第9話 罰
(1)全校集会
「またですか」
学校内に妙な噂が立っている。今日は同じ報告をすでに二回受けた。
鈴原は副校長室で山岡からの報告を受けている。
「なんでも、明後日の全校集会の時、体育館の屋根が崩壊するとか……」
全校集会、という部分までは他の二件も同じだった。しかし、続く部分は微妙に異なっている。一つ目は体育館の床が割れる、二つ目は窓ガラスが全部割れる、だった。
「どこからそんな噂が立ったのでしょう。火のないところに煙は立たぬと言いますが……」
鈴原が質問とも独り言ともとれることを言った。山岡はそれに答えず、書類に目を落としたまま首をかしげている。もっとも、山岡は聞いてきたことを伝えたまでで、それ以外の情報も考察も持っていなかった。
鈴原は背もたれにもたれ、腕を組んで黙り込んでいる。
あのチラシには世界が滅びると書いてあった。磯部リアル。今度はいったい何をやるつもりなの? もうあなたの手下はこの学校にいないのよ。早く気づいてほしい、あなたは間違っているということに。そうすれば、許してあげるのに。
鈴原は自分でも気づかないうちに、宙を見つめて笑っていた。
山岡は鈴原の不気味な表情に気付いていたが、何も言わない。
「もうよろしい」
鈴原が無表情でそう言うと、待っていましたとばかりに山岡はそそくさと副校長室を出て行った。
扉が閉まると、すぐにノックの音が響いた。
「今度は何ですか?」
からりとドアが開き、また別の教員がやってきた。
「副校長、校内に変な噂が――」
鈴原は白い歯を見せて、無言で笑った。
◆◆◆
「本当!?」
俺はウサギと別れると、すぐにリアルに電話をした。かけた後に、しまった授業中だった、と思ったがリアルはすぐに電話に出た。
「よかったぁぁぁ……」
心の底からの安堵が聞こえる。
「だけど、ウサギが間に合うかはわからないよ」
「いいよ。私はウサギを信じてる。きっと、来てくれる」
「だといいんだけど……」
来なかったらどうする? なんて質問は無意味だろう。リアルはきっと、来る、としか言わない。
「そうそう、校内はいい感じになってきたよ。校則を変えてすぐに何人も退学になったから、色んな憶測が飛んでる。辞めさせられた全員は何かのテロ集団だったとか、校長が何か画策しているとか、教育委員会が手をまわした……とか色々。でも磯部リアルが教祖みたいなことをしていて、それに陶酔したものを鈴原が辞めさせたって話が支配的かな」
リアルはきゃははと笑った。もう、いつもの調子が戻っているようだ。
「なあ、リアルどこにいるの? そんな話を校内でして大丈夫なの?」
「大丈夫、いま、屋上だから」
今屋上? 今は授業中だ。電話に出るタイミングといい、これは完全にサボっている。
「それから、今、吉村や他の信者候補たちが、友達にメッセージを送ってくれてる。全校集会に出るなってね。吉村は学校に来れないから、そのことをわざわざ友達を使って私の所に知らせに来てくれたんだ」
吉村先輩はもうすっかり太陽と月の教の敬虔な信者いや、活動員だ。
「そのお陰で校内には全校集会が危険だって噂が流れている。愚かなものに天罰が下るって。じゃあ。もしウサギからそっちに連絡が来たらすぐ教えてね。作戦会議をやろう。絶対ね」
リアルはそう言って電話を切った。作戦会議……できるんだろうか。
その時、スマホが振るえた。メッセージだ。
『おーい! お前どうして退学になっちゃったんだよ。何やらかしたんだよ……』
小野寺だ。泣き顔の絵文字が添えられている。そうか、小野寺には何も話していなかった。
『いや、ちょっとね』
返信すると、すぐさま返答が来る。
『てかさ、リアルちゃん、どうしちゃったの? なんか教祖になったとかって噂が流れてるんだけど。何か知ってる?』
小野寺にまで噂が回っている。
よし、この際、このお調子者を利用しよう。俺にも目的のために手段を選ばない、リアルの精神が宿ってきたようだ。
『教祖? 本当だよ。リアルに神託が下ったんだ』
『は? 意味わかんない、なに? 神なに? 読めない』
『しんたく。リアルは神様のお告げを聞いた。明後日の全校集会、神の罰が下る。体育館には近づかない方がいい』
『近づかないったって……。神とか何だよ急に。おいやめろよ、こえーよ』
『いや、本気』
『どうすりゃいいんだよ』
『休めばいいよ、それが一番簡単だ。小野寺が死んでしまったら、小野寺の親が悲しむ』
『お前は悲しまないのかーい』
小野寺は単純だ。そして意外に小心者だ。強がっているが、きっと今頃震えている。我慢しきれなくなり、クラス中に言いふらすだろう。
一年二組はリアルがいるし、ウサギも、そして俺もいた。ありえないと思えることも、きっと多くの人が信じてくれる。これで少なくとも一年二組のみんなは安全だ。たぶん……。信じてくれ。信じなかったら、最悪の場合死んでしまうかもしれないのだ。
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