1-5 スライム・オリジン

「じゃあ、さっそく依頼を受けたいんだが……この町周辺が映っている地図はあるか?」


「はい、こちらに」


受付に手際よく地図が広げられる。

ツバサはルリに視線を向ける。


「ルリ、光の柱が出たのはどの辺りかわかるか? その周辺で達成できる依頼を受けよう」


「多分、この辺り」


ルリの指が地図の一点を指す。

そこには「エルニアの森」と書かれていた。

この町――アリアークの町というらしい――の北に位置する森のようだ。


「わかった。まずはこの周辺での依頼を探してみる。受ける依頼が決まったらまた来る」


そう受付のお姉さんに言うと、ツバサはルリを連れて冒険者用のテーブル――フリースペースと呼ぶ事にしよう――に移動し、席に着く。

ルリもとことこと着いてきて、同様に座る。


「まずは互いのステータスを確認しよう。いいか?」


「いい」


ツバサは心の中で念じ、『ステータス確認』を発動する。

ルリも目を閉じ、同じことをしているようだ。

そして、互いに情報を共有する。


・ツバサ

 HP250 MP10 SP50

 魔法:なし

 スキル:ステータス確認 気刃


・ルリ

 HP150 MP50 SP10

 魔法:ファイア・バレット レイ・バレット

    シャイン・スピア グランド・ランス

    アイアン・フィスト キュア

 スキル:ステータス確認 アゲイン


まるで対照的だな。

ツバサは完全に前衛タイプで、ルリは後衛タイプだ。

あと、ツバサにはMPは一応あるようだが、習得している魔法はないようだ。いつか使えるようになるといいのだが。

いつの間にか『気刃』とかいうスキルを習得していて驚いたが、これは剣から気の刃を飛ばす攻撃系のスキルのようだ。射程や威力は不明だが、今度試してみよう。


ルリの方は3つほどツバサの知らない魔法を持っているようだ。

『レイ・バレット』は『ファイア・バレット』の光属性版。

『アイアン・フィスト』は空間に鉄のこぶしを召喚して殴りつける魔法。

『グランド・ランス』は地面から土の槍を召喚して攻撃する魔法との事。

スキルの『アゲイン』が良くわからなかったので聞いたところ、「直前に使用した魔法を即座に発動できる」効果のスキルで、連続発動が可能のようだ。

ルリ曰く、魔法は強いもの程発動までに時間がかかるが、アゲインでの発動はそれを短縮でき、連続発動するたびに短縮できる時間が増えるらしい。これ強くないか?

