(5)楽しい宗教弾圧

「下手なことしたら退学させるぞって脅してるんでしょ。バッカじゃないの。退学なんか全然怖くない。別に高校行かなくなって、勝手にテスト受けて海外の大学に進学するし」

「ま、まあそりゃそうだけど……」


 リアルの頭があれば、学歴のためだけを考えれば高校に行く必要はない。でもほら、俺たちは? 他にも友達とかいるじゃない?


「あいつの中じゃ、学校は絶対なんだ。だから私の中でも学校が絶対だと思っている。私から学校を取り上げれば泣いて許しを請うと思ってるんだよ。くだらない」


 くだらない、の中に俺が含まれているような気がするんですけど。


「あいつは学校に縛られ、学校で死ぬのだ」

 

 リアルは芝居がかって言った。


「でもリアル、布教活動はどうしたらよいのでしょう……」


 ウサギが不安げに言った。


「別に学校だけがフィールドじゃない。外でだってやれるよ」


 と、言ってリアルは腕を組んで少し考えた。


「でもな。まあ学校は大勢の人が集まっているから効率いいよね。それに学生は純粋だ。手アカのついた大人よっぽど布教しやすい。安心して、ウサギ。私は予定通り学校で布教するから。方法なんていくらでもある」


 リアルが口の端を上げている。リアルはいつでも強く、柔軟だ。


「ってかさ! きゃはは! これ弾圧だよ。弾圧されてるんだよ私達! おもしろい!」

「弾圧!?」

「こんな言葉、教科書の中でしか聞いたことない! 宗教弾圧、私たち宗教弾圧を経験しているんだよ!」


 宗教弾圧。特定の宗教の人を、その宗教を信仰しているという理由で攻撃したり、活動を禁止したりすることだった気がする。


「あいつは歴史から学んでないようね。外敵は集団を結束させるだけなのに。面白いじゃん。勝ち負けになんて興味ないけど。あいつは、倒す」


 リアルが心底嬉しそうに言って、そのまま人混みをかき分けて掲示板の方へ進んでゆく。


「お、おい!」


 呼び止めても無駄だった。

 リアルは掲示板の前に立っって振り返った。


「みんな、見たでしょう? 世界の破滅は近づいている。これもその一部。愚かな者が、本来自由であるはずの私たち生徒を支配しようとしている。この行為は神の意に背いています。愚かな者が破滅を引き寄せているんだ」


 校内で変わり者のリアルを知っている人は多い。それが昨日のチラシ配りでさらに認知度が上がった。

 事情を知っている者は、問題児が来た! とばかりに面白がる。一部は熱狂する。眉をしかめる者もいる。そして、わずかに本気で信じる者がいる。

 リアルは続けた。


「月と太陽があるように、私たちは生まれながらに役割を持っています。それを、何人たりとも否定することはできない!」


 おおお! 歓声が上がる。

 ほとんどは面白半分、ノリで声を上げているのだろう。

 そかし、その歓声が本物か偽物か外から見分けはつかない。現に、俺のように遠巻きに見ている者には、リアルが熱狂を起こしているように見える。

 演説を終えると、リアルは俺たちの元に戻ってきた。行と違い、帰りは人垣が割れて道ができた。


 リアルの言葉と、歓声を上げる生徒たち。そのセットが心を動かし、熱狂は熱狂を呼ぶのだろう。  


 俺たちは何事もなかったかのように、その場を去った。

 短時間だったので、このとき、教師の追跡はなかった。

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