自宅にダンジョンがあった

 レベル105。ステータスはアンデッド・ドラグーンよりかは遙かに弱く。しかしこれ一匹で何千人という単位の一般人を殺せそうな強さがあるモンスター、ゴブリンが俺の部屋の押し入れの中にいた。


 とりあえず『魔力威圧』で気絶させて、魔力で部屋を汚さないように球の形で包んで潰してから考える。


 さて、いちかちゃんを呼ぶべきか否か。


 呼ぶ理由は主に、ダンジョンで得られる経験値の共有と攻略報酬の共有だ。

 いちかちゃんのステータスが上がれば、色んな意味で安心だし。それにダンジョンも一緒に攻略した方が楽しいだろう。


 しかし、呼ばない理由は主に二つ。

 一つは、このダンジョンを見つけてしまった以上一秒たりとも目を離したくないと言うことだ。

 もしゴブリンが一匹でも抜け出せば、この家は疎か文字通り故郷が滅ぶ。


 それに関しては電話を使えばある程度は解決するが、しかしそれ以上に問題があった。


「あんなことがあった後に、呼び出し辛ぇ!」


 ダンジョンが出たから家に来て! って、意味深すぎるし。あんなことがあって、俺も色々悶々としているのだ。正直いちかちゃんと顔を合わせて理性的でいられる自信がなかった。絶対襲ってしまう。

 あるいはいちかちゃんならそれも受け入れてくれるかもという希望的観測はあるけど、やはり13歳でそう言うことをするのは些か問題がある。


 一日置いて呼ぶのも、やはり一晩ダンジョンを放置するのは控えたかった。


 ずっと見張っておくのは疲れるし……とりあえず、ボス部屋寸前の場所まで行って雑魚を駆除してから、明日いちかちゃんとボスを倒せば、攻略報酬だけは共有出来るだろう。

 そんなことを考えながら、俺は押し入れの中に入り込む。


 押し入れの中はやはり穴が空いていて、もの凄く広い洞窟のような空間が広がっていた。ヒカリゴケのような明かりに照らされる、無数のモンスター。

 今までのダンジョンでは特に気にならなかった獣臭というか腐臭のようなものがキツく、俺は自らの周りを魔力で囲んだ。


『ゴブリン』『ボブゴブリン』『ゴブリンロード』『ゴブリンキング』


 ゴブリンキングに至っては170レベルあり、ステータスは通常のゴブリンの5倍以上はありそうだった。ゴブリンキングだけでも30匹。その他雑魚を合わせて、この階層にゴブリンは軽く一万はいそうだ。

 俺はこの階層に自らの魔力を展開し、そのまま魔力で『威圧』した。


 キングに至っても『精神完全耐性』を持っているものはおらず。ゴブリンは基本的に魔力が低いので、気絶させた後に魔力でプレスした。

 ゴブリンの群れが光の粒子になって、魔石や剣、槍、服などの装備品を残して消えていく。


 俺は、魔力で全てのアイテムを回収して、アイテムボックスに収容した。





                 ◇




 自宅に出来たダンジョンは、今まで新潟の震源地に現れたどのダンジョンよりも広く、階層が多く、そして敵が強かった。

 10、20と下に下っていく。敵のレベルも200、300と加速度的に上がっていく。


 と言うか、ゴブリンの時にも思ったけどレベルって99が限界じゃないんだ。


 ドラクエ世代だと、どうしても99がカンストだと思ってしまう。

 まぁ、ステータスが255を上回った時点で、その設定が活きないことは想像に容易いことは否定しないけど。


 そんなこんなで、俺はいつの間にか30階層までやって来ていた。


 如何に敵が強くとも、結局『魔力威圧』『筋力威圧』で大抵の敵が気絶するし、気絶しなくても階層を丸ごと魔力でプレスしてしまえば全ての敵が瞬殺される。

 如何にダンジョンが広く、深くとも、敏捷が70億を超える俺なら次の階層に移動するまで1秒も掛らない。


 30階層に辿り着くのに掛った時間は締め30分くらいだろう。

 何気にアイテム回収が一番時間掛ったような気がする。


 しかし、今まで出てきたゴブリンや狼やアンデッド以外にも、ドラゴンっぽいやつや悪魔っぽい奴に遭遇したり、やはり敵のレベルが高いことが影響するのか剣や槍、果ては鎖鎌など色んな武器や、マント鎧水着などの色んな防具を取得することが出来た。

 素のステータスが高い俺的には武器も防具も無用の長物だけど。


 寧ろ、ダンジョンの存在が周知されてないこの世界じゃ売ることも出来ないし、完全にアイテムボックスの肥やしだけど。

 そんなこんなで、30階層。だだっ広いその部屋にはただ一匹、金色に輝くドラゴンが悠々と居座って昼寝をしている。


 扉がなかった。ボスじゃなくて中ボスなのだろうか?


 しかし、その存在感と威圧感。ぴりぴりと感じさせる強者の気配は、そいつがただ者でないことを物語っている。

 俺は、そのドラゴンを鑑定する。


種族名 ???

名前 ???

体力 ???/凡そ3兆

筋力 凡そ12兆

魔力 凡そ7兆

敏捷 凡そ3兆     ▲

Lv ???

職業 ???

スキル

『体力増強LvMAX』『体力増強Lv32』『体力強化Lv8』『筋力増強LvMAX』『筋力増強Lv78』『筋力強化Lv30』『魔力増強LvMAX』『魔力増強Lv51』『魔力強化Lv22』『敏捷増強LvMAX』『敏捷強化Lv32』『敏捷強化Lv8』『爪術LvMAX』

特殊スキル

『体力自動回復』『魔力威圧』『筋力威圧』『魔力完全耐性』『精神完全耐性』『アルティメットドラゴンブレス』『四元素属性魔法』『魔法完全耐性』『スキル重複』『物理攻撃完全耐性』

称号

『亜神』


 不完全な鑑定結果。???と凡そで表されるステータス。


 しかし、それでも解るあり得ないくらいに高いステータス。

 大量のスキルに、完全な耐性。その上で魔法まで使えるらしい――って、魔法なんてあったんだ。


 これは、文字通り外に出せば世界が滅ぶ。

 おまけに俺よりステータスが高い。


 当然格上だから『威圧』も効かないし、全魔力を圧縮してドラゴンだけをピンポイントで狙った圧殺も効かない。

 俺は初めてだった。自分よりもステータスが高い相手が。

 魔力によるプレスで死なない相手が。


 命が危険に晒されているのに、俺は心が震えていた。俺は強くなりすぎていた。筋トレを重ねて、固有スキル『反復試行』のせいで、無限に伸びていく。成長の限界なんてない。

 それでも、あまりにも他を寄せ付けない力に俺は飽き始めていた。


 でも。初めての格上との戦闘にわくわくしている俺がいた――

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