力の制御

 ダンジョンを攻略して最初の入り口に戻っても相変わらず外は暗く、攻略にそんなに時間を要しなかったことに充足感を覚えた。

 称号とか元数値が上がったとか、ダンジョン攻略の際に機会音声に言われた報酬とやらが気になっている。


 さて、今の俺のステータスはどんなものか……


名前 佐島 靖 

体力 1億5867万3740/1億5867万3750

筋力 2728万0750

魔力 66億5794万8000

敏捷 2305万6000     ▲

Lv 45

職業 なし

スキル ▼

『鑑定 Lv34』『敏捷増強Lv86』『体力増強LvMAX』『体力増強Lv8』『筋力増強Lv96』『超回復LvMAX』『超再生Lv16』『並列思考Lv17』『魔力増強LvMAX』『魔力増強Lv84』『農業Lv21』『教授Lv22』『柔軟Lv53』『ダメージ軽減Lv66』『魔力効率増強Lv78』『遊泳Lv60』『魔力強化Lv46』『隠密Lv35』『体力強化Lv19』『敏捷強化Lv16』『筋力強化Lv17』『経験値増加Lv17』『アイテムボックスLv12』『経験値増加Lv25』

特殊スキル

『精神完全耐性』『俊足』『剛力』『体力自動回復』『魔力操作』『魔力吸収』『魔力完全耐性』『魔力解放』『魔力威圧』『超演算』『物理完全耐性』『瞬歩』『縮地』『神速』『加速』『体力吸収』『体力貯蓄』『審美眼』『関節可動域増加』『金剛力』『筋硬化』『筋力威圧』『阿修羅』『スキル重複』『体力自動回復』

固有スキル『反復試行』

称号『蹂躙する者』『数値の暴力』



 自分のステータスを見たとき、俺は開いた口がふさがらなかった。


 体力一億五千万!? ……いや、魔力の六十六億に比べればそんなでもないけど、しかし魔力は相変わらずすぎて逆に気にならなくなっていた。

 しかし、体力一億五千万って……やはり、『増強』がカンストして二つ目になると桁も違ってくるか。

 それによく見れば特殊スキルの『体力自動回復』が一つ増えてるし。


 あれ、一秒で1%回復するのが二個だから俺って毎秒三百万も体力を回復するってことか? ますます意味がわからん。


 筋力の2700万と敏捷の2300万も相当なんだろうけど、最早高すぎる体力と魔力の前に霞んで見える。

 俺の感覚も大分バグってきたが、並の人間の体力は100を越えないのだ。


 それに筋力一つとってもエクストラボスのナイトメア・ナイトを優に越える300倍――今なら鼻息一つでナイトメア・ナイトが消し飛びそうだ。

『超演算』から逆算して、スキルの補正が乗らない元の数値を求めると体力、筋力、敏捷が6550。魔力に至っては13320。

 感覚がおかしくなって解りにくいが、6550って、ダンジョンに入る前の俺のステータスとそんなに変わらないんだよなぁ。それが2700万って……。


 こんなに高すぎるステータスだと絶対に起こりうる問題が頭を過ぎったが、とりあえず棚上げして、気になっていた『称号』を鑑定によって詳しく見ていくことにする。


『蹂躙する者』――自分よりも遙かにステータスで劣る相手を、一匹残らず蹂躙した者に与えられる称号。所有者と敵対した相手のLv10を下回る全てのスキルを封殺し、更に所有者よりも低いステータスを全て半減させる。


 なんだこれ。Lv10以下のスキルを封殺とか、俺よりステータスが低い相手を更に弱体化させるとか、あり得ないくらいに弱い者いじめに特化した称号だった。

 いや、発動条件はあるけどデメリットないし。馬鹿高いステータスを持つ俺にはかなりうってつけの称号だけど。


 しかしこう、あの機会音声に貶されているような錯覚を覚える。


 もう一つのは……


『数値の暴力』――エクストラボスをステータスの高さによるゴリ押しだけで倒した者に与えられる称号。所有者と所有者の味方の全ステータスを5倍にする。


 これまた凄まじいスキルである。

 特に、自分だけでなく味方のステータスまで5倍にする……しかもこちらは、発動条件なしで、だ。シンプルにステータスを底上げしてくれる分、もの凄く強力だ。

 ステータスの高さによるゴリ押しだけで、の一文がもの凄く気になるが。


 この称号が、あの馬鹿高いステータスを更に馬鹿げた数値にするのに一役買ってくれているのは事実である。


 あとは、新スキルか。


 まずは『超回復』がカンストして新たに得た『超再生』――超回復は、食べることによって、更に強くなって回復するスキルだが、超再生はこれを魔力によってなすことが出来るようになるスキルらしい。

