてこないの?」


「確かに。二学期は基本的に俺への連絡事項は全部いちかちゃん経由で入ってきてたし」


 そんな疑問を呈す俺たちに、早乙女さんと孔明くんは気まずそうに笑った。


「まぁ、小林さんも何だかんだ校庭を凍り漬けにしたりしてるしね……」

「そうじゃなくても姐さんはスゴく怖……な、なんでもないです」


 まぁ、いちかちゃんは一応レベル999だし。スキルとしての威圧はないけど、強さが滲み出ているのかもしれない。

 だからまぁ、先生的にもいちかちゃんより早乙女さんの方が話しかけやすいみたいなところはあるのかもしれない。


「ところで、なんで今回は出てくれって言われたの?」


「あぁ、それはね――今度、特に戦闘に向いた役職の生徒を集めて『ダンジョンの攻略実習』をすることになったらしいからだよ」


「ダンジョンの攻略実習って、私たちがダンジョンに潜るってこと?」


「……まだ、中学生だよね?」


「うん。あぁ、一応今回潜るダンジョンは自衛隊の人たちがちゃんとある程度まで調査して安全だと判断したダンジョンらしいけど」


 なるほど。だから俺たちに……。


 いや、別にダンジョンに潜ること自体は何の問題もない。

 正直、今の俺はカナヘビと戦ったときよりも更に強くなっているしあるいは下級神くらすの敵が出てきても割となんとかなる自信がある。


 と言うかレベルが300にも満たないような敵の攻撃じゃ、天地がひっくり返っても俺やいちかちゃんに傷を付けることは出来ない。

 それに、どんな敵も威圧だけで消し飛ばせる自信はある。でも……


「メンバーは?」


「一応ウチのクラスからもそれなりに参加する人たちがいるけど、佐島くんと小林さんが参加するなら、僕と早乙女さんの四人でパーティを組むことになるみたいだよ。一応自衛隊の人が一緒に同行はしてくれるみたいだけど」


 自衛隊の人も一緒に同行って……いや、安全面を考えればそうなんだろうけど。


「そ、そうなんです! 姐さん、お願いします~。しょ、正直クラスの人たち全然信用できないし、頼りないんですよぉ」


「信用できないって……それ、忍が言う?」


「で、でもぉ。それに、ここでお二人に同行できなければ私……」


 早乙女さんはいちかちゃんにしがみついて「く、靴でも何でも舐めるのでお願いします~」と半泣きになりながら懇願していた。

 なにがそこまで彼女を突き動かしているのか解らないけど、惨めだ。


「僕からも頼むよ。何だかんだ佐島くんの力って、威圧くらいしか見たことないし。従魔師としての力は、気になるんだよね」


 孔明くんは純粋な好奇心を瞳に宿らせていた。

 いちかちゃんは俺にアイコンタクトで「どうする?」と聞いてくるけど、別に俺はダンジョンに潜ること自体は良いんじゃないかと思っている。


 メリットははっきり言って皆無だけど、一応授業の一環みたいだし。それに、カナヘビのアレ以来世界中に出現したというダンジョンがどの程度なのか少し気になってはいるのだ。

 ボランティアだと思って、参加するのも悪くないだろう。

 俺は、いちかちゃんに行こうと頷いた。


「……まぁ、靖くんが良いなら私も良いけど」


 でも、間違ってダンジョンを攻略でもしちゃったら多分スゴく目立つから気をつけようね。といちかちゃんは小声で俺に耳打ちしてきた。

 ……確かに。そうでなくとも、活躍の度が過ぎればあるいは色んなダンジョンの調査をやらされるようになるかもしれない。


 ……あれ? それ、なにか困ることある?


 勉強は前の人生で大学まで結構頑張ったから落ちこぼれるとかは流石にないし、別にダンジョン探索自体は嫌いじゃない。

 寧ろそれでお金貰えたり、攻略のために全国を回れたりするのは悪くない気がする。いちかちゃんとの旅行とか、寧ろ楽しそうじゃない?


 取らぬ狸のなんとやらと言う奴かもしれないけど、別にダンジョンを攻略してもそんなに問題がないかもしれない。

 まぁ、逆にしなくてもいちかちゃんとの二人暮らしが続く訳だし問題ない。


 そんなこんなで俺たちのダンジョン攻略実習が始まった。




                    ◇




 俺の職業は従魔師であるが、正直雑魚狩りなら俺の威圧や魔力プレスに勝る魔物なんていないし、今手持ちにいる従魔であるカナヘビはトカゲくらいに小さくしていても亜神竜だ。

 その気になれば鼻息一つで日本列島を火の海に変えられるほど強いし、ダンジョン攻略で扱うには過剰戦力。


 他のヘルメスピジョンは、結界とか回復とか連絡とか出来て便利ではあるんだけど護衛に付けているモンスターだから、その力はあまり他人に見せたくない。

 そんな理由もあって、俺は従魔を現地調達することにした。


種族名 ホビットラビット

名前  なし

体力 22/22

筋力 37

魔力 17

敏捷 54     ▲

Lv 2

職業 盗賊

スキル『筋力強化Lv2』『敏捷強化Lv4』

職業スキル『盗む』


 ……う~ん、とても弱い。見た目は少し大きめの二足歩行の兎なんだけど、そのステータスは筋力と体力が俺の親父よりやや弱くて、素早さが倍。

 ホビットラビットはナイフを持っているから、そりゃあ一般人が挑めば危ないかもしれないけど、しかし強さ自体はいつか見たゴブリンと比べてもかなり弱かった。


 まぁ、弱すぎて逆に良いという考え方もあるか。

 弱いお陰で、良い感じに従魔師としての力を発揮できるかもしれない。今俺が持っている従魔はどれもこれも強すぎて、余波でダンジョンそのものが崩壊するほどなのだ。


 一応、俺の従魔になれば俺の称号やスキル諸々の効果で全ステータスが10倍になって、孔明くんよりも強くはなるけど。

 丁度良い強さだと思う。良い感じに役に立って、しかし決して余波で周りを破壊しない。


 そんなこんなで、俺は従魔にしたばかりのホビットラビットを前衛に出して、今回はメインアタッカーを務める孔明くんをサポートさせる。

 そして早乙女さんは一応『忍者』と言うことになっているから、中距離から手裏剣を飛ばして、いちかちゃんは孔明くんと早乙女さんに持続する回復魔法をかけてからのんんびりと俺の隣で歩いている。


 まぁ、今のいちかちゃんの魔力量だと手加減してもカナヘビのダンジョンの一階層を丸ごと焼き払えるくらいの威力になるし、バフをかけても強化し過ぎちゃうし、デバフもそれで敵が即死しちゃうし、普通に回復魔法をかければ過回復を起こして身体がボンっとなってしまうかねない。


 ホビットラビットを前衛に出してから何もしていない俺が言うのも何だけど、持続時間に魔力の大半をつぎ込んだ弱めの回復魔法を使うのが精々だろう。

 多分二週間は骨折程度なら瞬時に治るのが持続するだろうけど。

 

 そんなこんなで、自衛隊の皆さんに感心されながら、トロトロと3階層まで探索を終えた時点で攻略実習は終わりを迎えた。

 今までのダンジョン攻略は一時間足らずでボス倒して、エクストラボスも討伐! ステータスも大幅アップ!! って感じだった俺的にはかなり不完全燃焼だったし、と言うか歩いているだけだったから凄く退屈だった。


 正直二度とやりたくないと思った。

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