幕間 ~『ジルバートの思惑』~
執務室を後にしたジルバートは廊下で待機していた魔法使いの女と合流する。眼鏡をかけた冴えない彼女は、さりとて魔法の腕前は上級に位置する力を有していた。
「メグ、待たせたな」
「いえ、あの程度の時間、待ったうちに入りませんよ……それよりも大賢者様はどうでしたか?」
メグと呼ばれた少女は恐る恐るも気になっていたことを訊ねる。
「どうとは?」
「それはその……私たち、ジーク様を探すのに――」
「あの男に様を付けるな!」
「し、失礼しました。ジークを探すのに失敗したじゃないですか。随分とお怒りなのでは?」
「いいや、いつもの優しい笑みで許してくださった」
「それなら良かったです」
メグは何の処罰もなくて良かったと安堵の息を吐く。だがそんな彼女とは対照的にジルバートは悔しさから下唇を噛みしめてしまう。
「あの……ジルバートさん。許してもらえたんですよね?」
「表面上はな。だが大賢者様は内心お怒りだ」
「ええーっ」
「考えてもみろ。大賢者様は下級魔法さえ碌に扱えない無能に振られたんだぞ。悔しくないわけがない」
「それはそうでしょうね」
「なら大賢者様がジークの居場所を探していたのはなぜだ? 答えは簡単だ。私たちに居場所を探させて、自らの手で始末するおつもりなのだ」
「えっ、始末するんですか!? 私はてっきりよりを戻したいのかと……」
「馬鹿を言え。それではまるで大賢者様がジークに惚れているようではないか。あの方がジークと恋人だったのは幼馴染への慈悲からで、そこに愛情はない」
「はへぇ~、さすがはジルバートさん。人を良く見ていますね」
「まぁな。そもそも私は反対だったのだ。大賢者様は魔法協会の頂点に位置するお方。もっと相応しき相手がいるのだ」
「例えばそれはジルバートさんとかですか?」
「ふふふ、良く分かったな。正解だ」
「正解なんですね……」
メグは呆れて目を点にするが、彼女としても魔法協会の頂点に位置するリザと冴えない中年のジークがお似合いだとは思えなかった。彼ならばまだジルバートの方がリザと釣り合いが取れている。
「やはりジークは始末するべきか……」
「殺しちゃうんですか?」
「ああ。あんな男、いなくなった方がいい。魔法協会にとってもそちらの方が有益だ」
「で、でも、大賢者様のお許しもないのに殺しちゃって大丈夫なんですか?」
「馬鹿者。優れた部下とは上司の意をくみ取るものなのだ。大賢者様の真なる望みはジークの抹殺。これで間違いないのだ」
「本当かなぁ~」
メグは半信半疑だったが、ジルバートは既に乗り気になっており、頭の中でジークを始末する計画を練り上げていく。
「相手は下級魔法さえ碌に扱えない雑魚。私の部下の上級魔法使いを送り込めば事足りるだろう。クククッ、すぐに死体が届くぞ。いまから楽しみだ」
ジルバートはジークが始末され、リザの隣に自分が経つ光景を想像する。彼は自らの幸福のためにやる気を漲らせるのだった。
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