ツバサはと言えば、転生してきた割に何だかものすごく普通なのに。


「俺もチートスキルとか欲しかったな……」


「ツバサ、何か言った?」


「いや、何でもない……。ところで、戦闘の事だけど、前みたいに俺が剣で近接戦闘をしかけるから、ルリが後方から魔法で攻撃、みたいな感じを基本にしようと思うんだが」


「うん、わかった」


戦闘スタイルも決まったので、今度は依頼を探すことにした。

エルニアの森での依頼書はモンスターの討伐系のものと、採集系のものがあった。

報酬の額はモンスター討伐の方が多い傾向にあるようだ。


「ツバサ、ツバサ」


ルリがいつになく高いテンションで呼びかけてくる。

相変わらずの無表情だが、声音が少し高い気がする。


「モンスター討伐、受けよう」


「別にいいが……やけに興奮してるな」


「モンスター倒すの、好き」


マジかよ。

そういえばドラゴン相手に頭に光の槍を刺しまくってたな。

まあ、自分もどちらかと言えば採取よりは戦いたい方だ。

痛いのは嫌ではあるが。


「なら、Dランクで討伐の……これとかどうだ?」


ツバサは『エルニアの森のクレイジートレント討伐』と書かれた依頼書を手に取った。

森の奥に樹木のモンスターが出現し、通行する旅人や商人等に被害が出ているらしい。

クレイジートレントは普通の木に擬態して不意打ちを仕掛けてくる習性を持ち、吸ったものを狂わせる花粉を使ってくる恐ろしいモンスターとの事。

恐ろしいとか書かれているがランクはDだ。初心者でも倒せる……はずだ。

ルリは火の魔法も使えるし、相性も悪くないはずだ。


「私もこれでいいと思う。あと、昨日のドラゴンの魔石、売れるか聞いておいた方がいい。換金してもらえば、装備とか買えるかも」


そういえばそうだった。

ツバサもこの世界に来た時に何やら冒険者風の装備一式が自動で装備されていたが、いわゆる「初期装備」というやつだろう。

森に向かう前に装備を整えておける越したことはない。

ルリの方も、昨日旅立った? ようだし同じようなものだと思うし。


「わかった。そうしてみる」


ツバサは受付に再度戻り、依頼書を提出し、受注を完了させた。

そしてドラゴンの魔石を取り出し、売れるか聞いてみると、受付のお姉さんは怪訝な表情をした。


「この魔石、私の鑑定スキルでは鑑定ができませんね。専門の者に回しますので、今日中には換金はできません」


マジか。それは少し困ったな。


「この魔石を落としたモンスターはどのようなモンスターでしたか?」


「青いドラゴンだったな。体長は俺の2倍か3倍くらい。ルリ、あのドラゴンの名前とかって知ってるか?」


ルリはふるふると首を振る。


「知らない。初めて見るモンスターだった」


「今、ドラゴンって言いましたか? それ、倒されたんですか!?」


受付のお姉さんが動揺する。


「俺とルリの2人で倒した。ほぼルリの魔法頼りだったけどな」


「頭をシャイン・スピアでめった刺しにしたら死んだ」


ルリ、それは言わなくていい。


「Dランクでドラゴンなんて普通は倒せないものですが……」


受付のお姉さんが呆れたように言う。


「まあ、これでお2人のステータスが高い理由がわかりました。そのドラゴンを倒した事で大幅にレベルアップしたのでしょう。ドラゴンを倒せる時点で、元のステータスもそれなりだったのでしょうが……」


チートスキルがない事に嘆いてはいたが、初期ステータスはそれなりにあったらしく、少し安心した。あくまで「それなり」のようではあるが……。


「しかし青いドラゴン自体は存在するのですが、一番小さいものでも体長数十メートル、討伐依頼Aランクのオーシャンビュードラゴンですから……お2人が倒されたものとは違いますね。新種かもしれません。とにかく、お時間をいただきます、申し訳ございません」


まあ、即座に換金できないのはどうしようもない。

しかしオーシャンビュードラゴンって何だ。名前つけたやつ誰だよ。


ひとまず、用事は済んだのでギルドを後にする。


「ルリ、森に行く前に何か買っていくか? ルリの方は手持ちあるんだろ?」


「うん。お腹すいたからパン買っていく」


そうじゃねーよ。


「いや、それもいいけど、装備とか、道具とか……」


「ううん、パンがいい」


……。

まあ、本人の金だから口を出すのも違うか。

ルリは町の出口に向かう道中でいくつかの店により、多種多様なパンを買ってきた。そういえば宿屋で出た朝食、ルリは食べそびれていたな。


……一応、念のために聞いておくか。


「なあ、もしかしてパンを食べるとHPが回復したりするのか?」


「? そんなわけない。パンは美味しい。それだけ」


ですよね。パンで肉体の損傷が治ったら驚きだ。

パンをもしゃもしゃするルリと共に、ツバサは町を出てエルニアの森に向かった。




エルニアの森には程なくして着いた。

ご親切に看板も立っているから間違いない。

木々が生い茂っており、一見普通の森に見えるが、モンスターはそれなりに出現する場所らしい。

森の内部は日の光が遮られ、薄暗かった。


少し進むと、茂みから何かが飛び出してきた。

20センチほどあるだろう青い餅のような何か……こいつはまさか。


「スライムか?」


「うん。名前はスライム・オリジン」


「ずいぶん大層な名前だな!? もしかして強いのか?」


「ううん。弱い。スライムの原点とも呼べるとても一般的なスライムだから、そういう名前」


紛らわしいな!

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