 魔力が筋繊維に浸透して筋繊維が更に丈夫になるとかなんとかで、回復して強くなる、の部分も健在だ。

 まだ得たばっかりでレベルも低いが、魔力の数値は桁違いだし、これからスゴく役立てていけるだろう。


 ……これ以上強くなってどうするんだ、って話ではあるが。

 こればっかりは趣味だから辞められそうもない。


 そして次に『経験値増加』――Lvが1上がるごとに取得経験値10%増加、だそうだ。俺はLv17のやつとLv25のが重複しているから、通常の4.25倍のペースで経験値が入ってくるらしい。

 レベル75の奴とかと戦って、45までにしか上がらなかったけど……4.25倍でこれなら結構レベルアップ効率はしょっぱいな。


 って思ったけど、このレベルの大半はエクストラボス討伐の報酬で貰ったことを思い出した。実際に掛っていた補正は精々1.2倍。

 下層でも雑魚モンスターはLv30が精々だったしそんなもんかと納得する。


 そんなこんなで、現実逃避気味な称号とスキルのチェックを終えた俺は再び、馬鹿みたいに――それこそ、数時間前に比べて一万倍近く上がったステータスを眺めながら、恐ろしい現実に直面する。


「(う、動けない)」


 目の前にあるのは、かつてダンジョンだったものの残骸。

 俺が攻略したからなのか、それとも馬鹿高いステータスによって歩いただけでこの有様になってしまったのか。

 まぁ、多分両方だ。帰りがけ、まるでウエハースの上を歩いているみたいな感覚だったし、後者もなきにしもあらずって感じだ。


 しかし、この強すぎるステータスに対する対応策がないわけではない。


 と言うか、ダンジョン攻略前の6500のステータスだって親父の100倍だ。相当高い。にも関わらず、俺は日常生活でドアを壊したり、床を踏み抜いたりなんてポカをすることは、極々偶にしかない。


 それは今までずっと『魔力』によって、ステータスを制御していたからである。


 筋力に負荷を掛け、敏捷に重しを着ける。

 それは、自らの強大な力を封印する魔力の枷である。実際は、魔力操作によって硬くした魔力を自らの肉体に巻き付けていく。

 それは、使用する力とは逆ベクトルの力を半自動的に流す強大な枷。


 この枷の素晴らしい点は、どれだけステータスが高くなろうとも魔力がある限り、いくらでも有効な筋トレが出来る点である。

 つまり、どれだけ数値が馬鹿げたものになっても100回の腕立て伏せでかなり疲れることが出来るのだ。


 規模が四千倍になったから、出来るかどうか不安だったけど……出来た!!


 あとは、北極に行けば魔力威圧によって北半球の人間を丸ごと気絶させることが出来そうな魔力量だが、それも魔力操作によって魔力を圧縮する。

 そして、その圧縮した魔力をLv12になったアイテムボックスに放り投げた。


 Lv12……Lv1ごとに魔力×1/10だから、今は魔力量の1.2倍。

 別に使われる魔力が封印されるわけでもないし、俺の魔力量は結果的には変わってないのだが、常に世界中に展開され続けていた俺の魔力が全てアイテムボックスの中だけのものになったのだ。


 割と今更だけど、魔力が人体にどんな影響を与えるか解らないし。あるいは今度の中越地震の震源地で出現したダンジョンも、もしかしたら俺の魔力に原因の一端があるのかもしれない。

 そうでなくとも、このあふれ出る魔力はどうにかしたかったのも事実だ。


 俺は新スキル『アイテムボックス』の有用さを再認識しながら、とりあえず、上がりすぎたステータス問題はある程度解決したことに安堵する。


 ……っと、そんなことをしているうちに空が少しだけ明るくなってきた。

 朝起きて俺が居なければ、流石に両親も祖父母も心配するだろう。


 そんな、今更な気遣いを見せつつ。人知れず、世界を救ったりした俺は、祖父母の家に帰るのであった。

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