五日目 バラのお茶会
「それにしてもなんと見事なバラだ」
高塚は復元された男爵邸のテラスに出て、バラ園を眺めていた。
男爵邸のすべての施設を復活させたいと言う市民団体の活動を観光協会が後押しし、もう、二年以上前から専門の園芸業者が入り、バラ園の整備を始めていると言う。ここのバラ園が優れているのは、湖の素晴らしい景観を眺めながら、散策路を歩くだけで百種類以上のバラを楽しんで一周できるように配置されていること、そして、中心にあずま屋と素敵なベンチがあり、一休みしたり、お茶を楽しめたりすることだ。あずま屋には、男爵邸の厨房から直結する専用の整備された通路があり、ワゴンに乗せてなんでも運んでくることもできる。男爵邸が市に寄贈され、観光スポットとして開放された後は、このあずま屋は男爵邸の喫茶室の予約専用の貸し切り施設として使われる予定だと言う。
高塚は日の出とともに立石と相談の上、二時間ほど男爵邸から離れて、秘密調査に出向いていて、今帰って来たところなのだ。
高塚は手際よく、朝露のきらめくバラのつぼみを摘み取るとどの花器に生けようかと思案しながら散策路を男爵邸から別荘へと帰って行った。
「おはようございます…朝早くからの調査、ご苦労様でした。おお、なんとすばらしいバラですな…」
管理人の立石が思わず微笑んだ。
「おはようございます。立石さん…実は、今の調査で重要なことがわかり…」
花屋のケンゾーはバラを生けながら立石に、今日の捜査の内容を説明した。
「…なんですと?! 塚森山の秘密が分かったですと! ふむふむ…それで、何でそんなことになったのかと言う昔の話を聞きたいわけですね…。それなら西園寺社長の若い頃から一緒だった私の方でいろいろご協力できると思います。あと、そうですな、芦原さんと赤坂さんに頼んでみましょう…では、のちほどまたご連絡いたします」
立石は別荘の客室へと足早に去って行った。
いよいよ、この不透明な事件の裏側に光が当たって行く?!
鉄馬はその朝、ランニングの後、野菊に総合スポーツセンターに来てもらおうと、レストランの中をドキドキしながら歩いて行った。
そしておしゃべりしている野菊の後ろから近づいていったのだが…。
「ちょっと、ちょっと野菊、やったわよ、ダメもとで電話したらあの八岐さんが出て、なんとかしてくれるってさ」
「うっそー、やったわ。ねえ麗香さん、麗香さん…!」
麗香も昨日のパワースポット効果があったのか、いつもよりは少しだけ元気に見えた。
「もしかして、きのう、神沼神社でもらった木札が役に立つのかしら?」
「ピンポーン! その通り、じつはね…」
八岐が神波島に渡るために、一時間後に例のバスを出してくれることになったと言うのだ。それでボート村まで行きボートセンターでボートを借りればちゃんと神波島に渡れると言うのだ。
「神波島には、ボートでしか行けない弁天洞窟っていう神聖な場所があって、うまくすればそこにも行けるかもね…」
麗香がニコニコして言った。みんなテンションが上がって、資料を見ながらわいわい言いだした。
「あのう、すみません」
近づいた鉄馬だったが、
「あら、鉄馬君、あなたも一緒に行く?」
背の高いお姉さん瀬川麗香が声をかけるが、鉄馬は結局野菊に言い出せないまま撃沈する。
「あ、いえ、ぼくはまたスポーツセンターに行くので…じゃあ、また…」
いったい何をやってるんだか…。鉄馬はうまく言いだせない自分がもどかしく、ため息をつきながら部屋へと帰って行った。
野菊と塔子、そして麗香は、思い思いに神波島の資料を眺めてワクワクしていた。
「あれ、この栞、いいにおいがするのね!」
麗香が、七橋にもらったスパイス栞を資料の中に見つけて興味を示した。これは七橋のいる翼館という施設の人が作っているもので、全部この地域で採れる特産スパイスなんだと説明した。
「へえ、スパイスの香りがしてちょっといいわねえ。そういえば、七橋君や高塚さんとはまったくあってないわよねえ。元気なのかしら」
野菊たち三人は行動を共にしているし、瑠璃さんとも鉄馬、風間とも毎日顔を合わせている。同じ湖畔にいることは間違いないのだから、少しは顔を合わせてもいいのだけれど…。
「そうだ、野菊さあ、あの黒い携帯で七橋君たちに電話してみない?」
「そうだ、八岐さんには普通に通じているんだから、七橋君たちにも通じるはずよねえ…。話しが通じれば、会うことだってできるじゃない」
そうか、その手があったかと野菊はちょっと期待した。
黒い携帯を取り出して、試しに塔子にかけてみると、目の前の塔子の黒い携帯がちゃんと反応した。
「もしもし、野菊? ちゃんと聞こえるよ」
思えば七橋には、駅でタクシー事件の時助けられたり、病院で乱闘に巻き込まれそうになったりした時も助けられた。お礼をするどころか、スパイス栞をもらってしまった。
でもなぜか会えない。日増しに気になる存在ではあった。ちょっとドキドキしながら七橋にかけてみる。
でも、電波が通じた時に光るシグナルがまったく反応しない。そんなに電波状況の悪いところにいるのか?
