第一章 ~『戦いを終えたジークたちと拭えない汚名』~
「ジーク。あんたはすげえ男だよ」
「そんなことないさ」
合流したクロウは、ジークがダークオークを倒す瞬間を目撃していた。その圧倒的力を目にして、彼の眼は尊敬でキラキラと輝く。
「大賢者の奴、ジークのことを無能扱いして、人を見る目がなかったんだな」
「クロウも人のこと言えないだろ……」
「や、やだなー。それは過去の話だろ」
「調子がいい男だ」
ジークはクロウの変り身に呆れるも、認められたことを素直に喜ぶ。
「ジークさん。大事なことを忘れてますよ!」
「大事なこと?」
「お父さんですよ! 早く探さないと」
「ああ。それなら――」
「おーい、ジーク! それにエリスも無事か!」
遠くからゲンの声が聞こえ振り向くと、四人の冒険者を連れて駆け寄ってきた。連れている四人の冒険者はジークも知っている顔で、クロウを見捨てて逃げ出した冒険者たちだった。
「お父さん、無事で良かった」
「エリスの方こそ。心配したんだぞ」
親子は互いの無事を喜ぶように抱きしめあう。感動の再開に、なんだかジークまで涙を誘われる。
「クロウ……」
「お前たち、逃げたくせによく俺の前に顔を出せたな」
「すまん。謝っても許されないだろうが、謝罪させてくれ」
四人の冒険者たちは頭を下げるが、簡単に許すことはできないと、クロウはその謝罪を拒絶する。
「そうだよな。クロウは俺たちと比較にならないほど優秀な冒険者で、いつも俺たちを助けてくれた。それなのに恩を仇で返すように、土壇場で裏切ったんだ。許してもらえないのも無理はない」
「俺なんてたいした男じゃない……」
「謙遜しないでくれ。クロウがダークオークを倒したんだろ。ほら、あそこに魔石が落ちてるぜ」
冒険者の男は黒い魔石を拾うと、クロウに手渡す。魔石は冒険者組合に持っていけば換金してくれるアイテムで、魔物の討伐達成の証明書でもあった。
「これは俺のものじゃない。俺の実力ではダークオークに手も足もでなかった」
「クロウじゃないなら誰が? まさか……」
「そのまさかだ」
冒険者たちは無能のジークが強敵を討伐したと聞かされ、眉を顰める。
「クロウ、嘘は駄目だぜ」
「嘘?」
「ダークオークを倒したのはクロウなんだろ? 無能に足を引っ張られながらも結果を出すなんて凄いじゃないか」
「……何を言っているんだ?」
「だからクロウは凄いと」
「ジークを侮辱するんじゃねぇ。この人はな、俺の命の恩人であり、尊敬できる男だ!」
「ひぃ……」
クロウが鋭い目つきで仲間の冒険者を睨みつけると、その視線の鋭さに彼らは言葉を窮する。だがそれでもジークがダークオークを倒した事実を受け入れようとはしなかった。
「お、俺は、やっぱり信じられねぇ。俺たちが逃げ出した怪物を、このデブが倒せるはずないんだ」
「いいえ、ジークさんが倒したのは本当ですよ。私も倒すところをちゃんと見ていましたから」
「俺も見ていた。だから間違いない。ダークオークを倒したのはジークだ」
エリスとクロウがジークを庇う。尊敬された人を侮辱された怒りで、二人は冒険者たちに強い敵意の視線を向ける。
「エリスもクロウも俺のために怒ってくれてありがとな。その気持ちだけで嬉しいよ」
「ジークさん……」
「ジーク……」
ジークが二人に対する感謝を微笑んで示す。まだまだ無能のジークの名を払拭できそうにないが、それでも仲間だけは認めてくれる。その嬉しさから湧き出た笑みだった。
「良かったですね。ジークさんが凄い人だと認めてくれる人が増えて」
「そうだな」
「では帰りましょうか、我が家に。今度は一人で囮になるような真似、させませんから」
「そうだな。帰ろう。俺たちの満腹亭へ」
ジークたちはそう口にして魔物の森を後にする。帰路の中、エリスはジークが一人でどこかへ行かないようにと彼の手をギュッと握りしめる。その手から優しい暖かさを感じるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます