スキルが見えた二度目の人生は超余裕、初恋の人と楽しく過ごしています

魔力負荷トレーニング

　魔力は気にしなければ視認できないけど、質量も感触もある――物質である。

　故に、今まではこねくり回したり揉んだり動かしたりしてトレーニングをしていたが、魔力増強がＬｖ５になった影響か俺は遂に魔力に座れるようになった。

　座れるからどうって訳でもないが、魔力が見えない人からすれば俺は某尊師のようにちょっと浮いて座っているように見せることも出来るだろう。

　過去に戻ったせいで容疑者もまだ全員捕まってないし、ブラックジョークだな。

　閑話休題。

　つまり、俺が言いたいのは、俺の魔力は俺の体重を支えられるくらいには硬く丈夫になった。

　ならば……それを筋トレに利用しない手はないだろう！！

　魔力負荷トレーニング。

　俺が名付けたその筋トレは、つまり魔力によって鍛えたい部位を加圧したり、特定の部分に負荷を掛けて効率よく鍛えようって計画だ。

　例えば、腕立て伏せの時に上から圧を加えたり、スクワットの時に膝が痛まないように保護したり、腹筋の時足が動かないように固定したり、あるいは走っているときに魔力で加速したり、逆に走りにくくしたりと、色々と活用できるだろう。

　特に今は夏休みだからそこまで関係ないが、学校が再会したら授業時間に筋トレも出来るようになるから、大いに役立つだろう。

　そのためにはより強い負荷を掛ける必要があるため、とりあえず実験だ！！

　俺は全身に魔力を纏わせて、動きたい方向とは逆ベクトルの負荷を掛けるところから始めた。

「お、おぉ。なんか変な感覚だ！！」

　例えるなら、そう。まるで水の中を走っているような。しかし濡れたりはしない。そう言えばどっかの兵隊が水の中を歩く訓練をすると聞いたことがあるが、なるほど確かにいつもより疲れが大きいかもしれない。

　しかし、人間というものは業が深いもので。

　初めての魔力を使ったトレーニングが楽しすぎて俺は、全身の筋肉が痙攣してぶっ倒れるまで公園を暴れ回り続けたところを、帰りが遅いと心配して探しに来た親父に回収された。

　なんでお前は倒れるまで続けるんだよ……と、親父が泣いたので少し申し訳ない気持ちになった。

　でも『超回復』のお陰で筋肉痛にはならなかった。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　◇

　小学校一年生なので夏休みの『自由研究』の宿題は出なかったのだが、代わりに俺は『筋トレの合間の休憩時間をどうすれば減らせるか』をテーマに研究していた。

　と言うのも、最近筋トレをする際に魔力で負荷を掛けることを覚えたことで、殆ど一日中魔力のトレーニングをしていることになるのだ。

　筋トレ中や、休憩時間は勿論。いちかちゃんと遊ぶときだって、走り回ったり、砂の山を作ったり秘密基地を作ったりするときだって、大体は魔力をうにょんうにょん動かしながらしているのだ。

　そのせいで俺のステータスはこうなった。

名前　佐島 靖　

体力　５２/６４

筋力　５６

魔力　８４

敏捷　５６　　　　　▲

Ｌｖ　１

職業　なし

スキル　▼

『鑑定 Ｌｖ６』『敏捷増強Ｌｖ５』『体力増強Ｌｖ６』『筋力増強Ｌｖ５』『超回復Ｌｖ７』『演算Ｌｖ９』『精神耐性Ｌｖ８』『魔力増強Ｌｖ９』『農業Ｌｖ４』『物理耐性Ｌｖ３』『教授Ｌｖ３』『柔軟Ｌｖ２』

固有スキル『反復試行』

　そう。魔力増強だけが頭一つ抜けてしまったのだ。

　夏休みの、たった一ヶ月程度でこれなのだ。このままでは俺は魔力に能力が偏りすぎてしまう！ それが悪いこととは言わないけど、でも、あんまりバランスが偏るのは気分的に頂けないのだ。

