幼馴染み
唐突だが、初恋は大体いつ頃訪れただろうか?
俺は、小学六年生の時。後にも先にも恋をしたのは一回きりである。
懐かしい話だ。前の人生で、コンピューターのようだだの、冷徹だの感情がないだの色々と言われてきた俺だが、あの時はまだ精神的にも幼かったのだろう。
結局、勇気が出ずに告白できず終いの初恋だったが、26歳になってもふと思い出して「やっぱり未だに、あの子のこと好きだなぁ」とか思ったものである。我ながらめちゃくちゃキモい。
なぜ、そんな話をいきなりしたのかと言えば……
「ねえ、何してるの?」
「け、懸垂……」
その初恋の子、小林いちかちゃんに話しかけられたからである。
いつもの緑地公園で走り込むのも良かったが、今日はなんとなく鉄棒のある公園で筋トレをしたい気分だったのだ。
小学校に通うようになってから、鉄棒に結構ハマったのである。
鉄棒は良い。懸垂が出来るし、足を支柱にドラゴンフラッグ(めっちゃキツい腹筋)をしたり、支持回転や大車輪を始めとした派手な筋トレも出来る。
まぁ、支持回転は兎も角大車輪なんてやったことないけど。
しかし、いちかちゃんに話しかけられるとは思わなかった。
前の人生で会ったのは11歳になってからだったけど、流石に初恋の人だ。鑑定を使うまでもなく一発で解った。
別に俺はロリコンというわけでもないけど、思い出補正もあってスゴくかわいいと思った。
「楽しいの?」
「うん、楽しいよ」
俺は懸垂を続けながら、いちかちゃんの顔をじっと見つめる。これは、変態的なアレとかではなく、鑑定で見るためだ。
名前 小林いちか
体力 15/15
筋力 6
魔力 1
敏捷 5 ▲
Lv 1
職業 なし
スキル ▼
『柔軟Lv1』『体力補正Lv1』『筋力補正Lv1』
固有スキル 『慧眼』
固有スキル持ちとは珍しいな。
両親は勿論、クラスメートもとりあえず全員鑑定してみたけど誰一人として固有スキルを持っている人は居なかった。
詳細は、まだ俺の鑑定のレベルじゃ見えないみたいだけど……やっぱり、他人の固有スキルを見るにはある程度制限が掛るのかな?
ただまぁ、確かに俺の知るいちかちゃんは確かに人の目をよく見る子だった気がする。そして、偶に……本当に偶にだけど、心読まれてるんじゃないかな? と思ったこともあるくらいだ。
だから、慧眼スキルはイメージ通りっちゃイメージ通りなのかもしれない。
尤も、慧眼スキルは前の人生の時も持っていたのか、否なのかは解んないけど。
「そうだ! ぼく、大車輪できるから見ててよ!!」
黙々と懸垂をしている俺を、いちかちゃんは見つめていた。
だからと言うわけではないが、やっぱり好きな女の子の前で格好付けたいというのが男の子という生き物なのである。
大車輪自体はやったことないけど、まぁ、ステータスもスキルも万全だし出来ないってことはないだろう。
「大車輪って?」
「ちょっと離れてて。大車輪ってのはね……」
こんなのだよ! そう良いながら、足を大きく揺らして反動をつけてぐるりと身体を鉄棒の上にまで持って行く。
後は下にぐるりと戻るだけ。思ったより行けそう!そう思った瞬間のことだった。
ツルッ。
手に汗をかいていたからか、緊張してたからか、それとも握力を全然鍛えていなかったからか。回る拍子に鉄棒から手を離してしまって、その回転の勢いのままにグルンッと後頭部を思いっきり地面に強打してしまった。
「あがっ!?」
「これがだいしゃりん……って、だいじょうぶ!?!? お、おかあさ~ん!! なんか、あの子がものすごいいきおいでたおれちゃった!!!」
「え? た、大変!! きゅ、救急車!!!」
いちかちゃんの声と、慌てた大人の女の人の声が聞こえた。
やがてピーポーピーポーと、サイレンの音が鳴り響く。……や、やらかした!! そんなことを思っても、ぐらぐらと頭が痛んだ。
まるで、俺が前の人生で死んだときのような強烈な痛み。俺、死ぬのか……?
◇
なんて思ってたけど、別にそんなことなかった。
普通に頭打って気絶しただけで、特に命に別状はなかったみたいだし、『超回復』スキルの効果も相まって、ご飯食べたら痛みも完全に引いた。
「もうっ、心配させないでよ!!」
「ったく、お前は本当に世話が焼ける子供だ。……小林さんにもお世話になったし、今度一緒にお礼に行くからな」
お母さんは泣きながら俺に抱きつき、親父は少し渋い顔をしている。しかし、頭をぶつけたからか、いつものようにひっぱたかれることはなかった。
いつも走って、限界まで筋トレして、黙々と魔力を操って。そんでもっていきなり後頭部強打して病院に運ばれたんだ。そりゃ、心配もするだろう。
それに申し訳ないなぁと思いながら、しかし、小林さん――つまりいちかちゃんにお礼しに行けるのは俺としては結構嬉しい話だった。
前の人生では、なんとなく目で追っていただけで結局なにもないまま終わってしまったが、今回は子供――小学一年生の頃から仲良くなれるかもしれないのだ。
俺の初恋の人であることを考えなくても、いちかちゃんは俺以外で初めて見つけた固有スキル持ちだ。打算的な意味でも、仲良くしたいとも思っている。
と言うかあれ? もしかして、この年齢から仲良くなるのってつまり、俺といちかちゃんは幼馴染みの関係になるのか?
前の人生では、幼馴染みと言える関係の人なんて居なかったけど、そっか。二周目ともなれば、こうして後で出会う人と会って、幼馴染みになったりする可能性もあるのか。
いちかちゃんと幼馴染み……。
そんなことで頬が緩んでしまう自分が、かなり気持ち悪いことを自覚しながら、俺は両手のひらをじっと見つめた。
名前 佐島 靖
体力 23/49
筋力 42
魔力 42
敏捷 36 ▲
Lv 1
職業 なし
スキル ▼
『鑑定 Lv6』『敏捷増強Lv3』『体力増強Lv5』『筋力増強Lv4』『超回復Lv6』『演算Lv9』『精神耐性Lv8』『魔力増強Lv4』『農業Lv4』『物理耐性Lv2』
固有スキル『反復試行』
頭をぶつけた影響だろうか? 体力増強と筋力増強のレベルが一つずつ上がっていて、それに伴って体力と筋力のステータスも上がっている(あと、体力がめっちゃ減っている)
それに、物理耐性まで得ていた。
いや、確かにね? 新しいスキル欲しいって言ったけれども、流石に初恋の人の前であんな格好悪い失敗をして得るってさぁ?
1つだけ上がっていた精神耐性のレベルが、妙に腹立たしかった。
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