足りなかったもの

「この度は、大変お世話になりました。あの時、助けていただかなければ今頃僕はどうなっていたことか。感謝しても仕切れません」


 全治一日の怪我を治して退院してすぐに、親父と一緒に小林さん家にお礼を言いに行く。親父が一通り感謝を伝えた後に「ほら、靖。お前も言うことあるだろ」と言われたので、こう言ったら親父にギョッとされた。


「あらあら、スゴく賢いお子さんなのね」


「賢い? ……靖が?」


 失礼な。これでも前の人生では大学までちゃんと卒業してるんだぞ!!


 大卒なのに、大車輪で頭打っていたら仕方がないし、そもそも日頃の行いが良いという自覚もない。うん、自業自得だな。


「そうだ。折角いらっしゃったんだし、お菓子でも食べていかない?」


「いえ、そんな……「食べる!!」おいっ!」


 断りを入れようとした親父に割って言う。

 そんなこんなで、いちかちゃん交えてお菓子を食べたり。食べた後、トランプとかで皆で遊んだりして、最後は「明日また遊ぼうね」と約束まで取り付けた。

 これは最早幼馴染みなのでは? ……ちょっと光源氏みたいだなぁとか思いつつ、帰りがけに筋トレと走り込みしようとしたら「治ったばかりなんだから少しは大人しくしとけ!」と親父にひっぱたかれてしまった。




                    ◇




 今日も今日とて朝六時に起きて、二時間ほど走り込んだ後に朝ご飯をかき込み、一昨日いちかちゃんと会った公園に行く。

 ドラゴンフラッグをしたり、懸垂をしたり、スクワットをしたり。

 疲れたら魔力を練ったり、公園に居る人を鑑定で観察したり。


 そんなこんなで更に二時間後、いちかちゃんが公園に来る。


「やすしくん! ……それ、何?」


「あ、いちかちゃん。それなにって……え、これ見えるの?」


 いちかちゃんが来たとき、俺は丁度魔力で遊んでいたところだった。

 液体状の魔力を纏めたりしながら、その辺を転がしてみたり、ナメクジのように這わしてみたり、座ろうとしたら硬さが足りなくて尻餅着いてみたり、自分の全身に纏わせてみたり。


「見えるのって、なんで? その薄紫色の変な奴、なんなの?」


 マジで見えてる。ワンチャン、魔力操っている俺の行動が不可解で指摘されただけで、墓穴掘った説もあったけど、やっぱりちゃんと見えていた。

 流石固有スキル『慧眼』持ち。それこそ正に慧眼である。


 しかし、まぁある意味丁度良いかもしれない。

 遊ぼうとは言ったものの、正直小学校一年生の女の子と何して遊べば良いのかよく解んないのだ。思い返せばおままごとも子供っぽいとかいってやらなくなるのがだいたいこの時期だった気がする。


「これはね、魔力って言うんだよ」


「まりょく? まほーでも使うの?」


「いや、解んない。でもまぁ、やってみる?」


「やってみる!!」


 そう来なくっちゃ!!

 



                  ◇




 魔力について教えるのは、とても簡単だった。


 何せ、いちかちゃんは最初の頃の俺のようにもの凄く集中しなくても魔力を視認することが出来るみたいだし、理解力もかなりあるっぽいのだ。

 例えば「胸の奥に揺れる灯火見たいのがあるでしょ? 最初はそれを揺らしてみるんだ」って教えたら、三秒で「出来た!」って返ってくるし、一瞬で『魔力増強』を手に入れてはその魔力を俺ほどじゃないにしても、液体状に持ってきていた。


 なんだそれ、チートかよ。天才かよ。


 俺が半年以上駆けて鍛え上げたスキルを、いちかちゃんはものの数分で取得してしまった。そのことに軽くムッとしながらも、やはり彼女のことが何だかんだで好きなのか、それ以上に嬉しさを感じてしまう。

 いや、この嬉しさは娘の成長を喜ぶおっさんのそれだわ。


 に、二十六歳ってまだおっさんじゃないよな!? お兄さんって言って貰えるよな!?

 そんなこんなで三時間ほど魔力で遊んだいちかちゃんのステータスがこれである。


名前 小林いちか

体力 15/15

筋力 6

魔力 36

敏捷 5     ▲

Lv 1

職業 なし

スキル ▼

『柔軟Lv1』『体力補正Lv1』『筋力補正Lv1』『魔力増強Lv2』

固有スキル 『慧眼』


 凄まじい成長速度だが、あるいは『魔力増強Lv4』を持つ俺を見て習得したからこんなにも凄まじい成長をしたのかもしれない。

 つまり、それこそがユニークスキル『慧眼』の本領なのかもしれないのだ。


 だとしたらスゴいな、慧眼。実質的な能力コピー。超速ラーニング。

 本人の地頭の良さも関係しているのかもしれないけど、しかし、それでも凄まじい能力だ。俺の『反復試行』と交換して欲しいまである。


 因みに、いちかちゃんと遊んで家に帰った後の俺のステータスはこれだった。


名前 佐島 靖 

体力 23/49

筋力 42

魔力 49

敏捷 36     ▲

Lv 1

職業 なし

スキル ▼

『鑑定 Lv6』『敏捷増強Lv3』『体力増強Lv5』『筋力増強Lv4』『超回復Lv6』『演算Lv9』『精神耐性Lv8』『魔力増強Lv5』『農業Lv4』『物理耐性Lv2』『教授Lv2』『柔軟Lv1』

固有スキル『反復試行』


 人に教えるためには、自分もかなり理解していなければならないと言うが、それによって『教授』を得た上に『魔力増強』のレベルも一つ上がった。

 それに、「魔力を教えてくれたお礼にバレエを教えてあげる」と言われて、やってみたら『柔軟』スキルまで手に入れてしまった。


 教え方はスパルタで、めっちゃ痛かったけど。

 なんかこう、初恋の女の子にされてるって思うと、思いの他悪くなかった。


 冗談はさておいても、俺の身体が硬すぎることが判明したし、柔軟性は怪我を防ぐとも聞く。筋トレの後にやってみるのも良いだろう。


 そんなこんなで、俺は新しいスキルを得てレベルもちょっと上がった。


 一人で黙々と鍛えるのも、固有スキルとの噛み合いは良いけど。やっぱり、一人では鍛えられない、習得できないスキルもあるっぽいし。

 他の人なら兎も角、まぁいちかちゃんとは今後も定期的に関係を保っていこうと思った。

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