ベルラ・ミルキル①
「それにしてもびっくりだよ〜。まさか後輩くんが本当にこの部隊に入るなんて!」
「先輩にはもっと早く連絡しておけば良かったですね。気が利かなくて申し訳ないです」
「ううん、気にしないで。それにしても、初めての任務で未確認の魔物に襲われるなんて後輩くんも災難だったね〜」
業務内容や俺個人の職務内容の説明、諸々の手続きを終えた俺は、ベルラ先輩に誘われ、彼女の部屋で談笑している……のだが、いつもより先輩の距離感が近い気がしてならない。
具体的に言うと、隣に座っている先輩がほんの少し動くだけで俺の体と触れ合いそうになる。
それほどに、俺と彼女は密着していた。
「先輩、机に置いてあるそれ、もしかして……」
変に意識すると、気恥ずかしく感じてしまうため、積極的に話題を振る。
「あ、ついに気づいちゃったか〜。後輩くんの想像通りこれは王様から貰った名誉勲章です!」
「凄いですね……超絶エリートじゃないですか!」
「ふふん、もっともっと讃えたまえ〜。たくさん褒められると良い気分になれるからね!」
「すごい!天才!可愛い!素晴らしい!あっぱれ!ファンタスティック!」
「えへへ、照れますなぁ……」
誉め殺しを受けた先輩は心の底から照れ臭そうにはにかむ。
めちゃくちゃチョロい上に、めちゃくちゃ可愛い。
まるで、天使のようで癒される。
因みに、先程の言葉はお世辞ではない。
割と真剣に驚いている。
まさか、たった2年しか勤務していない先輩が、敵の機体を10機以上撃墜してるとは……。
もちろん、彼女の技量も半端ない。
しかし、それだけの戦場に駆り出される第7小隊が半端ない。
騎士団の上層部は鬼か何かか?
……そういえば、先輩と久しぶりに話すのが想像以上に楽しくて、俺の質問したかった事が一向に聞けていない。
雑談も一区切りついたので、和やかな雰囲気に乗じて、本来の目的を果たすことにする。
「話の腰を折って申し訳ないんんですけど、聞きたいことがあって……」
「なになに?なんでも聞いて!」
「あの、リーゼロッ……」
リーゼロット隊長の名前を出そうとした瞬間、先輩の瞳に生気が無くなり、今までの雰囲気が嘘のように空気が凍りつく。
「《small》私と一緒にいるのに他の女の子の名前を出さないでよ……《/small》」
俯きがちな先輩は何やら、呟いた。
聞き取ろうとしても聞こえない声で。
……もしかして、リーゼロット隊長と先輩は仲があまり良くないのだろうか?
そのような疑問が不意に頭をよぎるが、取り敢えず先輩に声をかけよう。
そう判断し、口を開こうとすると。
「後輩くんはリーゼロット隊長の事で何か知りたいの? 私が知ってる限りで隊長のプライバシーに関わることじゃなければ、なんでも教えちゃうよ!」
顔を上げた先輩は先程の異変が無かったかのように、笑みを浮かべた。
けれど、何となく様子が変であるような……でも、明るく振る舞ってくれるのならば、問い詰める必要もないだろう。
俺は出来る限り平静を保ちながら、改めて先輩に質問を投げかけることにした。
「リーゼロット隊長に魔導騎兵を用いた戦闘の指南をして貰いたいのですが、隊長の時間を頂けることは可能でしょうか?」
この部隊に入った3番目の理由がこれ。
というか、一番の理由がこれだ。
王国で最強の騎士と呼ばれるリーゼロット隊長に、魔導騎兵の指南を受ける機会を得る。
そのために、俺は第7小隊に入隊する事を決めたのだ。
……もちろん、駄目元ではある。
それでも、可能性を上げるために第7小隊で一番仲が良い先輩に相談をして、リーゼロット隊長に話を持ちかけようと考えていたのだ。
「うーん、どうだろう?」
「や、やっぱり無理そうですか?」
「ああ、いや、そうじゃなくて……多分後輩くんが魔導騎兵の稽古をつけてほしいって言ったら、隊長はすっごく喜ぶと思うよ! でも、隊長の指導は信じられないくらい厳しいから、後輩くんは大丈夫かな……と思って」
風の便りで耳にしたことがある。
隊長の美貌に惹かれて、訓練を口実にお近づきになろうとした男子諸君。
彼らは翌日になると、一人残らず消え去ったらしい。
その理由は、指導があまりにも厳しすぎるから。
リーゼロット隊長にお近付きになる前に……死んでしまうと思ったから、全員逃げ出したらしい。
その噂は嘘偽りない真実だったわけだ。
ふふふ……上等だ。
俺も、生半可な覚悟でこの部隊に入ることを決断したわけではない。
親父を超えるためにも。
どんなに容赦のない訓練でも、絶対に耐え切って強くなってみせる。
「大丈夫です。俺はやれます!」
「……うん。後輩くんの想いは十分伝わったよ! その気迫で頼めば隊長も後輩くんの気持ちを理解してくれると思う。それじゃ、隊長はトレーニングルームにいると思うから……早速お願いしてきなさい!」
「ええっ、そ、それはちょっといきなり過ぎません……?」
「善は急げ、思い立ったが吉日だよ。後輩くん!さぁさぁ、ごーごー!」
先輩の言葉に対して、心の準備ができてない……などの文句を垂れていると、あっという間に彼女の部屋から追い出された。
扉の隙間からちょこんと顔を出した先輩。
彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべながら「頑張ってね!」と俺に言うことで激励を飛ばし、部屋の扉を閉じた。
……少々強引に感じるが、これも先輩なりのエールだろう。
実際、先輩のおかげで不安でいっぱいだった心が、とても晴れやかになっている。
「ありがとうございます、先輩」
先輩に聞こえるかどうかは分からないが、感謝の気持ちを扉越しに伝えた俺は、足早にトレーニングルームに向かった。
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