サラ

奥田亞子

第1話 引越し


引越し


ルイが窓際に立ち、通りを見下ろしている。

朝日を浴びて細くて柔らかい巻き毛がキラキラと輝いている。

黒猫が近づいて来てルイを見上げ、ニャーと鳴いた。

ルイはしなやかな細い腕で猫を抱き上げた。

「おはよう、アダム。おばあちゃんのアパートに誰か入ったようだよ。どんな人だろうね」


通りでは小さい白いトラックが止まっている。

ダンボールを下ろして終わり、アパートの中に運んでいる。

それも、もう、終わりそうだ。

トラックの横で家主らしき上品な老婦人と恰幅のいい男性が話している。

「おばあちゃん、サラをよろしくお願いします。なんでも良く教えてやってください。お恥ずかしい話ですが、箱入り娘で大事に育てすぎて、礼儀作法も教えてないんです」

老婦人はニコニコしている。

「安心して、私が見ているからね。気になったらいつでも私に電話してね」

「ありがとうございます」

荷物を運び終わって、サラと弟の純が出て来た。

「終わったよ、行こう。早く」

純は早く戻ってシャワーを浴びたかった。

「うんうん、わかった。それじゃあ、サラ、おばあちゃんの言うことをよく聞いて、お行儀よくするんだよ」

「うん」

サラはうなずいた。

「パパ、早く行こう、お店忙しい時間になるよ」

純が急かした。

父はサラをじっと見て、それからトラックに乗り込んだ。

おばあちゃんがサラの横に来て一緒に手を振った。

「お父さんはサラちゃんを本当に心配してるね」

おばあちゃんがそう言って振り返った。

「うん」

サラはうなずいた。

「これからよろしくお願いします。あの、私、上に上がります」

「あ、ちょっと待って、これが鍵、それと玄関の暗証番号のメモ。じゃあ片付け頑張ってね」

「はい、ありがとうございます」

サラはお辞儀をして階段を上がって行った。

老婦人はサラの後ろ姿を見ながら思った。

「本当にお父さんの若い時とそっくりだね。人見知りで口下手で」

ふっと笑って声に出して言った。

「サラちゃんも、とっても優しい、いい子なんだろうね」

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