異変の予兆

 そんなこんなで、二回目のダンジョン攻略を終えた俺たちはいつも通りの生活に戻った。いや、本当にいつも通りに戻れて良かったと思う。

 俺は前回経験してたし、割とすぐになんとかなったがいちかちゃんが大変だった。


 俺が強化系や増強系を伝授して、最初から人並み以上のステータスがあったがためにある程度制御の練習をしていたとは言え、何千倍にも膨れあがったステータスだ。うっかりしてたら寝返りで街が吹き飛ぶ可能性すらある。

 でも、夜までには帰らないといけないから色々と大変だったのだ。

『教授』スキルが上がってなかったら、この世界は終焉を迎えていたかもしれない。


 ダンジョンよりも自らのステータスが恐ろしいとはこれ如何に。


 そんなこんなで、俺たちは普通の中学生に戻った。

 前の人生では、楽しい中学生活を送ったとは言え俺は所謂『陰キャ』に属していた。当時はハルヒとギアスが流行っていて、かく言う俺もハルヒはそれまで使ってこなかったお年玉を叩いて、出ている全巻そろえた記憶がある。

 そんでもって、同じ趣味の友人と批評を語り合ったものだ。


 しかし、今世の俺は彼女持ちである。


 例え俺が常に筋トレをしていて、クラスメートの交友の大半を絶ち、最近は制御も完璧になりつつある威圧も、中一の頃の先生は特に嫌いだった記憶からうっかり漏れ出てしまっていて、前の人生で友人だった奴も近寄って来なくなったけど。

 結局、小学生の頃と変わらず連絡事項はいちかちゃん経由で俺に伝えられるとしても、俺は彼女持ちである。つまりリア充だ。


 唯一の友だちだった幼馴染みが彼女になったので、友だちは0人になってしまったけど、リア充である。

 だからどう、と言うわけではないが。

 最初の頃にむき出しだった威圧も、担任の先生が俺にビビるようになって気が済んだので、完全に抑えるようにしてたら自然と話しかけられるようになった。


 彼女とはどこまで行ったのか、とか。いちかちゃんのどこがかわいいのか、とか。


 どこまで行ったのか、と問われれば「好きだよ」と言い合ったりスキンシップが増えた以外は恋人になる以前とそんなに変わらないのだが、「お泊まりして一緒に寝たよ(嘘じゃない)」と答えたし。


 どこが好きかと問われれば「全部好きだけど、強いて言えば俺だけに見せてくれるかわいい一面かな?」と答えた。

 いちかちゃんには「誤解されるでしょ!」と流石に引っぱたかれたけど、そこは筋力の差18倍。鉄を殴ったようにいちかちゃんが痛そうにしてたのを見て、少し申し訳ない気持ちになった。


 その代償に、クラスメートからはある意味尊敬のまなざしを向けられるようになった。因みに半分くらいは「一緒に寝た」は本当におやすみしただけだと思っている。まぁ、本当におやすみしただけだけど。


 思い返せば俺も前の人生では、性に関する知識がついたのはこれくらいの年齢だった気がする。トイレを覚えた幼稚園生がうんこやしっこで笑うように、この年齢だとそう言った話には一際興味津々なのかもしれない。

 そう言ったことを冷静に思ってしまう自分は、やはり前の人生を経験したおっさんなんだなぁ、と思ってしまった。

 まぁ、変に大人ぶるつもりは毛頭ないけど。


 そんなこんなで、前の人生での経験とこっちで手に入れた『並列思考』『超演算』などのスキルの成果によって、全教科満点を叩き出す結果で期末試験を終えたら夏休みがやってくる。

(前の人生は五科目467点で、15位くらいだった。いちかちゃんは、2問くらい落としたみたいで490点の7位だった)


 去年は受験勉強があったし、それに勇気も出なかったが。今年はいちかちゃんと恋人になってからの二度目の夏休みである。

 もう付き合って一年以上。前世から、片思いだと思っていたけど好き合っていた俺たちだ。


 出来れば、もうワンステップ先の関係になりたい。でも、恋人なんていたことないし、どうすれば良いのか解らない……!

 それに、もうワンステップ先にって思ってるのは俺だけで、拒まれたりしたら軽く死ねる。


 そんなこんなでヤキモキした気持ちを抱えながら、中学生活最初の夏休みが幕を開ける。――夏休み、世界の命運を大きく変える事件が起こるなんて思いもせずに。




                   ◇




「三年前に引き続き、今年も一瞬で潰されてる!! これじゃ、なんの役割も果たせないじゃない!!」


 とある場所にて、ビキニアーマーを来た美少女がバンと机を叩きながら、書類を投げつける。

 それに対して、銀髪の美少年が宥めるように答えた。


「まぁまぁ。……ただ、一人――いや、二回目は二人か。魔力もなく、戦う力も弱い日本人じゃ、あれを一人で潰せる人なんていないと思ったんだけどなぁ」


「……だから言ったじゃない! あんな低ランクのダンジョンなんて出さずに、一気にやっちゃいましょうって!」


「う~ん。でも、あれ以上強いのを出しちゃったら、日本人……いや、地球人の大半が死んじゃうよ」


「うっ、良いじゃない。あの星には70億もの人がいるのです。人口の99%くらい死んだ方が却って良いんじゃなくて?」


「それでも6300万人。つくづく馬鹿みたいに人がいるね。ただ、ボクたちが望むのはあくまで調停であって、殺戮じゃない」


「……じゃ、じゃあ!!」


「問題はたった一人に潰されていることだよ。だったら、一人じゃ対応できないくらいまばらに、沢山用意すれば良い」


「し、しかし。そんな大規模で広範囲に、世界の歪みは生じません」


 翼の生えた、しかしそれ以外は冴えない眼鏡の青年がそう言う。


「そうだねぇ。今までは震源地に生じた世界の歪みを利用してたから」


「でしたら、それは簡単な話です! 世界の歪みがないなら、こちらで歪みを作ってしまえば構いませんわ!」


「自分で、か。震度3クラスなら出来るだろうけど、送れるダンジョンは凄く弱いよ? 大規模だし」


「そうですね。でも、ないよりはマシです」


「ただ、そんだけ弱いのを用意するとなると、例の人間が一瞬で全部潰しちゃいそうじゃない?」


「それなら大丈夫ですわ! かの人間の近くに、この私が直々のドデカいのをお見舞いしてやりますわ!!」


「馬鹿でかい地震を起こすってこと? ……一応あの人間は、来たる日の戦力になると思うし、家とか壊したら変に恨まれてこっちにまで乗り込んできそうじゃない?」


「そんな、人間如きに我らが責められるとでも?」


「……でも、見た感じあの人間。筋力は70億。魔力に至っては30兆はあったよ。素の数値は精々吸血鬼とどっこいどっこいだと思うけど。強化スキルがヤバい」


「70億……30兆!? そ、そんなの亜神……いや、下級神クラスのステータスじゃない! ……人間のくせに末恐ろしいですわね。

 でも、その点は大丈夫ですわ。私が直々に、眷属を送り込みますから」


「眷属!? ……本当に亜神クラスを送るってことかい?」


「ええ。亜神降臨の歪みを利用して、ドデカいダンジョンを打ち立ててやりますの」


「それなら……あの人間が死ななければ、スゴいことになりそうだね」


「ですわね」


 靖の知らないところで、靖に新たな脅威が訪れ始めていた。


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