1-11 ジャックポット
ツバサの剣が金色の輝きに包まれ、それを受けた王の頭が両断される。
斬撃に秘められた莫大な力の奔流が王の全身を駆け巡り、それでもなお止まらず、地の果てまで走り、大地を抉っていく。
どこまで届いたか、知る者はいない。
後に残されたのは、左右綺麗に切断された獣の骸と、それを見下ろす少年のみ。
不意に、ツバサの剣が粉々に砕けた。耐えきれなかったのだろう。
スキル『ジャックポット』も同時に消滅する。
「勝った……」
ツバサはそのまま仰向けに倒れ込む。全身に力が全く入らない。指一本、動かせない。
「ツバサ」
とことこと、銀髪の少女が歩み寄ってくる。
「上手く、いったね」
そう言って、ツバサの傍らに落ちている、自身の道具袋を拾う。
ツバサの作戦はこうだった。
まず一手目。ツバサのHPを『111』ぴったりにする。
元は130。しかし、残り19を森林王の攻撃で減らすのはほぼ不可能。一撃で150ダメージを与えてくるような相手だ。
よって、ツバサはスライム・オリジンに減らしてもらうことにした。
だが、出現率はそう高くはない。そこでルリの道具袋だ。
ツバサは作戦開始前に、ルリにスライムが好む匂いのパンが入っていたものがないか聞いた。
丁度、パンが入っていた紙袋が道具袋の中にあるというので、それを使ってスライム達をおびき寄せた。ゴミをそこらに捨ててこなかったルリは偉い。
スライムの攻撃のダメージは1だというのは道中でわかっていたこと。
あとは匂いつき紙袋を奪おうとするスライムから上手く攻撃を受けるだけで良かった。
計19ダメージ、結構痛かったが。
そして二手目。ルリの魔法で森林王のHPを『5111』まで減らす。これは中級以下のいかなる魔法をも1に抑える『神威』を逆手に取り、微妙な調整を行えた。
反撃も予想されたが、森林王はこちらを完全に侮っていた。賭けではあるが、HPに余裕のある内は『殺すまでの反撃はしてこない』にベットした。
三手目。両者のHP調整が終わったところで、ルリの魔法で周囲の視界を砂塵で奪う。ツバサ側の準備完了の合図は、次の一手に使う巨木を気刃で斬り倒す事と事前に打ち合わせ済みだ。
四手目。ルリのアイアン・ツイン・ハンドの間接的な物理攻撃で森林王の『不敬』の反射を誘発。視界を悪くしたところに真正面からの物理攻撃、反射的に『不敬』を使わせるためだ。
五手目。反射が切れたところに、巻き上げられた砂塵と岩の手で身を隠したツバサによる奇襲のジャックポット。これで倒せなかったらツバサもルリも間違いなく殺されていただろう。
だが、これ以上の手はこちらにはなかった。ダメだったら2人仲良く死のうと、冗談めいて話し合っていた。
ルリはそっとしゃがみ込み、ツバサに向けて両手をかざすが、直後、ハッとしたように息を漏らし、ふるふると頭を振る。
「回復、してあげたいけど、私のMPが足りない。回復するまで、待って」
「まあ、魔力ギリギリの計算だったしな。これも予測済みだって。ここで休んでるからさ、ルリは記憶の玉取りに行けよ」
「わかった」
森林王の亡骸はいつのまにか消えていた。
遺されたのは、大きな魔石と、あの時見たのとそっくりな光の球体。
ルリは魔石を道具袋にしまい、光の球体に触れる。
瞬間、辺りをオレンジの光の輝きが包む。
ドラゴンの時は水色だった気がするが、1つ1つ色が違うようだ。
そして、光の柱も出現する。色は緑。今度はかなり遠くに、微かに見えるだけだった。
(……ってことは、記憶はまだ全部じゃないんだろうな)
ツバサがそう考えていると、ルリが戻ってきた。
「どうだった? 何か、思い出せたか?」
「うん。おかあさん、おとうさん、生まれて、育った家。思い出した」
喜ばしい事のはずなのに、ルリは伏目がちに言った。
「どうか、したのか?」
「……、あと、他にも思い出したことがあって、でもこれは……ツバサには言えない、ごめんなさい」
小さな頭が下げられる。
「気にすんな。別に、俺にルリの記憶の全部を知る権利があるわけじゃないだろ」
「う、ん」
(俺も、この世界の人間じゃない事をルリに明かしていないわけだし)
まあお互い様というやつだ。
と、その時のツバサは軽く考えていた。
「こんなの、言えるわけがない」
そしてルリの呟きは、誰にも届く事はなかった。
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