事情聴取
警視総監→警察庁長官に訂正しました。
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紺色の軍服のような警官の服。髪は真っ白だけど背筋はしゃんと伸びていて、体は少し鍛えられている。しかし人の良さそうな笑みを浮かべるおじさん。
警察庁長官を名乗る、隅田一真は俺の家のリビングにあるソファーに座りながら聞いてくる。
「とりあえず、世界中で現れたダンジョンと『神々の試練』について知っていることを話してもらえないかな?」
「はい、それについては私は今世界中で現れたダンジョンが如何ほどの規模かは知りませんが、中にはモンスターと呼ばれる――私が見たのは骸骨のようなスケルトンとか幽霊のようなレイスとか、ゾンビのようなものだったんですけど。
倒せば大体1~2割の確率で何らかのアイテムを落としますね。あと言えるのは、ある程度の階層まで行くと魔物の絵が描かれた扉に当たります。その先にはボスと呼ばれる、とても強力なモンスターがいました」
「ボス? なるほど、それは興味深いね。それは倒すとどうなるんだい?」
「そうですね。倒すとステータスが上がったり、スキルを得たり。そんな感じの恩恵が得られます。それと、私たちのケースだけかもしれませんけど、ボスを倒せばダンジョンからモンスターが出なくなります」
「なるほどねぇ。……ところで、君は名前なんて言うんだい?」
「はい、小林いちかと言います」
しらーっとした目で警察庁長官が、俺の方を見てくる。
いちかちゃんが警察庁長官の前のソファーに座り、俺はそのソファーの後ろでいちかちゃんに主に視線を向けながら、視界の端で警察庁長官の姿をとらえていた。
「佐島靖君。君はどうしてこっちを見て話さないんだね? 一応私は、君に話を聞きに来たつもりなんだけど」
「良いんですか?」
「いや、待って。あの、隅田さん。靖くんが面と向かって話さないのは理由があるんです」
好戦的に、俺が隅田さんの目を見てやろうかと思ったら、いちかちゃんに止められた。隅田さんは目を細める。
警戒しているのか、機嫌を損ねてしまったのか。
「それは、昼間菅田君……うちの部下たちを気絶させたのと関係はあるのかい?」
しかし、その理由だけでその件にたどり着くのとは。やはりキャリアの頂点たる警察庁長官だけあって頭がキレるようだった。
いちかちゃんも感じ取ったのか、少し警戒心を強めながら応対した。
「あります。あの、説明が難しいんですが靖くんのスキルには『威圧』というものがあります。……スキルってわかりますか?」
「まぁ、一応ね。私もいくつか持っているらしい」
「その靖くんの『威圧』は、視線や立ち居振る舞いで相手を怖がらせたり、場合によっては失神させたりすることができるスキルなんです。それで、その、靖くんはそのスキルの制御がまだ完璧じゃなくて……」
「なるほど。それでうちの部下をねぇ……。でも制御が完璧じゃないって、民間人に危害を加えたり危険じゃないの?」
「危険じゃないです!! 靖くんは優しい人ですし、よっぽどのことがない限り他人を威圧するような真似はしません!
