第4話

私達の目の前で躓いて転んだアズエイルという青年は今は転げた時に彼が背負っていた大きなリュックから出てきた中身を慌てて拾い集めていた。


周りの冒険者達も「アズ坊はいつもおっちょこちょいやなー」「ほら、これも落としていたよ」と笑いながら彼が落とした物を丁寧に渡していた。


「いつもすみません!早めにクエストが終わったから急いでギルドに向かっていたらそのまま躓いてしまいました!」


と頭を下げながら言って冒険者が渡してきた物を受け取っていた。

その様子から見ても彼があの火竜を倒したとは到底思えなかった。


「ところで今日はどんなクエストをやっていたんだ?薬草取りか?それともポーション作りか?」


とリュックの中身を渡した冒険者が問うと


「えーと、その両方ですね」


と彼は笑いながら答える。

すると、


『さすがは薬・屋・の・ア・ズ・!仕事が速いなー』


と周りの冒険者達が笑いながら言っていた。

…ん?薬屋のアズ?私が聞いていた夜の死神ではないのか?

そう私がそう疑問に思うとすぐにアズエイルさんのことを話してくれたおっさんの冒険者に


「おい!そこのおっさん!彼が夜の死神ではないのか?」


と大きな声で聞くと周りで騒いでいた冒険者達が突然黙り込んでいた。

一体どうしたんだ?


「だ、誰がお、おっさんだ!?俺の名前はザリルだ!てか、その名前を今は言っては…「誰ですか!?昼の時にその名前を呼んだ人は!?」ほら言わんこっちゃない…」


とおっさ…ザリルさんが言おうとしていると彼が突然そう叫んでこちらの方を向いてズカズカと歩いて近づいてきた。

そして、


「やめてください!まだ昼なのにその名前は言わないでください!

…てあなた達は!?昨日の夜に大きな魔物に襲われていた人達ではありませんか!?

体はもう大丈夫なんですか?」


彼は最初は腕をぶんぶんと縦に振って怒っていたが、私達のことを思い出したのか、すぐに私達のことを心配してくれた。

可愛かったがこの様子から夜の死神と呼ばれているアズエイルという青年が彼であることが分かった。


「あの時は助かった。助けてくれてありがとう。」


「いえいえ、俺も早くに助けることが出来なくてすみません。」


私がそう言うと彼は反対に頭を下げて謝罪した。

私が彼に早く頭を上げてもらうとザリルさんが 


「へー、またアズ坊は夜の森に繰り出してたんか?

