告白と進路希望
前の人生、一周目の小学生の時の俺は暇があれば教科書を読んだり、勉強をしたりするような所謂ガリ勉だった。
と言うのも、当時の俺はテストと言うものがスゴく好きだったのだ。
勉強をすればするだけ、知識を付ければ付けるだけ、それが点数として表れる。
点数を取るための勉強自体は人によって辛いと感じるのかもしれないけど、集中力には自信があったし、単純に何度も同じ文字を書いたり、計算をし続けたりと言った反復作業が昔から嫌いじゃない俺にとっては苦でも何でもなかった。
そして逆に、あの時からも人間関係の構築はどうしても苦手だった。
今でこそ――と言うか、社会人になり始めたあたりで俺はどうにも人と関わるのが苦手らしい、と自覚しつつ色々と折り合いを付けることも覚えたけど。当時はそうでもなかった。
当時俺は、虐めを受けていた。教科書に落書きをされたり、後ろから跳び蹴りを食らったり、足を引っかけられて転ばされたり。
そんな感じでありきたりないじめを受けて、挙げ句の果てには先生までもがそのいじめを助長するようなことを言い出した。
それで、あいつらと同じ中学に上がるのが嫌で。それに、テストで点を取ることに関してそれなりに自信があった俺は受験を決意した。
したんだが……その二ヶ月後、俺への虐めはパッタリと止んだ。
クラスの誰かが「佐島くんって頭良いよね。志望校もAA判定だったんでしょ? スゴいね!」みたいなことを言ってくれたからだったか、
それともクラス対抗ドッヂボール大会で適当に投げたスロウスピンが、相手クラスの一番強かった男の子をアウトにしたからか、
それとも先生が言い出した長縄の毎日の朝練の実施に対して、受験勉強の時間が減ると猛抗議したからなのか(その結果二日に一回になった)
心当たりがあるにはあるが、別にこれだ! って言うのがあるわけでもなく。俺が何か変わったわけでもなく。ただ、気がついた頃には自然消滅していた。
虐める対象にするには当時の俺は少しアクティブ過ぎたんだと思う。
そんなこんなで、難を逃れてからの小学校生活は割と楽しかった。
楽しかったのだ。クラスメートと昼休みに遊び回ったり、放課後にサッカーしたり。流行りのゲームをしたり。
あの時だけは、普通の小学生をしていた気がする。
そんなこんなで人並みに、交友関係を広げていく中で俺は人生で初めて恋をした。
同じクラスの小林いちかちゃんだ。
クラスメートになんて1ミリも興味なくって、全く見ていなくて。
でも、交友関係を広げていく内に存在に気付いて。めっちゃかわいい女の子いるなぁって思った。
それからはなんとなく目で追うようになっていた。
そんなこんなで隣の席になったりして。喋ったりして。喋ってみたら真面目で真っ直ぐな性格をしていた。それでいて、普通に気さくだった。
ただ、いちかちゃんは今世でもそうだけどあんまり自分から話しかけに行くようなタイプじゃないし、俺も別に自分から人に話しかけるタイプでもなかった。
故に、席が隣になって。まぁ雑談くらいはするけど、そうじゃないときは特になにかあるわけでもなく。
当時の俺のいちかちゃんに対する好意を集約するのであれば、外見が好きだったの一言に過ぎなかった。
中身を殆ど知らない。滅多に話さない。ただ、毎晩夢に見て一日中目で追うくらいには好きだった、超一方的な片思い。
そんなこんなで想うだけで行動することもなく、告白しようとも思ったけど、勇気が出なくて。
気がつけば一年が過ぎていた。
別に当時のクラスメートと離ればなれになりたいだなんて1ミリも思ってなかったけど、なまじ勉強が好きだったせいで普通に受かってしまった。
いちかちゃんのことは好きだけど、それがバレるのは凄く恥ずかしいし。
でも、それ以外の理由で行かない理由は特に思い当たらなかったので、流されるままに違う学校に進学して、結局それ以来完全に疎遠になってしまった。
