世界初の侵入者

 ゴブリンを踏みつぶし、軽くステータスを確認していると頭の中でファンファーレのようなものが鳴り響いた。


《この世界で初めてのレベルアップが確認されました。特典として『経験値増加Lv1』が与えられます》


 なんだ? そう戸惑いながら、それでも足を進め。俺は、この震源地にあった不思議な孔の中に足を踏み入れた。

 そしたらまた、同じようなファンファーレが脳内に響く。


《この世界で初めてのダンジョンへの侵入が確認されました。特典として『鑑定Lv1』と『アイテムボックスLv1』が与えられます。エラー。『鑑定Lv1』は特殊スキル『スキル重複』の効果を受けられません。よって『鑑定Lv1』は『鑑定Lv24』に統合されます。『鑑定Lv24』は『鑑定Lv26』になりました》


 聞いたことのない声だった。


 しかし、どこか聞き覚えがあるような。懐かしい感じのする声でもある。

 まぁ恐らく、この懐かしさはこの声の主が合成した機械音のようで、前の人生でかなり慣れ親しんだSiriさんの影響かもしれないけど。

 そんなことを思いながら、俺は世界初の侵入者として。震源地に突如として現れた孔――ダンジョンに足を踏み入れて行った。




                    ◇




『ゴブリン』『コボルト』『スライム』


 Lvが3~7に散らばる魔物――Lv3のスライム一つとっても、俺の親父よりは高いステータスを持つそいつらを『魔力威圧』で気絶させ『魔力硬化』で固めた魔力によって圧殺する。

 すると、この階層にいた魔物は全て煙のように消滅し、後にはドロップアイテムと思わしきものだけが残っている。

 それは最早圧倒的……蹂躙と称するのすら生易しかった。


 俺はダンジョンを適度な速度で歩きながら、魔物を倒したことで散らばった赤い宝石のようなもの(鑑定で『魔石』と出た)を拾っていく。


 こうやって、魔石を拾い続けてると思い出すなぁ。


 それは前の人生の時の、5歳の頃。幼稚園のイベントでやった芋掘りがそれなりに楽しかった記憶として残っていた俺に、両親が畑の手伝いとして「芋掘り」と言って手伝わされたことがある。

 しかし、その芋掘りはスコップで芋を掘るなんてものではなく、親父が鍬で掘り返したさつまいもをただひたすらに拾い続ける作業だったのだ。


 芋掘り改め芋拾いは最初こそ期待外れだと落胆したもののやってみればこれはこれで悪くなかった。

 ずっと腰を曲げないと行けないから身体が痛くなるけど、でもやっている内に頭が真っ白になって、なにも考えられなくなるのだ。

 その感覚が嫌いじゃなく、思えば俺が単純作業に目覚めたのはあの時かもしれない。


 そんなことを思い出しながら魔石を拾い終えた俺は、更に下の階層に進む。


『スライム』『ゴブリン』『オーク』


種族名 オーク

名前  なし

体力 323/332

筋力 312

魔力 12

敏捷 28     ▲

Lv 14

職業 なし

スキル なし


 オークのレベルが14もあって、ちょっと強い――と言うか、親父五人がかりでも返り討ちに遭いそうな強さではあるが、如何せん魔力が低い。

 俺は『魔力威圧』によって、二階層の全ての魔物を気絶させ、魔力で圧殺した。


 しかし、このダンジョンが何回層まであるのかは解らないが一々魔石を拾うのは面倒だな。タイムロスも大きい。

 出来れば、朝までには祖父母の家に戻ってみんなを心配させたくないのだ。

 心配させたくないだなんて思っても、気絶するまで走るような俺だし、今更かもしれないけど。


 かといって、この魔石を放置するのはなんかよろしくないような気がした。


 そこで、俺は少し試してみることにした。


 硬化させた魔力を一度柔らかくして、魔石を透過しつつダンジョンの地面すれすれに膜状の魔力を張り巡らせ、また硬くする。

 そしてそのまま魔石を魔力で包み込んで――出来た!!!


 魔力の膜で包んだ魔石をそのままアイテムボックスに入れた。


 Lv1だからそんなに期待してはいなかったけど、詳しく鑑定してみるとどうやら『アイテムボックス』は魔力の数値に応じて容量が決まるらしい。

 その体積は魔力量×Lv/10m³――さっき見た俺の魔力量は1346400だったから容量にして一億三千万リットルくらい……ほぼ無限とまでは言わないけど、学校一つくらいなら飲み込めそうな容量だ。

 Lv1にして凄まじいが、凄まじいのは『アイテムボックス』と言うより俺の魔力の数値である。


 実際、その馬鹿げた数値のおかげで初めてのダンジョン攻略も『魔力威圧』して、魔力で圧殺して、魔力で石拾いみたいな単純作業になっているのだが。

 俺は深く考えるのを辞めて、魔力負荷による筋トレをしながら更にダンジョンの奥に進むことにした。


 3階、4階、5階……10階と、終盤Lv30台の魔物も出てきたにも関わらず、結局ただの一匹たりとも俺の魔力威圧の前で気絶しなかった強者は居なかった。

 いや、実は『魔力耐性』スキル持ちが何匹かいて、気絶しなかった強者も居たには居たのだが、硬化した魔力で気絶した魔物諸共圧死しちゃったのだ。

 結果として同じである。冷静に考えれば、一々威圧で気絶させる意味はさほどなかったかもしれない。


 そんなこんなで、11階。


 そこは今までの階層の雰囲気とは打って変わって、大きなライオンのような化け物の絵が描かれた扉がドンと聳え立っていた。

 俺は、その荘厳な構えに息を呑みながら、その扉を開ける。


種族名 キマイラ

名前 なし

体力 2万7255/2万7452

筋力 2万8990

魔力 5500

敏捷 720     ▲

Lv 60

職業 百獣王

スキル 『爪術Lv15』『体力増強Lv25』『筋力増強Lv17』『魔力増強Lv8』『敏捷増強Lv4』『魔力耐性Lv9』

特殊スキル『体力自動回復』『筋力威圧』『精神完全耐性』


 そこには、扉の絵に描かれていたような蛇の尻尾を持つライオンの化け物が居た。


 れ、レベル60!? それに、体力と筋力の数値が、もの凄く高い。

 こんなの、外に出してしまったらそれこそ新潟県が――いや、その隣の県までもが滅んでしまう!!

 日本で唯一食糧自給率が100%近くある米の生産日本一のこの県が滅べば、被害は日本全国にも及ぶだろう。

 しかし、そんな強敵を前に俺は割と余裕綽々だった。


 なにせこのキマイラ、魔力が俺の魔力に比べて1/100以下なのだ。俺はふっと笑いながら『魔力威圧』をする。気絶させれば、どんなに強かろうと関係ない。

 しかし、キマイラは「ぐるるぅ」と吠えるばかりで聞効いている様子はない。


 そこで俺はキマイラのある一つのスキルに気付く。


『精神完全耐性』精神力でこらえることが出来るから、魔力威圧による気絶から逃れることが出来たんだ!!

 気絶させることが出来ないのであれば話は変わってくる。


「なんとしても、こいつを外に出すわけにはいかない……っ!」


 俺は鍛えている。何故鍛えているのか、それは楽しいからに過ぎず。きっとこれからも『趣味』以上の意味なんて見出すことはないのだろう。

 でもっ……!! ここで、こいつを倒せないなら鍛えている意味がない!! それだけは間違いなく言える。


 俺はキマイラと戦う――

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