(5)ロードマップ
俺はいてもたってもいられなくなり、ソファーから立ち上がった。
「早く! 日本政府とか、アメリカ? とか、そうだ警察! 自衛隊に!」
「落ち着きなさいって。ボンクラすぎてくらくらする」
「いま挙がった勢力で対抗できるとはとても思えません」
二人からの的確な突っ込みを受け、俺はそっとソファーに座り直した。
「じゃあ、どうするんだよ……」
ウサギ下を向いて黙り込んでいる。
リアルは砂時計で遊ぶのをぴたりと止めて、ニヤリとする。
「決まってるでしょ。信者を増やすんだよ」
「え、そんな事やっている暇じゃ……」
こいつは何を言っているんだ?
「いい? 魔王は来る。これは止めようがない。で、唯一魔王に対抗できるとしたら、ここにいる大魔法使いしかいない」
「でも魔力が……。あ」
俺は前にリアルが言ったことを思い出した。
「太陽と月の教を信仰する人が増えれば、魔力が戻る――」
「戻る。私たちに残された道はそれしかない。ね、ウサギ」
「は、はい。私、確かめてみたんです。そうしたら、信者が増えたことでわずかですが魔力が戻っているようです」
「信者? そうか! 吉村先輩……! 信者が一人だけど信者が増えたから!」
ウサギは少し笑って、それから少し考えて言った。
「私に魔力が戻れば何か手があるかもしれません。空間魔法を使えますし、魔王以外の魔物くらいは倒すことができます」
「信者の数はどのくらい必要?」
「そうですね……正確にはわかりませんが、今の回復の具合を考えると、目標は千人というところでしょうか」
「千人……!」
千人といえば学校の生徒数が中高合わせて七百人だから、少なくとも全校生徒は信者にしなければならない。
「生徒の他にも先生が五十人くらいいる。それに家族も。そう、まずは学校の全員を入信させなくちゃ話にならない」
学校全体……。
俺は吉村先輩のことを思い出した。
一人を信者にするだけでも相当な苦労をした。それを千人分も……。いったい何年かかるのだろうか。いや、期限は半年しかないのだ。何年もかかってはダメだ。
「大丈夫。焚火と一緒だよ。最初が一番難しいけど、種火を着けさえすれば、そこからは楽になる」
リアルが楽観的な事を言う。
焚火か。俺は小さいころに行ったキャンプを思い出した。
確か、小学校の行事で行ったのだ。薪を並べて新聞紙を突っ込み、火を着ける。が、最初はなかなか着かない。枯葉を燃やしてみたり、ライターをずっとかざしてみたりして、何度もついたり消えたりを繰り返す。
そして、ある時ようやく小さな火が付く。
そこからは、これまでの苦労が嘘のように、火は勢いを増して、後は薪をくべるだけで、どんどん火が大きくなる。
本当にそんなにうまくいくのだろうか。焚火のようになれば言うことはないのだが。
あれ? リアルは焚火なんかするのだろうか。まあ、器用なリアルのことだ、たまにはそんな事もするのかもしれない。
「よし、奇跡の次は予言に決まりだ」
「よげん?」
「宗教の定番でしょ!」
定番て……。知りませんよ。
「世界各地の宗教には予言者が登場する。彼らは未来を予言して、それが的中すると、彼の言葉は正しいということになって、信じる人が増える」
「太陽と月の教にも伝説的な予言者の記述があります」
「でしょ? だから、私が予言するんだ。この世界は滅びるって」
「そしてその通りになると」
「うん。そうしたらみんな私の言うことを信じる。まあ滅びてからじゃ遅いから、滅びる前に予言を的中させて信じてもらうことになる。つまり……」
予言を的中? 一体どうやるのだろう? ウサギの魔法で未来でも占うのだろうか。そんな事ができるのかどうか知らないけど。
リアルは立ち上がると、学校のバッグからノートを取り出してきてさらさらと絵を描いた。
「何を書いているの?」
「これはロードマップ」
ノートには、五段くらいの階段が書かれており、一番上の段には世界が滅びる、と書いてあり、半年後と吹き出しがついている。一番下には予言すると書いてある。
「まずは私が世界が滅びるって予言をする。みんなは動揺する。でもすぐに信じる訳じゃない。次にもいくつかの予言を的中させる。そうすると徐々に信じるようになる。そうやって、本当に滅びがやってくる前に信者を増やす。信者が増えればウサギの魔法も強くなって、世界の終わりも回避できる」
もう少しステップを埋める必要があるな。リアルはペンを頬に当てて独り言を言っている。遊びに行く計画を立てるように、楽しそうだ。
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