ありきたりで何もない、俺の初恋の思い出だ。
別に、受験して進学したことに後悔があるわけではない。結果として、同じくらいの学力がある人たちと勉強するのは楽しかったし、気の合う友だちだって出来た。
だから、後悔はないけど、でも未練はある。
中学、高校、大学生、社会人。成長するにつれて想いは色褪せていったけど、それでも偶に思うのだ。
あの時好きだって言っていたら。
あの時「一緒に受験しよう」って言えていたら。俺の人生はもっと華やかで彩りのあるものになっていたんじゃないか、って。
前の人生、二十六年にも及んだ人生は本当になにもイベントが起らなかった。
なにもイベントが起らないままにだらだらと進学の駒を進めていって、高校二年生辺りで勉強が伸び悩んで、モチベーションが続かなくなって辞めちゃって。
ずるずると進学した大学は単位を落としまくった結果中退して。
ブラック企業に入社して、毎日テキストを打ち込むだけの簡単なお仕事を続けていたら、いつの間にか過労で死んでいたようなつまらない人生だった。
中高で友だちがそれぞれ一人しかいなかったから、友人関係のいざこざで頭を抱えたりした経験がない。
恋人だっていたことがない。
確かに今世も、前の人生のように他人を顧みず筋トレをしている。前の人生の『勉強』が今世は『筋トレ』に変化したに過ぎない。
筋トレだって、前世で勉強に伸び悩んだときのように。ステータスが伸びなくなったら飽きて辞めちゃうかもしれない。
例えば大人になって俺は何度も「もっと友だちを作れば良かった」「コミュ力をもっと磨いておけば」と後悔し、やり直せるなら「友だち沢山、コミュ強人生」をと妄想したことはなんどもあるが、いざ生まれ変わってみると「友だちなんていらねぇ! そんなことよりも『筋トレ』だ!」となる始末。
結局人間は死んでも生まれ変わっても性格なんて変わらないし、得手も不得手も変わらない。「もっと勉強しておけば」と言っている大人だっていざ生まれ変わってみれば、本質的には勉強なんて大嫌いだから勉強なんてしないだろうし、やる気があるなら嘆いてないで「何歳からでも遅くない」と勉強してるだろう。
少なくとも前の人生で、俺の親父は六十を超えてから税理士の勉強を始めてた。
でも、前の人生とは違う点が一つだけある。
それは、今回の人生の俺はいちかちゃんの中身を知っている。
幼いときから一緒に居て、いっぱい遊んだし、今世の半分以上の時間はいちかちゃんと一緒に過ごしたと思う。
だから今世の俺はいちかちゃんのことがなんとなくでも、外見だけでもない。
その性格も、優しさも、かわいさも、一緒に過ごした時間分の愛着も。全てを含めて、俺は間違いなく、自信を持って言える。
――俺は、いちかちゃんのことが好きだ!! 一緒の学校に通えなくなるのが、スッゴく嫌だ!!!
いつもの帰り道。
いつもと変わらず俺の手を引いて、下校路を歩くいちかちゃんに俺は言う。
「い、いちかちゃん! 中学校、一緒に受験しない?」
「……ヘタレ」
「え!?」
いや、自分でもスゴく思ったけど。でもいちかちゃんに「好きだ!」なんて告って「いや、靖くんのことはただの幼馴染みとしか思えないの」とかフラれたらいい歳こいてギャンギャン泣き喚くことになる。
今の俺にはこれが精一杯というか……って、え? もしかして、俺の気持ちバレてる?
いや、いちかちゃんは『慧眼』持ちだし知っててもおかしくないけど。
って言うか、知った上で「ヘタレ」ってもしかして脈アリ? だ、だったらやっぱり「好きだ」って告白したいんだけど……
「ま、いいや。靖くん。受験、一緒に頑張ろうね!」
「う、うん……」
しどろもどろになって戸惑う俺にからかうように笑いかけるいちかちゃんは、
「私、靖くんに告白したいことがあるの」
と、言ってきた。
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