それに、犯罪者でもないのにいきなり武装した警察官に囲まれれば誰だって不安になります! 今までできていた制御が暴走しても仕方がないと思います」
いちかちゃんはキッと隅田さんを睨みつけながら、怒っていた。好きな人が俺のために怒ってくれるのはうれしい反面、少し申し訳ない気持ちになる。
それと同時に俺は隅田さんの言葉から真意を読み取ろうと黙って考察もしていた。
「ふむ。まぁ、確かにそれもそうか。こちらが協力を仰ごうって立場にありながらいきなり大勢で押しかけたのはこちらにも非がある。警官を気絶させたことは不問にしよう。
それで、今まで制御できていたというがそのスキルはいつから使えるのかな?」
「それは……」
小四くらいの時である。いちかちゃんもそれを知っているが、正直に言うかどうか俺にアイコンタクトで聞いてくる。
俺としては別に、隠すほどのことでもないような気もするけど……
俺はいちかちゃんに言葉を伝える。
「……靖くんがいつからスキル使えるとか、なんのスキルが使えるとか。その質問は当初の話から脱線してると思います。
一応、最初の質問に答えるなら、ダンジョンについては知っていることについては大方話しました。それと、神々の試練についてはこちらもあのアナウンスで聞いた以上の情報はありません」
本当は4年前からダンジョンが出ていた、とか。押し入れにある大きな迷宮にいたカナヘビを倒したことによって『神の試練』が突破され、それがトリガーとしてクエストが発行されたくさいとか、エクストラボスの存在とか。話していないことはまあまあある。
しかし、相手はいきなり武装して大勢で押しかけてくるような相手だ。
そうじゃなくても、前の人生で大学生のころにちょっとした事件の目撃者として事情聴衆をされた際に、終電逃すくらい遅くまで――それこそ6時間近くも話を聞いてきたくせに、話聞いた後は当時借りてた下宿から3駅(7km)ほど離れた警察署から歩いて帰されたことがあるのだ。
タクシー代は払いたくないし。頼んだのにパトカーで送ってくれなかったせいで、くそ寒い冬の深夜、歩いて帰るはめになった。
次なにかあっても二度と協力してやるもんかと憤ったものだ。
そんな経験もあってあまり協力したい! という気分にはなれなかった。
それに、ダンジョンのモンスターを適度に駆除して市民の安全を守るという範囲内での必要そうな情報は全部出したし、神々の試練についてもクリア条件とかに関しては本当に何も知らなかった。
なので、俺はいちかちゃんに同意するように
「これ以上俺たちから話せることは特にないと思います」
と答える。正直、隅田さんはあんまり信用できないし。バカ高いステータスや阿呆みたいな性能のスキルを詳細に話して碌な目に合う気がしなかった。
アナウンスのせいで名前が知れ渡っただけでこれだ。これ以上目立つのはこりごりだった。
これ以上話してもなにも情報は得られないと悟ったのか、隅田さんは目を少し瞑ってから
「ありがとう。有益な情報提供に感謝する。ところで、君たちくらいの年齢だと漫画とか読んだりするのかい?」
「え?」
真意がわからず戸惑ってしまう。漫画に関しては前の人生では特に大学生のころにかけてそこそこ嗜んでいたけど、今の人生は筋トレばかりであんまり触れていなかった。
「まぁ、いいや。それでね、まだ企画の段階なんだけど先の一件で『職業』が与えられたでしょ? それで、大抵は『村人』なんだけど、それ以外の『戦士』とか『魔法使い』みたいな取り立てて有用そうな職業を持つ児童を対象とした学校を敷設する予定があるんだ」
「つまり、そこに入れ、と?」
「まぁ、どこで学ぶかの自由は憲法で保障されてるし強制はしないがね。君たちは、どうせ『村人』ではないんだろ?」
俺は、隅田さんの言葉に頷かず沈黙をもって回答とした。
「まぁ、追って書類とか届けると思うから、頭の隅にでも置いといてくれると嬉しいなって話さ。じゃ、私はそろそろ失礼するよ」
と、隅田さんはそれだけ言って帰ってしまった。
「……ありがとう。いちかちゃん」
「うん。また、今日みたいなことがあったら私を頼ってね」
そう言って、いちかちゃんは俺をソファーの隣に手招きしする。そして隣に座ったら、いちかちゃんがゴロンと俺の膝に頭をのせてくる。
膝枕。してもらうのもいいけど、する側に回るのもかなり良い!
「うん。その……これらかもいちかちゃんには頼りたいと思ってるし。だから、その……これからも、一緒にいられると嬉しい、な」
こんなことを言うのになれてなさ過ぎて、途中少しだけ噛んでしまった。大事な台詞で、思いっきし噛んでしまった!!
照れと恥ずかしさで、俺の顔は多分そうとう赤く染まっているだろう。
ここですらりと素直に好きだからって言える格好いい男になりたい。精神耐性仕事してくれ!! もしくは滑舌スキルを寄越せ!
ただ、そんな俺の心中なんて『慧眼』のせいか、一緒にいてきた時間のせいか、お見通しと言わんばかりの表情で、噛んでもつっかえつっかえでも優しく微笑んで
「もちろん、これからも一緒だよ」
いちかちゃんは俺の気持ちを受け取ってくれた。
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