第2話 サラの部屋
サラは3階まで早足で上がって来た。ドアを開けてこれから1年間住む部屋を見回した。
家具はすべて揃っている。落ち着いた色のソファー、テーブル、敷物。本棚は壁に取り付けてある。
「中世の映画に出てくるような部屋みたい」
家具はどれも骨董品のような雰囲気だ。サラのお給料ではとても買うことができないだろう。
サラは部屋に入って家具のひとつひとつを触って歩いた。特に気にいったのは、手紙を書いたり読書をするための机。草花の彫刻が机の縁と引き出しと脚にも彫られていて、彩色は過ぎた年月を感じさせる落ち着いた色になっている。本当に美しい。サラは彫刻を指でなぞってしばらく見入ってしまった。
それから、寝室に入った。大きな木製のベッドが部屋の真ん中にある。真っ白なベッドカバーが掛けられている。良く見ると細かい刺繍が施されている。
ベッドだけど品格がある。そして、あの机と同じ草花の彫刻が脚と背もたれに彫られている。それに壁一面がワードローブになっている。彫刻ではないが同じ草花の絵が描かれている。時間の経過によって鮮やかな色が、品良く褪せている。部屋全体の家具がまるでお互いに語り合っているようで、
「仲の良い兄弟みたい」
「おじいちゃんおばあちゃんに囲まれている」と感じた。
ベッドとワードローブの間には全身が映る鏡がある。サラは映った自分の姿を見て姿勢を正して真っ直ぐ立った。腕も足も貧弱に感じる。昨日、お母さんに髪を切ってもらったけど、短すぎて小さい男の子みたいだと思った。自分の容姿には全く自信がなく、お化粧したり、流行の服を着たり、そんな女の子なら当たり前のことをしたいと思ったことがない。けれど、そんな自分をあまり好きではなかった。
「とにかく箱を開けて荷物を片付けよう」
サラは積み上がった段ボールの一つを床に下ろして座り込んだ。
それからしばらく黙々と片付けを始めた。
お昼もかなり過ぎてしまったので、いったん片付けを中断した。持ってきたものは多くないけど、ひとつひとつ、落ち着く場所を考えていると、あっという間に時間が経ってしまう。
お母さんが作ってくれたサンドイッチを食べるのにハーブ茶を入れた。ハーブのいい香りが部屋の隅々まで行き渡り、家具たちが胸いっぱいに吸い込んでいるようだ。家具たちが話せるなら新しい住人に歓迎の言葉を送っただろう。
サラはゆっくり食べた。食事を早く食べることができなくて、いつも弟の純に急かされた。今日は早く食べろと急かす人はいない。落ち着いて食べれるからいつもよりゆっくり食べているかもしれない。
食事が済んで、少し休もうとベットに横になってみた。
体と心が解放される。
「ふう、なんて楽なんだろう」
思わず声に出していた。
「いけない、いけない、寝てしまう」
サラは起き上がって片付けの続きを始めた。
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