1-6 フルコンボ
スライム・オリジンはぷるぷると震えている。
確かにスライム・オブ・スライムみたいなやつだ。
とはいえ、弱いのなら都合が良い。試してみたいことがある。
「ルリ、こいつを倒したいが、ルリは手を出さないでくれ」
「わかった」
ルリは頷いて、少し下がる。
こちらが動いたのに反応したのか、スライムが体当たりを噛ましてくる。
ツバサはそれを避けずに受ける。頬に命中。
「いった!」
現実世界換算では、大人にビンタされたくらいの痛みだった。
すぐにステータスを確認する。HPは249。今のが1ダメージか。
スライムのHPも確認する。こちらは5と表示された。
もう用はないので剣で思い切り斬りつける。
ぶにっとした感触を感じたが、そのまま両断できた。
消失し、魔石が落ちる。
「なるほど……」
HPを数値で言われても実感がなかったので少々試してみた、と言うわけだが、色々と得られたものがある。
スライムの攻撃力。1ダメージの痛さ。スライムのHP。自分の攻撃力など。
「何がなるほどなの」
振り返ると、ルリが首を傾げていた。まあそうなるよな。
はたから見たら訳の分からない時間だっただろうし。
「いや、何でもない……気にしないでくれ」
「そういう性癖? でも、私にそういう趣味はないので、その性的欲求の発散に私は協力できない」
「なんでいつもそこに繋げたがるんだよ!」
引き続き、森を進むツバサとルリ。
たまにスライム(オリジン)が出てくるが、出てきた先からツバサが斬り捨てていく。
魔法は温存したいので、ルリには手を出さないでもらっている。
しかしこの森、やたらスライムが出て来るな。
途中からスライムを斬りすぎてスライムがリズムゲームのノーツか何かに見えてきた。一撃で倒されてくれるし。
ちなみに、これがゲームだったら絶賛フルコンボ継続中である。
爽快ではあるが、流石に疲れる。息が上がってきた。
「ツバサ、ツバサ」
ルリが声をかけてくる。手には大量の魔石。スライムの魔石なんて大して売れないとは思うが、ルリは律儀に拾ってくれている。
「どうした?」
「怒らないで、聞いて欲しいことがある」
珍しく伏し目がちなルリ。
何だ、何をしでかしたんだ。
「スライムは普通こんなに出てこなくて。変だなと思ったんだけど、思い出した。私が美味しそうだから沢山買ってしまったこのパン」
スッと、大きめのまんじゅうみたいなパンを取り出すルリ。
甘い香りがこちらにまで漂ってくる。確かにおいしそうだ。
「これ、美味しいけどスライムの好きな匂いだから気を付けてって、お店の人言ってた」
「お前のせいかぁぁぁぁぁぁ!」
「怒らないでって、言ったのに……」
そこにピョンとスライムが飛び出してくる。
ツバサは怒りをぶつけるように力いっぱい殴ると、スライムは死んだ。
これでも倒せるんかい。
「はあ……とにかく、そのパンは早く食べてしまってくれ……少し休憩にするからさ」
「わかった。まかせて」
ルリはもしゃもしゃとパンを食べていく。
ツバサもひとまず手ごろな切り株を見つけ、腰かける。
しばらく休んでいると、森の奥の方から4人の男たちが歩いてきた。ツバサたちと同じように冒険者のパーティーのようだ。
「よう、お前たちも依頼で来たのか?」
先頭の男が気さくに声を掛けてきた。
歳は30代前半頃だろうか。筋肉質な体を鎧で覆い、背には斧を携えている。
「ああ。クレイジートレントの討伐で来た。見かけたりしてないか?」
「クレイジートレントか……。俺たちは会ってないが、奴はDランクの討伐対象の中でもかなり強い方だ。気を付けろよ」
男は親切にも情報を提供してくれると、そのまま他のメンバーとともにツバサたちが来た方向へと去っていった。
冒険者って、親切なものなんだな。
そんな親切な冒険者たちには申し訳ないが、少し試したいことがあり、ツバサは彼らが十分に離れたところで、スキル『ステータス確認』を発動した。
・ゲイル
HP50 MP15 SP20
問題なく確認できた。
他のメンバーも、ゲイルと同じような能力値だった。
なるほど、これなら確かに自分とルリが受付のお姉さんにステータスを妙に思うのも無理はないか。
転生の影響か、ドラゴンを倒した経験値なのかはわからないところではあるが。
「なにしてるの」
パンを食べ終わったらしいルリが声を掛けてくる。
「なんでもない、行こう」
ツバサはそういうと、立ち上がり、再び森の奥へと進みだした。
スライム好みの香りパンがルリの体内に消えたことで、その後のスライムの湧きは格段に減った。
時折、角のついたウサギ(ユニコーンラビット)や、爪が異様に発達したモグラ(グランドドラゴン)、でかい鳥(ギガントトンビ)などのモンスターが出てきたが、一、二度の攻撃で普通に倒せた。
それにしてもこの世界のモンスターの名前、軒並み変だな。
付けているのは学者か何か知らないが、センスどうなってんだよ。
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