魔力

 魔力って、どんなのだと思う?


 空気のように、不可欠だけど認識できずそこにあるのか。あるいは、幽霊とかみたいに気付かなければどうってことないけど、一度認識すれば気になって仕方がなくなるものなのか、それとももっとこう……。


 六歳に戻ってから、初めての幼稚園。

 喧しく甲高い子供の声が四方からきゃっきゃ聞こえる保育室の隅っこで孤立している俺は、ぼぅっと魔力に着いて考えていた。


 どちらかと言えば、園児たちに混ざる苦痛から現実逃避していた。


 いや、マジで園児ってよく解らん。

 一人で、隅っこで腕立て伏せと腹筋とスクワットをしてたら「先生、やすしくんが変なことしてる~」とかチクるし、

「しょうまくんはやすしくんと遊びたいって」って言われたけど

「いや、ぼくは忙しいので遊びたくないです」って言ったら「ダメでしょ」って謎に怒られるし。


 幼稚園、マジで魔境。俺は筋トレして、スキルのレベル上げたいのに!!


 遊ばないと先生にお尻ペンペンされそうな勢いだし、流石にそれは嫌なので、俺は仕方なく子供の頃嵌まっていた遊びを提案することにした。


「先生、トランプあります?」

「トランプ? ババ抜きでもするの?」

「いえ、計算ゲームするんです」


 計算ゲーム。

 トランプを各々に四枚ずつ配り、場に出ているカード……例えば7なら四枚のカードを+なり-なり×なり÷なりして、7にする――その速さを競うゲームだ。

 俺が幼稚園生だったか小学生だったか、親父に「トランプであそぼー」って言ったら提案されたゲームだ。


 今にして思えば、面倒くさがりの父に遠回しに「お前とは遊びたくない」と言われていたのかもしれない。

 ただまぁ、何だかんだ俺はそのゲームに嵌まってよく一人でやったものだ。


 ルールを説明すると、しょうまくんとやらは「計算習ってない」とごねるし、先生もあからさまにイラッとした顔をしていた。

 俺は、有無も言わさずにカードを四枚ずつ(先生の分も)配った。


「まぁ、嫌ならぼくは一人で遊ぶけど」


 やりたくなさそうなしょうまくんに、言外に失せろと言う。大人げないかもしれないが、俺は子供が苦手なのだ。


「じゃあ、私が勝ったらやすしくんはしょうまくんと一緒にお外で鬼ごっこね」


 しかし、先生はもっと大人げない提案をしてきた。

 幼稚園児相手に、計算の速度で勝負? その大人げの無さに少々引いたが(自分のことは棚上げ)しかし、俺は計算の速度には自信があった。


「良いですよ」


 同時に、トランプの山札から一枚カードをめくる。

 出てきた数字はA――1を作れば良いのか。俺は自分の四枚を見る。9,7,3,4……


「あ、出来た。9-7=2だから4-2で2で3から引けば1!」


「……ぐぬぬ」


 難しい顔をしている先生のカードを見るとK、J、4、2――「KJで2作って4÷4にすれば出来ますね。ぼくの勝ちなんで、一人で遊んで良いですよね?」

 そう言うと、幼稚園児に負けたのが悔しいのか、俺が生意気だったのがムカついたのかは解んないけど先生にめっちゃおしりぺんぺんされた。


 26歳よりも若く見える女性におしりぺんぺんされるのは、なんかこう目覚めそうだった。

『演算Lv3』を獲得してなかったら、何かやらかしていたかもしれない。




                  ◇




 そんなこんなで、教室内に居ると誰かにとやかく言われることを学んだ俺は、保育室の外の人目につかないところで筋トレしたり、絵本読み聞かせの時間に脳内で暗算して『演算』のレベルを上げたり、魔力について探ってみたり。

 朝は早起きして、走り込んでみたり。家に帰って公園で走り込んでみたり。


 筋肉痛を我慢して筋トレとか走り込みをして、沢山ご飯を食べていたらいつの間にか『超回復』がLv2になっていたり。

 先生に何度もおしりぺんぺんされる内に『精神耐性Lv5』を獲得していたり。

 精神耐性は流石に前世からの引き継ぎだよね!? 目覚めちゃったんじゃないよね!? 焦ったり。


 そんな感じで充実した幼稚園生活を満喫している間に冬休みが来た。

 まぁ、六歳になったのが十二月中旬だったし、気分的には一瞬で来た休み。結構嬉しい。


 そして、もっと嬉しいお知らせがある。

 そう。俺は遂に


「こ、これが魔力……!!」


 魔力というものを観測することに成功していた。


 魔力というものはどんなものか。それは身体の奥に宿る生命の灯火のようなもので、目を深く瞑ると見える白い光のようなものだ。

 さっき、鑑定してみた結果『魔力』と出たのだ。間違いない。これが魔力だ。


 俺は深く息を吐き、足を結跏趺坐で組む。手は蓮華座。

 意識を動かすと、全身の毛先がチリチリとするような不思議な感覚になる。それでも深く、深く集中してその白い光を追い求めると、光はゆらりと動いた。


 ろうそくの火がたゆたうように揺れている。

 そして、その揺れは俺の意識によって僅かに動かすことが出来た。揺れる火に弱く息を吹きかけたような動かし方。でも、確かに俺の意志だ。


 俺は何時間も、その魔力を見続けていた。

 朝も、昼も。いつもは走り込んだり、自重トレをしたりでなにかと騒がしい俺が大人しく、音も立てずに座禅を組み続けて、お母さんはスゴく気味が悪そうだった。


 結局、その座禅は俺が「晩ご飯だから、いい加減それ辞めなさい!」と引っぱたかれるまで続いた。

 因みにこれが今の俺である


名前 佐島 靖 

体力 12/15

筋力 9

魔力 3

敏捷 9     ▲

Lv 1

職業 なし

スキル ▼

『鑑定 Lv3』『敏捷補正Lv5』『体力補正Lv6』『筋力補正Lv5』『超回復Lv2』『演算Lv3』『精神耐性Lv5』『魔力補正Lv1』

固有スキル『反復試行』


 スキルに魔力補正が増えていて、魔力量も三倍になっている!!

 敏捷、体力、筋力の補正は筋トレと走り込みのお陰だろうけど、鑑定のレベルが上がっているのは意外だった。

 沢山使ったから上がったのか、それとも……魔力を鑑定したことが関係してる?


 それに、スキルのところに出てきた『▼』も気になるところだ。


 とりあえず俺は、いつもの筋トレと走り込みのメニューに、正式に魔力のトレーニングを組み込むことにした。

 ふっふっふ。魔法は使えなくとも、魔力で不思議な力は使ってみせるぞ!!


 俺の心はスゴくワクワクしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る