1-12 そして、2人は共に床に就く

エルニアの森から帰ってきた2人は、ギルドに依頼達成の報告を行っていた。

受付は依頼を受けた時と同じく、巨乳眼鏡のあのお姉さんだ。


「はい、確かにクレイジートレントの魔石を確認しました。その他の魔石の買取も併せて、こちらが総報酬額となります」


そう言って差し出された、この世界の金銭らしき金貨や銀貨を受け取る。

1カ月は宿代に困らなそうな金額だった。


「そういえば、青いドラゴンの魔石は……」


「申し訳ございません、こちらの支部では解析ができず、買取できませんでした。優れた解析スキルを持つ職員がいるバーンナークの町であれば買取できるかもしれませんが……」


クレイジートレントの依頼で金銭に余裕はある。

とりあえず青いドラゴンの魔石は返してもらった。


「ああ、それと……森で森林王って超強いモンスターを倒して、その魔石も持ってきたんだが、これは買取できるか?」


ルリが道具袋から通常の魔石よりは大きな魔石を受付のテーブルに置く。


「森林王……?」


受付のお姉さんが眉を潜ませる。


「存じ上げない名称ですが、ステータス確認でそう表示されたのですか?」


「ああ、確かにそう表示された」


「一応、確認を取ってみます」


受付のお姉さんが一度奥へ引っ込み、ほどなくして、初老の男性を引き連れて戻ってきた。

立派な口ひげ、顔には無数の古傷、いかにもベテラン冒険者風の人物だ。


「俺はここのギルド長をやってるものだが……森林王を倒したってのはあんた達か」


「そうだ」


「奴の存在はほぼ伝説と化していて、俺が生きている内に目撃された事例はない。もちろん、討伐報告もない。故にランクも設定されてないんだが、付けるとしたら間違いなくSランクだ」


そんなモンスターが何故あんな森にいたのだろうか。

疑問は残るが、ギルド長は続ける。


「俺は職業柄、嘘を見分けるスキルを持ってる。だからあんたたちが嘘を言ってないのはわかるんだが……一応聞かせてくれ、あんたたち、森林王の外見を答えられるか?」


「鹿と牛を合体させたような、超でかい獣だった」


「あと、頭に森を生やしてた。あと、やたら偉そうだった」


ルリが補足する。その内容はどうかと思うが。

ギルド長が口ひげを撫でながら軽く唸る。


「……でかい魔石、森林王の名称、外見……。信じがたいが、本当のようだ。あんたたちのステータス、Dランク相当じゃないのは確かだが、それでどうにかなる相手じゃない。どうやったんだ」


「一か八かの賭けで奇跡を起こした。けど、一度きりだ。もう一度森林王が現れたら勝てるとは思えない」


スキル・ドロー、超級スキルの件は念のため伏せ、ツバサが答える。

情報は武器でもあるが、それは時に自分を刺す事もあるからだ。


「奇跡ねえ……そういうことにしとくか。とりあえず2人ともCランクに上げといてやる。本来、あんな化け物を倒せるのはSランク冒険者くらいなもんだろうが、経験とかステータスとか、まあ諸々あって、一気に上げるのは難しいんだわ。悪いな」


申し訳なさそうに頭を搔き、ギルド長が言う。


「別にいい。逆に、いきなりSランクとかに上げられて、森林王みたいな奴の討伐をポンポン依頼されても困る。次は多分死ぬから」


冗談めいてツバサが言うと、ギルド長が笑みをこぼす。


「はっはっは、確かにそりゃそうだ」


「ところで、魔石の買取は……」


「ああ、勿論無理だ。鑑定もそうだが、ウチみたいな小さな町のギルドで支払える金額になるとも思えんしな。バーンナークの町に持って行ってみるといい」


またその町の名前が出てきた。

換金して装備とか強くした方がいいだろうし、記憶探しのついでにいつか寄るとするか。




ギルドを後にした2人は、宿屋に向かった。

金銭的には問題なかったが、ルリが「同室でいい」と、少し寂しそうな表情で言うので、今日も同室にした。

今回の記憶を取り戻して、不安に思うところがあるのだろうか。

そう思い、特に理由は聞かなかった。

言えない、って言ってたしな。


とはいえ、今日の部屋がベッド1つとは思わなかった。


「「……」」


2人は顔を見合わせる。


「ベッドはルリが使えよ」


こういう時は、男が引くものだろう。

多分、そういうのがカッコいい。

いや、カッコつけてもここにはルリしかいないんだけども。


「ううん、2人で使おう。今日はとても疲れた。ふかふかのベッドで、休んだ方がいい」


「しかしだな……」


「ツバサ、知ってると思うけど、私、ちゃんと身体は洗ったし服は全部変えた」


森林王を倒した後、ツバサが倒れている間、ルリは魔法で身体を洗って即座に乾かし、別の服に着替えていた。

今は白の薄手のワンピースだ。悔しいが、銀髪ロングに白のワンピースはとんでもなく似合っていた。

なお、元着てた服は燃やしたらしい。


「下着も変えてる。おしっこの匂い、もうしない」


何やら怒ったような表情で、ルリが迫る。

別に匂いを気にしているわけではないんだが……。


「下着まで確認しないと、気が済まない?」


無表情に、少し恥じらいの色を混ぜる。

不覚にも直視できなくなり、ツバサは顔を逸らす。


「ち、違うって! そこは気にしてないんだって! ていうかお前、そもそも下着つけるほど……」


ついルリの胸部に目をやってしまう。

話を逸らそうとして、盛大に失敗した結果だ。


「! してる。してるもん……」


慎ましやかな胸を押さえ、ルリがプルプルと震える。


「すまん、今のは失言だった……ごめん」


「……いい、けど。話を逸らさないで。だから匂いは……」


「ああもうわかった、寝る! 一緒に寝るから!」


話を強制終了させ、ツバサはベッドに潜る。

そもそもだ。今はめちゃくちゃ疲れている。細かいことは気にせず、さっさと寝てしまえばいいのだ。

程なくして、もぞもぞとルリもベッドに入ってくる。

色々あった一日だが、やっと終わる。

ルリの寝つきは早い、昨日は言えなかった一言を、ツバサは口にする。


「おやすみ、ルリ」


「おやすみ、ツバサ」


待っていたかのように、返事が返ってくる。

直後、2人は同時に眠りについた。

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