災厄の日

 俺が若返ってから約四年、2004年10月23日土曜日。この日付を聞いてピンと来る人も居るのではないだろうか?

 忘れもしない。中越地震の日である。


 前の人生の時も、俺は丁度小学四年生で。その日は土曜日だと言うことで、いつものように畑仕事を手伝うため、両親の付き添いで新潟にある祖父母の家に帰省していた。そんな日の夕方のことだった。

 震度五にも及ぶ、強烈な揺れ。9段目を作り終えたトランプタワーが崩れて号泣した記憶がある。


 まぁ、震源地は震度七を越えて大変だったらしいが。少し離れてしまえばこんなものである。

 かく言う俺もついさっきまで忘れていて、夕方五時半頃。急に凄い揺れを感じたので「そう言えば……」と思い出したのである。


 因みに、今も前の人生と変わらず俺は祖父母の家に来ていた。


 流石に俺も、精神年齢は二十六歳(こっちに来てから四年くらい生きてるけど、精神年齢自体は上がってないどころか下がっている気がする)だし、トランプタワーが崩れて号泣するなんてポカはしない。

 精々腕立て伏せのバランスを崩して、畳に頭をぶつけた程度である。


 そんな折りのことである。俺は、途轍もない危機感……いや、違和感のようなものを感じた。

 数値にして100万弱になる魔力は、新潟県を覆うくらい余裕な広範囲に展開されている。前の人生で震源地だった場所で、何か魔力に引っかかるものがあったようなそんな気がするのだ。


 震源地だからなのかもしれない。でも、なんかそれとは違うような……。


 どうにも腑に落ちない感覚を覚えながら、俺は体勢を立て直し、腕立て伏せを続けていた。


「やすし、大丈夫か?」


「う、うん!」


 心配して俺の様子を見に来たお爺ちゃんが、尚も腕立て伏せを続ける俺をおかしな子を見る目で見て来る。

 流石に地震の直後だ。いきなり外に出て行ったら心配されるだろうし、それに何も確証があるわけではない。


 俺はもやもやとした気持ちを抱えたまま、早めに眠りに就くことにした。




                   ◇



 深夜、両親と祖父母が眠りに就いた頃。俺はムクリと起きた。


 晩ご飯も食べず、地震の直後に「なんか疲れたから今日は寝るね」なんて言ってもの凄く不審がられはしたものの、まさかそれが地震の直後に外を出歩こうって魂胆だとは思うまい。

 前の人生でも「――って話があって、馬鹿な子が居るなぁって思ったらまさかの私の息子だったの!」って話を母親に何度もされる羽目にはなったが、今世は精々酸欠になるまで走るか、大車輪ミスって頭ぶつけるか、吐くまでタンパク質をとったことくらいしか馬鹿っぽい行動はしていない。

 あれ? 俺、もしかしてそうとう頭悪い?


 そんな気付いてはいけないことに気付いてしまったような感覚に陥りながらも、気を取り直してそろりそろりと外に出た。

 隠密スキルのレベルは22。起こして気付かれるようなヘマはしない。


 そして俺は常日頃、全力疾走して50m6秒程度の速度に押さえ込んでいる魔力の枷を解放し、敏捷の数値にものを言わせた音速を超えるスピードでさっき魔力の違和感があった震源地の方へ走って向かった。

 距離にして50km。ソニックブームで起こる轟音を魔力で押さえ込みながら走っても3分も掛らない。


 その震源地は、いつかニュースで見たことがあるそれとは大きく異なっていた。


 地割れが起っているわけでも、家が崩れているわけでもない。

 そこにあったのは大きな山で、穴だった。その穴の前をうろつくのは緑色の肌を持つ、身長は俺と同じくらいの、醜悪な小人。


 獣の皮のようなもので作られた腰布を巻くその化け物を鑑定してみると、そこにはファンタジーでおなじみの名前が表示されていた。


種族名 ゴブリン

名前  なし

体力 82/84

筋力 72

魔力 17

敏捷 47     ▲

Lv 5

職業 なし

スキル なし


 Lv5!! レベルが1じゃない人――人と言って良いかは微妙だが、しかしレベルが1じゃない生物を見るのは初めてだった。

 その上、スキルがただの一つもないにもかかわらず、ステータスの値が全てにおいて親父より高い。


 知能や体格差があるからそのキリじゃないかも知れないが、しかし平均的な成人男性を上回る身体能力は脅威に感じられた。

 もし、これが街に繰り出したりしたら。


 なぜ、中越地震の日にこんな化け物が出たのか。どうして、変な穴があるのか。どうして俺はスキルを見えるようになったのか。


 6歳に戻ってから解らないことの連続だ。

 努力が数字として実を結ぶのが楽しくて。それこそ、ゲームのレベルを上げるように。いや、ゲーム以上に自分に密接に関わっている分、楽しくて。鍛え続けたのもただ、俺が楽しいからと言う理由でしかなかった。


 鍛えても鍛えても、魔力を合わせれば、その気になれば軍隊すら滅ぼせそうだなぁと思ってた力だけど。使うタイミングなんてないと思っていた。

 無駄なものだと思っていて、趣味の域を出ることは出なかった。


 でも思うのだ。俺が、26歳だった俺が脳卒中で死んで。6歳に戻って、スキルが『鑑定』によって見えるようになったのは、この場に居合わせるためじゃないのか、と。目の前の脅威を振り払うためじゃないのか、と。


 そう思ったらワクワクしてくる。


 使えないと、使う機会がないと思っていた力。でも、人間鍛えた力はどこかで試したくなるものだ。


「手始めに――『筋力威圧』」


 筋肉をぴくりと動かして、ゴブリンを威圧する。ただそれだけで、ゴブリンは震え上がり、気を失う。それを、俺は軽く踏みつぶしながら現れた穴の中に足を踏み入れて行く。


名前 佐島 靖 

体力 1万3575/1万3575

筋力 9900

魔力 134万6400

敏捷 9900     ▲

Lv 2

職業 なし

スキル ▼

『鑑定 Lv24』『敏捷増強Lv64』『体力増強Lv72』『筋力増強Lv64』『超回復Lv82』『並列思考Lv7』『魔力増強LvMAX』『魔力増強Lv32』『農業Lv11』『教授Lv12』『柔軟Lv42』『ダメージ軽減Lv38』『魔力効率増強Lv42』『遊泳Lv50』『魔力強化Lv22』『隠密Lv22』『体力強化Lv5』『敏捷強化Lv4』『筋力強化Lv4』

特殊スキル

『精神完全耐性』『俊足』『剛力』『体力自動回復』『魔力操作』『魔力吸収』『魔力完全耐性』『魔力解放』『魔力威圧』『超演算』『物理完全耐性』『瞬歩』『縮地』『神速』『加速』『体力吸収』『体力貯蓄』『審美眼』『関節可動域増加』『金剛力』『筋硬化』『筋力威圧』『阿修羅』『スキル重複』

固有スキル『反復試行』


 俺も、人生で初めてレベルが上がった。


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