幼馴染み強化週間

 中越地震と、突然のダンジョンの出現。大幅レベルアップに伴う、加速度的なステータスの増加。そしてその制御。

 一先ず目下の問題を解決した俺は、いつも通りの日常に戻っていた。


 早起きして、走り込みして。朝ご飯食べた後に際限なく筋トレし続ける俺をいちかちゃんが迎えに来て、登校して。

 授業を聞き流しつつ、魔力の鍛錬をして、休み時間に筋トレして。


 変わったことと言えば、休憩時間や食事の時間を取らなくても『超再生』のスキルによって疲労が魔力によって回復するようになったことだ。

 体力自動回復も相まって、今の俺は完全な疲れ知らずの怪我知らずである。


 そして、放課後はいちかちゃんと一緒に帰る。


 なんかこう小二の時同じクラスになってから、日を増すごとにいちかちゃんとは一緒に居る時間が増えている気がする。

 別に一緒に居るからと言って、一緒に遊ぶわけでもなく。

 いちかちゃんは本を読んだり、俺はその近くで好きなだけ筋トレしたり時たま外に出て走り込みしているだけなので、別に問題はないのだが。


 いや……、俺は何だかんだ未だにいちかちゃんのことが好きみたいで。それ以上に今度の人生では、幼馴染みで、『威圧』の調整がまだ甘い俺の近くに怖がらずに居てくれる唯一の人間だからか。寧ろ居心地は良いし、構わないのだが。


 どうにも心外なことに、俺は先生や両親から「目を離すと何をしでかすか解らない子供」と思われているらしい。

 定期的にいちかちゃんが「靖(佐島くん)から目を離しちゃダメだよ」と言われるのを見かける。

 たった一回、力余ってドアぶっ壊しただけじゃないか。しつこい話である。


 とは言え、そんないつも通りの日々に戻り。筋トレによって頭真っ白にしている俺にも、並列思考のレベルが上がったせいか、思うところもある。


 それは、先日のダンジョンのことだった。


 ボスらしきキマイラ一つとっても、中部地方を滅ぼせるかもしれないくらいの強さがあったし、ナイトメア・ナイトに関しても。俺だからステータスのゴリ押しでワンパンできたものの、あの小柄な体格のせいで戦闘機による排除も難しそうだし、ああ言ったのが今後街とかに現れたら、尋常じゃない被害が出る気がする。


 勿論俺が居る限り、なるったけそう言ったモンスターは倒していきたいと思うし、それはレベルが上がるとステータスが上がるから、とか。人的被害が出ると、俺のライフラインにも支障が出そうだからとかドライな理由が主だけど。

 しかし、これだけ馬鹿げたステータスを持っていても、俺は決して万能ではない。


 モンスターが現れたとしても、以前のように魔力を広く展開している訳でもないし――何ならアイテムボックスにしまっちゃっている影響で、察知できる自信がない。

 恐らく、現状被害が出てニュースにならないと俺は気付くことが出来ないだろう。


 別にだからといって、そのために魔力を世界中に展開して駆けつけたいとか。俺が世界を護るべきだなんて大それた使命感があるわけでもない。と言うか世界なんて知ったこっちゃない。


 ただ、それでも。

 俺が何かしでかさないようにと見張っている意味があるのか、それとも低学年の頃に染みついたくせが残っているのか、俺の手を引いて一緒に下校するいちかちゃんを見る。


 俺は筋トレの次に、いちかちゃんが好きだ。いや、もしかしたら同じくらいかもしれない。

 だからこそ、俺が見ていない間にいちかちゃんがモンスターにやられたりするのはスゴく嫌だなぁって思う。


 俺は、小学一年生の時以来と思われる「お誘い」をいちかちゃんにする。


「ねえ、今日。一緒に遊ばない?」


 いちかちゃんは、珍しく俺から誘ったことに意外そうな表情をしながら。それでも真剣にいちかちゃんを見据える俺に「うん。良いよ」と答えてくれた。




                   ◇



「今日ずっと気になってたんだけど、その馬鹿みたいに高いステータスとかレベルとか、称号ってやつに関係してる?」


「うん」


 いちかちゃんの言葉に、俺は頷いた。

 いちかちゃんが『鑑定』を使えるようになった、と言うか『鑑定』スキルを教えたのは、俺が魔力威圧を習得して、怖がられるようになって。

 それでも「靖くんが本当は良い子だって知ってるから」と励まされた少し後のことだった。


 それ以来、いちかちゃんは俺のステータスを知る――と言うかステータスの存在を知る唯一の人となった。

 固有スキル『慧眼』の恩恵もあってか鑑定の習得はスゴく早かったし、それに伴って特殊スキルも手に入れていた。


 シナジーがあるのか鑑定に関しても今では俺よりも多くの情報が鑑定によって見えている節がある。

 少なくとも、俺がまだ見ることが出来ない固有スキルの効果まで見れるらしい。


 そんないちかちゃんの現在のステータスはこんな感じだった。


名前 小林いちか

体力 360/360

筋力 150

魔力 3250

敏捷 80     ▲

Lv 1

職業 なし

スキル ▼

『柔軟Lv12』『体力増強Lv3』『筋力補正Lv7』『魔力増強Lv24』『演算Lv5』『鑑定Lv50』

特殊スキル『審美眼』『真眼』

固有スキル 『慧眼』


 ……って、あれ? 想像より高いな。

 この前こっそり見たときには、体力も70程度だったし魔力も600くらいだった気が……と、思ってふと俺の称号の効果を思い出した。


『数値の暴力』――自分と『味方』の全ステータスが5倍。スキル的にも俺はいちかちゃんのことを味方だと思っているらしい。

 なんかちょっと暴かれた感があって、小っ恥ずかしい。


 そんな俺を、いちかちゃんはからかうようにクスリと笑う。……流石慧眼持ち。なんか俺の内心も見透かされてそうな気がする。具体的な効果を俺は知らないからなんとも言えないけど。


「そ、それでさ! この前、じいちゃん家に遊びに行ったときのことなんだけど! スッゴい大きな地震があったじゃん!!」


「そう言えば、新潟だったね。大丈夫だった?」


「まぁ震源地から近かったわけじゃないし。精々震度5程度だったから大丈夫だけど――その、震源地にダンジョンみたいのがあったんだ」


「ダンジョン?」


「よく解んないけど、スライムとかゴブリン的なモンスターがわちゃわちゃ居て。一番奥にはめっちゃ強いライオンの化け物が居た」


「へー。つまり靖くんはそのモンスターとかに私がやられたら嫌だから、強くなって欲しいってこと?」


 さ、察しが良いじゃないか。

 これが女の勘という奴なのか。事実いちかちゃんの言うとおりなのだけど、そこで「うんそうだよ」というのはかなり釈然としない。

 例え俺が、前世以上にいちかちゃんのことが好いているとしても、だ。


「き、筋トレは楽しいから。薦めたいってのもあるけどね?」


「それ、殆ど言ってるみたいなものだからね? ま、靖くんがそこまで言うのなら、やってみようかな」


「う、うん! あ、ありがとう!」


「うふふ。でも、簡単なやつでお願いね? 私、か弱い女の子だから」


 か弱い女の子とは言え、俺の親父の4倍は強そうなステータスはあったが。

 それを言うのは野暮って奴だろう。


 とりあえずいちかちゃんは、朝のジョギング1kmと放課後30分くらい魔力を硬くしたり、魔力で負荷を加えながら効果的に腹筋、腕立て、スクワットをするようになった。

 流石にバレエをしているだけあってか、結構筋力はあった。

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