じゃー、昨日は何を狩ったんだ?」


と彼に聞くと彼は笑いながら


「火を吹く翼の生えた大きなトカゲみたいな魔物でした」


と答えた。

その答えを聞いたザリルさんは


「そうかそうか、火を吹く…翼の生えた…大きな…トカゲ?…ってそれって火竜じゃねーか!?」


と最初は笑っていたが徐々に顔から笑みが無くなっていき、そして青くなってそう叫んだのである。

それを聞いていた冒険者達が「ついにあいつがSSランクを!」「やっぱり最強じゃねーか!?」「もうEランクからSランクに上がれよ!?」とそう彼に向かって言っていた。


「ちょっと待ってくださいよ!あれは運が良かっただけですから」


と彼が言うが「運も実力の内だよ!」とか「それ絶対に嘘だよな!」と冒険者達が笑いながら言っていた。

でも私は彼が言っていたことに疑問を持った。

だって彼が火竜と戦っていた時に彼は凄いジャンプをしたり、魔法も使っていたんだ。

運が良かっただけでは無いと私はそう思って仕方が無かった。

私はそう疑問に思って彼に歩み寄ると、彼がどうしたんだろうと言う表情でこちらを見ていた。

そして私が彼の目の前までに近づくと


「私はマリンと言います。ちょっと時間を貰えないか?」


と私が問うと彼は


「別にいいですよ。それとマリンさんの仲間である彼女達は?」


と言ってきた。

私が紹介しようとしていると


「私はルナと言います。

魔法使いです。

先日は助けていただきありがとうございました」


「私はメイベルと言います。

弓使いです。

昨日はありがとうございました。」


「私はエリーザって言うのよ。

昨日はありがとうね。

ちなみに私は槍使いだからね。よろしくー」


と自分達で自己紹介をしていた。

それにしてもエリーザ…

もっと敬語をちゃんと使いなさい。

私がそう思っていると、


「よろしくお願いします。俺はアズエイルと言います。気軽にアズと呼んで下さい。……ところでマリンさん?何か俺に用事でもあるんですか?」


と彼…アズが聞く。

私はハッとしてアズの方を向いて


「ちょっと気になったことがあるからあなたを鑑定しても良いかな?」


と優しく聞くと、アズは少し考えてから、


「別にいいですよ。」


と了承してくれた。

私はアズに感謝をしてからアズのことを鑑定した。

そこには


アズエイル   Lv.18


年齢

16歳


状態

異常無し


ステータス

体力・・・98

魔力・・・50

知力・・・100

力・・・60

守備・・・55

速さ・・・45

技術・・・80

運・・・600


スキル

剣術Lv.2       魔法Lv.1

料理Lv.4       対話Lv.2

豪運Lv.— 調合Lv.3


神の加護

・無し


称号

・運を持つ者


と書かれていた。

ステータスに至っては全てが平均的でポーション作りをしているためか、調合スキルのレベルが高いし、

技術の値も高い。

そして私はここで納得した。

アズの運の値が普通の人よりも比べ物にならないくらい高いのだ。

さらにスキルには『豪運』というスキルが書かれていた。


豪運・・・ステータスに書かれている運の値を三倍に

     する


そして称号にも『運を持つ者』と書かれていた。


運を持つ者・・・運が凄い程ある者。

        この人が何かをしようとすると

        一定確率で何かが起きる。

        これはどの場面に置いても同じであ

        る。


つまり私達を助けようとした時に彼の運のおかげで助かったのだ。

だが、おかしな点があった。

まず15歳の時に貰うはずである神の加護が無く、

さらに称号の枠に竜を倒した時に貰える『竜殺し』の称号がないのだ。


「なぜ称号のところに『竜殺し』の称号がないの?」


と聞くと、アズは驚いたようすぐにリュックから自分のステータスカードを取り出した。

ステータスカードを持ってるんだったら、鑑定なんかさせずに見せてくれてたらよかったのに…

私がそう思いながら苦笑していると


「あちゃー、倒しそびれたかな。

まぁいいか…別に称号なんかいらないし、皆さんも森に行って見たらどうですか?

今なら竜を倒せるチャンスですよ。

かなり瀕死の状態になっていると思うので安心だと思いますよ。」


と言っていた。

するとあちこちから「おー!マジか!?」「急がねーとな!」「俺が一番だ!」などと騒ぎながらギルドから出て森に向かって大量の冒険者達が走り始めていた。

その様子をアズは笑いながら見て、みんなが居なくなったのを見ると「それではまた…」と言って出て行こうとした。

でも私はまだ加護のことを聞いていなかったので、


「待ってくれ!まだ聞きたいことがあるのだが…」


と私は彼を引き止めようとするが、


「今は疲れたので家に帰ります。

 夜にまた来るのでその時にお願いします」


と言って、私達に向かって笑いながら手をフルフルと振ってギルドに外に出ていた。

私とメイベルとエリーザは手を振り返していたが

ルナだけは手を振らなかった。

しかもルナの顔はすごく青くなっていて、カタカタと震えていた。


「一体どうした?」


アズが居なくなってから私が小声で聞くと、ルナが


「一体何者何ですか、彼は!?」


と小声で言っていた。

何を言っているんだ?と私が疑問に思っていると


「彼は…あれは化・け・物・よ…」


とルナが呟いていた。

あれとはなんだ?もしかしてアズのことか?


私は訳が分からなくなり、そのまま立ち尽くしていた…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る