1-4 ギルドとステータス確認

翌朝。

ツバサが起きると、ルリはまだ寝ていた。

折角なので先に身支度を整えることにしたが、終わってもまだルリは眠っていた。

仕方がないので先に食堂で朝食を済まして部屋に戻っても、まだルリは眠り続けていた。


「おい、いい加減に起きろよ……」


流石にそろそろ起きて貰わねばチェックアウト時間が怖いので、起こすことにした。

が、声をかけても反応がない。


(……あんま、女の身体に触れるのも良くない気はするが、仕方ないか)


「おい、いい加減起きろ。出発するぞ」


「んぅう……なにぃ……?」


身体を軽く揺さぶると、何やら悩ましい声をあげてきた。


「い、いいから起きろ!」


さっきより強く揺すると、ようやく目をゆっくりと開けるルリ。

目をこすり、とろんとした目でこちらを見つめてくる。


「朝……?」


「そうだ、出発するぞ! 早く支度しろ! 俺は部屋の外で待ってるから!」


それだけ言うと、部屋を出てバタンと扉を閉める。

不覚にも寝起きのルリを可愛いと思ってしまって気恥ずかしいからとかではない。断じてない。


朝が弱いのか、とにかくのろのろフラフラするルリを引きずるように宿屋を出たツバサ。

異世界2日目。とりあえずルリの記憶喪失を手伝うという目標があるものの、差し当たって必要なものは。


「やっぱ、金だな」


先日もお金がないばかりに、宿屋の代金をルリに出してもらってしまっていた。

それがなくとも、旅をするにはどうしても必要になるのは明白だ。


「ルリ、この世界には冒険者ギルド、みたいなものはあるか?」


「ある。この町にも、多分あると思う。それなりの大きさの町だから」


それは助かった。


「確認だけど、そのギルドってのは冒険者が所属して、モンスター倒したりする依頼を受けてお金をもらえたりするところだよな?」


「そう」


本当に助かった。


「ツバサ、何で知らない?」


……。


「俺が住んでた村は田舎でさ、あんま世界の事を知らずに育ったんだよ」


都合の良い設定を追加。忘れないようにしよう。


「そうなの」


幸い、それ以上の追及はなかった。

とはいえ、ギルドが自分の認識通りなら都合がいい。

所属して収入源としない手はない。


「ところで、ルリはギルドに登録してるのか?」


「ううん。私も一昨日村を出たばかりみたいだから、まだのはず」


一昨日?

ツバサと会う前日ということか。こちらにとっては都合が良いが、これは偶然なのだろうか。


「まあ、そういう事なら、俺はこのあとすぐギルドに登録に行こうと思うんだが、ルリも行くか? 光の柱の場所に近い辺りの依頼を受けられれば、記憶もそうだけど、報酬も得られて一石二鳥だ」


「行く」


ルリはいつもの無表情で頷いた。




ギルドは町の中心部にあった。

中は冒険者用に作られたであろう、テーブルとイスがあるスペースと、壁に貼られた依頼書の数々。そして受付。おおよその想像通りだ。

ルリと共に、まずは受付に向かう。受付をしていたのは20代前半と思わしき女性だった。眼鏡をかけており、知的な印象を受ける。胸部も豊かだ。


「ギルドの登録を2名お願いしたいんだが」


ツバサから切り出すと、受付のお姉さんは礼儀正しくお辞儀をした。

何となくだが、ギルドでは冒険者側は敬語は使わない印象だったのでそうしたが、特に問題はなかったようで少し安心した。


「かしこまりました。ではお2人のステータスを確認させていただきますがよろしいでしょうか?」


どうやらこの世界には他人のステータスを見る手段があるようだ。便利だな。


「構わない」


「私も」


「では、少々失礼します」


受付のお姉さんはそう言うと、眼鏡のフレームに軽く触れ、ツバサと、ルリを交互にじっと見る。


「お二人とも、結構ステータスが高いですね。登録は問題なく行えます。既にモンスターとの交戦経験が豊富なのでしょうか?」


ステータスの確認が終わったようだ。登録できるようでひとまず安心である。

しかし、ツバサはモンスターとの交戦経験は1回しかない。

ルリはどうなのか知らないが。


「少なくとも俺は昨日の1回しか経験がないぞ」


「私も、ここ3日では1回しかない。それ以前については、わからない」


「え……そんなはずは……」


受付のお姉さんが怪訝な表情になる。

何だろう、何か疑われているのだろうか?


「まあ、とにかく登録はできるんだよな? なら手続きを進めて貰ってもいいか?あと、簡単な説明も頼みたい」


「あ、はい。わかりました」


受付のお姉さんは気を取り直したように頷く。


「冒険者ギルドに登録すると、ギルドが発行している依頼を受けられるようになります。依頼内容や報酬を書いた依頼書をギルド内に貼りだしてありますので、受けたい依頼があれば受付までお持ちください。報酬は既にギルド側の手数料を引いた金額となっております」


税抜き金額みたいなものか。わかりやすくていいな。


「また、冒険者にはDからSまでのランクがあり、依頼は自分のランク以下のものしか受ける事ができません。登録時は自動的にDランクとなり、依頼をこなす事によりランクが上がります。詳細な条件は非公表となっております」


効率的にランクが上がるように依頼を受けられると困るという事だろうか。

まあ、確かにそれがわかると非効率だからと敬遠される依頼とかありそうだもんな。


「そして、冒険者の方には無料でスキル『ステータス確認』を付与させていただいております。これで対象のHP、MP、SPを確認することができます。自身に限ってはスキルと魔法の確認も可能です。また、それらの新規習得時に自動で発動し、名称をお知らせします」


冒険者には無料ということは、一般の人がそのスキルを得ようとしたらお金がかかるということになるのだろうか。

いや、それより。


「HP、MP、SPについて説明してもらってもいいか?」


これは確認しておきたかった。自分の認識と違っていたら大変なことになる。特にSPってのはゲームでもそんなに出てこない単語だ。


「HPは0を死亡と定義した場合の肉体の非損傷値です。MPは魔法を使用する際に消費する魔力をギルドの基準で数値化したものです。同様に、SPはスキルを使用する際に消費する気力を数値化したものです。魔力、気力は神が人間に与えた加護と言われており、神の加護を受け続けている我々は常にそれが自動で回復していきます。魔力量、気力量には個人差がありますが、だいたい、1日の半分程度で全部回復するのが一般的です」


何も知らないヤツだと思われたのか、やけに詳細に教えてくれた。

だが結果オーライだ。知りたいことは知れた。大きく自分の想像と離れたものではない。

そしてどうやらこの世界には神がいるらしいが、まあとにかくそれのおかげで魔法やらスキルという、自分が元居た世界にはないものが使えるらしい。


「ありがとう。……そういえば『ステータス確認』もスキルなんだよな?これもSPを消費するのか?」


「消費はするのですが、1に満たないごく少数の数値を消費しているようなので、消費0と考えていただいて良いと思います。私も職務でよく使用しますが、SPが消費した事はありません」


なるほど、簡易なスキルはSPを消費しないものがあるんだな。


「では、冒険者登録と『ステータス確認』を付与させていただきます。お2人とも、手を出していただけますか?」


ツバサとルリはそれに従うと、受付のお姉さんは2人の手にそっと触れ、目を閉じた。


「はい、完了です。これで全世界のギルド職員からお2人の冒険者情報を確認できるようになりました。また、『ステータス確認』を付与させていただいたので、そのスキル名を心の中で強く念じればステータスの確認ができるようになりました」


スキルは心の中で念じる事で発動できるようだ。聞く手間が省けて良かった。

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