特別クラス

 国立職業養成学校東京支部の初めての登校は、教員の紹介を済ませた後にそれぞれのクラスの教室の確認と、簡単な顔見せ、自己紹介と簡単なクラスの係決め的なことなどをして終わりとなった。


 因みに俺たちのクラスは特別クラスというもので、クラスメートは全部で二十人とやや少人数。

 取り分けて職業が有用そうだったりする人間が集められたエリートクラスらしいがいつ職業なんて調べていたんだろう。


 鑑定持ちがいるのか、あるいは俺がハブられていただけなのか。

 ただ、担任になる先生が「特に有用そうな職業やスキルを持つ人たちを集めたクラスです」って説明した割に、調子に乗ったり高圧的だったり職業やスキルでのマウント合戦が始ったりとかそういうのはあるかなぁと思っていたのだが、別にそんなことはなかった。


 大人しいのは国民性なのか、クラスメートがいい人なのか。あるいは互いの能力の詳細や優劣の基準がないからまだ動けないだけなのか。


 そんなこんなで土日を挟んで、平日。


 授業は主要五科目がそれぞれ週に四回で一時間頭50分の時間割で、まぁ普通。ただ、授業の質はともかく速度自体は夏休み前まで通っていた進学校である中学校と同じくらいの速度だった。……前の人生の記憶だと3年生の一学期までに必要な勉強を済ませ、それ以降は受験の対策に費やされるような学校と同じくらいなのである。


 職業が有用そうってだけで集められた奴らだ。何人か明らかについてこれていない人もいたけど、大丈夫なのだろうか?

 わざと落ちこぼれさせて、低学歴の優秀な職業持ちを安く雇うのが魂胆なのかもしれない。まぁ、前の人生の記憶があって今世でもそれなりに勉強している俺には関係ないはなしではあるが。


 ただ、この学校は五科目以外のいわゆる副科目である音楽、美術、図工は全てカットされ、その時間は体育と『職業・スキル探求』というこの学校特有と思われるカリキュラムに変換されていた。


 体育は普通に走ったり柔軟をしたりといった基礎的な体作りを促進するものを初めとして、ドッヂボールやサッカーなどの球技、柔道や剣道などの武道などおおよそ普通の中学校で執り行われるカリキュラムがローテーションで行われていた。

 ただ、それらに関して普通の学校と違うのは『ほかの生徒に怪我をさせない』ことを条件にスキルの使用を推進されていたことだった。


 そして職業・スキル探求は週に二回ほどあって、グループを作ってお互いの職業で出来ることを確認しあったり、その有用な使い道を話し合ったり。あるいは自分の職業で出来ること、出来そうなことをレポートに纏めたり。訓練場を利用して出来ることを披露してみたり。そんな感じだ。


 そんな感じの授業で互いの職業やスキルの特性がクラス中で理解され始めると、やはりというかなんというかその職業やスキルによってクラス内カーストが完成する。

 そんなクラスのカーストの頂点は、どんな相手でもデコピン一発で破壊できる圧倒的なステータスと、世界で初めて職業を得て今のところ他に例がない『従魔師』で、ドラゴンであるカナヘビを従える俺――などではない。


 むしろ、走りは魔力の負荷と制御によって筋力と敏捷は100程度だが、戦闘系の職業持ちは補正込みで100を超える奴なんてザラにいるから別に特段早い方ではないし、球技と武道は『威圧』の制御が緩みやすいから当然のように不参加。

 従魔師の力も「従魔は今は主にカナヘビくらいしか手持ちはいないし、職業補正も従魔にかかるだけで術者本人にはない」といった瞬間、一気にカーストが最下層まで下がってしまった。


 いやまぁ、多少侮られたりする程度で実害はそんなにないから良いんだけど。


 そんなこんなで、俺が見た感じだと今のところカーストの上位と言えそうなのは大きく三人だった。


 まず一人は職業『参謀軍師』の諸藤亮こと孔明君。

 安直だが、職業が職業だったので親しみを込めてそう呼んでいる。

 職業としては敏捷が半分になる代わりにそれ以外のステータスが1.5倍という大幅な補正が入る上に『四元素魔法』や『剣術』などの最低限の戦闘スキルを職業スキルとして初期で覚えている。

 その上で、思考力に補正がかかるスキルがあったり、味方の能力を上げたりできるとかいう、インチキ性能っぷりである。


 その上、孔明君本人は中学の頃にいた前世持ちでもないのになぜかテストで全教科満点取るタイプの秀才みたいで、灘でも成績はトップだったらしい。

 おまけに、カースト最底辺である俺にも「このクラスだと一番話が合う」とか言って気さくに話しかけてくるほどに性格がいい。

 おまけに見た目も俺の五倍はイケメンである。


 その持ち前の気さくさと賢さと容姿。その上で持ち合わせる最強格の職業を持つ彼は人望も厚く、大体のクラスメートに好かれている。

 クラス内カーストの頂点の最有力候補は孔明君だと俺は思っている。


 そして二人目はなにを隠そう俺の恋人であるいちかちゃんだ。


 見た目はすごくかわいいし、性格はめちゃくちゃ面倒見がよくて優しいし、小学生のころから俺の代わりに色々対応してくれていただけあってコミュ力が高い。

 ……と、思っているのは俺だけみたいでクラスのわからずや共からは『氷の魔女』と呼ばれていた。


 それは職業探求の授業で、魔法使いの魔法を見るというのがあったんだけど、その時にいちかちゃんは四元素魔法の応用で氷魔法を披露した。

 氷魔法は火属性と水属性の複合で、魔力効率が非常に悪い。しかしいちかちゃんの魔力は1700京もある。


 魔力300億で、各種職業スキルもほとんど得ていなかった段階で少なくとも東京ドームよりは広いであろうダンジョンの一階層にいるレベル100のゴールデンフェアリーパピヨンを纏めて焼き払うほどの威力がある魔法だ。

 ものすごく手加減して、魔力も効率が悪くなるようにわざわざ不純物を一切取り除いた上で持続時間と硬さに魔力を注ぎ範囲は出来るだけ狭くしたらしいんだけど、結果としてそれなりに広い広場が一面氷漬けになった。


 それ以来、畏怖と尊敬を込めて氷の魔女と呼ばれているらしい。

 クラスの中――というか世界中でいちかちゃんを一番好いているのは俺で間違いないと思うけど、それ以外だと主に女子からの支持が厚かった。

 なんでも、それなりに強い職業やスキルを持っていて威張っているやつもいちかちゃんが近くにいると価値てきた猫のように大人しくなるらしい。


 そして最後は、


「おい、佐島よぉ。お前は今日もサボりか? いくらてめえがクソ雑魚で肝心の従魔もそんなトカゲしかいないからって、今日は参加しろよ? 俺がボコってやるから」


 主に、授業についていけてないグループのリーダーを務めているっぽい、なんちゃらって名前の人だ。

 ここ数日、やたらと目立ってしまった割に完全にカースト底辺になってしまった俺に絡んでくる悩みの種である。


「いや、俺は……」


「なぁ、先生。いつもこいつだけサボっていて不公平だと思わねえか?」


 なんちゃらくんは、先生に問いかけう~んと悩んだ顔を見せてから


「まぁ、そうですね。では佐島君。今日は、偶には参加してみたらどうですか? 今日は初めての模擬戦ですし。それに、佐島君の力、先生も見てみたいです」


 と。……あれ? これ、断れない雰囲気だよね?

 そんなこんなで俺は、この学校特有の『職業・スキル探求』の授業の一環として、なんちゃらくんと模擬戦をすることになった。

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