　魔力は、実在するし質量もあるから筋トレにも使えたりするんだけど……それでも前の人生で２６年間、魔力に頼らず活きてきたからか、どうにも信用できない。

　故に、やはり全ての資本である肉体を鍛えておくに超したことはないと思うのだ。

　そして俺は、鍛える度に訪れる疲労を一気に回復する方法を思いついていた。

　それはスキル『超回復』を利用して、筋トレによって損耗した筋肉を無理矢理治し疲労を誤魔化す手段である。

　何かもう寿命とか縮みそうな手法だが、上手く行けばこれまで以上の効率で鍛えられるかもしれない。

　そして、筋肉の損耗を回復するにはタンパク質を取るのが一番だろう。

　理想的なのはプロテインだが、まぁそんなものは家にないし。仕方がない。ゆで卵で代用しよう。

　俺は、鍋でお湯を沸かし、家にあった１０個パックの卵を全て鍋に投入する。

　俺はどこまでも、鍛えた分がレベルとして数字として表れるこの快感の虜になっていた。

　俺は、魔力で負荷を強くしながらゆで卵が出来るまで自重トレを繰り返した。

　ゆで卵を作る前に一時間走ってきたこともあって、筋肉が悲鳴を上げている。つい最近、二時間走っても息が切れなくなっていたから、やはり魔力は偉大だった。

　三十分、従来のものとは比べものにならない負荷によって全身が痙攣しているかのように力が上手く入らない。

　俺は、そんなふらふらの身体を引きずってゆで卵を一つ一つ剥いていく。

「熱っ！！！」

　手が火傷するが、まぁこれも超回復で治るだろう。

　俺は剥いていったゆで卵を一つ一つ食べていった。味は塩だったりマヨネーズだったり醤油だったりで変化を付けながら、１０個全部食べきった。

　１０個食べきった頃には

「おぉ……やっぱり疲れが取れてる！！」

　しかし、この方法にはいくつか欠点がある。

　一つは、金銭的問題。全身疲労を癒やすためには、やはり卵１０個は欲しい。そうなると一パック１５０円とは言え、子供のお小遣いでは買いそろえるのは難しい。

　そして、これが一番重要なのだが二つ目。卵ばっかだと飽きるのだ。

　確かに『超回復』のお陰で疲れはとれた。でも、正直ゆで卵を１０個食べた今の時点で結構気分が悪かった。

　何というか、途中から白身の食感というか風味が気持ち悪くなってくる。

　多分、卵ばっかり食べていたら三日で飽きるだろう。

　そんなことを考えながら、３０分の魔力で負荷を掛けた筋トレをして今度は冷蔵庫の中にある鶏肉を焼いて食べる。

　鶏肉は中々に悪くないが、これは卵以上にコストが掛る。

　大体一回で４００円分くらい食べないと回復しないのが考え物だ。

　それに、回数を重ねるごとにこれも飽きてきそうだった。

　次に豆腐。

　豆腐は３丁で回復する。卵ほどじゃないが２１０円で全快するので、コスパ自体は悪くないが、冷たいし、お腹が冷える。

　一々湯がけば良いか。最有力候補は今のところ豆腐か。

　最後に牛乳。これは１Ｌで回復する。これも味は悪くないし、毎日飲むのが苦痛な感じでもない。強いて言えば、お腹がたぷんたぷんになって筋トレ中に吐きそうになってしまうことだった。

　食べることで『超回復』が発動し、回復するわけだが食べたものが消えるわけではないらしい。

　超回復が、食料を消費しているわけじゃないのか。それとも、全てを回復として変換できるわけではないのか。

　どちらにせよ、言えるのは阿呆みたいに食って殆ど休憩を挟まずにハードな無酸素運動を繰り返せば、人間は吐くと言うことである。

　冷蔵庫の食料を空にして、トイレでゲロを吐きまくっていたら、比較的温厚なお母さんにひっぱたかれた。

　相談したら、俺が毎日阿呆みたいに走ったり筋トレをしていることを知っている両親がプロテインを買ってくれることになったのは吉ではあるが。

　それでも、今日のような考えなしのトレーニングは禁止されたことを考えればプラマイ０かもしれない。