「…」
だめだ…やっぱり出ない…。すると塔子が八岐に黒い携帯で連絡を取った。
こちらはすぐに八岐が出た。
「どうしましたか、胡桃沢塔子さん」
「…そういうわけで、急用があるわけではないんですが、七橋君と湖畔でも会えないし、いただいた携帯でもつながらないんです」
「そうですか、ちょっと気になりますよね。分かりました。私の方で連絡をとってみましょう。少しお待ちください…」
するとそこへ、また新進ミステリー作家の八千草瑠璃が入って来た。昨日と同じ系統のアイボリーと大きな帽子の男爵邸用のセレブコーディネイトだが、今日はお茶会にご招待ということで、ラベンダーグレイの淡水パールのロングネックレスや、カナリヤイエローのトパーズのブレスレッドなどをつけて、きらびやかにグレードアップしている。
「え、ついに神波島に上陸することになったの? すごいじゃない!」
「瑠璃さんも男爵邸のお茶会に呼ばれたんですって? うらやましいわ」
「うふふ、今日こそ、男爵邸の富子様事件の真相に肉薄しちゃおうかしら?戦後すぐに原因不明の突然死をしたとか、悲恋の末湖に自ら飛び込んだとか、今でも湖で見た人がいるとか、とにかくいろいろと伝説のある人物だけれど、いよいよその真相のかけらでもなんでもつかんじゃおうとやる気満々なわけ!」
なるほど、エレガントなコーディネートだが、鼻息は荒い。と、その時、塔子の携帯に八岐から連絡がはいった。
「…ははは、七橋君とは連絡が取れたよ。彼は土砂崩れ事件があってから、毎日翼館の人や役場の牧原さんたちと湖畔パトロールに行っているそうだ」
「湖畔パトロールですか?」
「水や食料を積んだ自動車であちこちをまわっているそうなんだ。忙しいから、電話がつながりにくかったんじゃないかな? 今日もこれから、病院のすぐ隣の熱帯植物園に見回りに行くって言ってたよ」
塔子が電話している間も、野菊は気になるのか、耳を近づけ聞き取ろうと一生懸命だ。それを見ながら塔子は八岐に頼んだ。
「じゃあ、七橋君に伝言だけでもお願いします」
「はい、では、どうぞ」
「明日の朝、暇なときでいいから、野菊に必ず電話を入れてくださいって、ね、お願いします」
「もう、塔子ったら!」
「はは、わかった、かならず伝えておくよ」
一応引き受けた八岐だったが、心の中では面倒なことになったと焦っていた。実は、七橋の携帯と塔子や野菊たちの携帯とはつながっていない、切断された状態になっているのだ。つなげることはたやすい…でも、つなげてしまったら…別のリスクを背負うことになる。あのフットワークのいい風間も野菊たちのすぐそばにいるし…。へたにごまかせば命取りにもなりかねない…。どうする…八岐は決断を迫られたのだった。
とりあえず、何か理由をつけてつながらないことに仕立てよう…。八岐はだまし通すことをやむを得ず選ぶことにしたのだった。
その頃七橋は三職人の一人カレーの坂本さんと熱帯植物園に向かっていた。
「夏休みの繁忙期に備えて、三日前に雑草をとったり整備はしたばかりなんだけど、なんと土砂崩れがおきてから、ここの職員が来られなくなっちゃって、無人状態なんだ、温度調節や水やりは、自動で行う最新システムを病院の補助金で入れてあるんだが、やっぱり心配だし、ちょうど熱帯スパイスの収穫時期も重なってね…」
熱帯植物園の入り口に着くと、もうスパイスオバチャンズがたくさん集まってきていた。
ここは鉄骨と強化ガラスでできた巨大な温室ドームと、蘭の花などが近くで見れる温室ロードがあるのだが、どちらの地下にも温泉の排熱システムが入っていて一年中温かい。ただ真夏の厳暑時期にはドームのあちこちが自動的に開いたりミストを出して温度を下げたりもしてくれるのだ。
坂本さんがみんなを集めて作業の説明をする。坂本さんは温度調整システムやその他の機械の点検を中心にするそうだ。スパイスオバチャンズの大半は雑草をとり、下に生えているカルダモンの世話などをするそうだ。
カルダモンはショウガの仲間の多年草で冬の寒さに弱いため、ここで栽培されている。その古くからの歴史から、人類最古のスパイスとも、その高い香りからスパイスの女王とも呼ばれている人気のスパイスだ。秋の収穫にむけて大事な時期なのだそうだ。
「七橋君は若いメンバーとチームを組んでもらって、ツリーロードから、背の高いスパイスの収穫を頼む。無理をすると危険だから、おかよさんから話を良く聞いて、十分気をつけてくれ」
「はい」
インドネシアを原産とするクローブやナツメグ、スリランカ原産のシナモンなどは、寒さに弱いだけでなく大木になるので、日本ではなかなか育てられないし、収穫も難しい。でも坂本さんの情熱はこの一時つぶれかけた熱帯植物園を動かし、温度調節システム、水やりシステムなどを有効に使い、さらに観光用のツリーロードを生かして、収穫までしてしまったのだ。
「はい、七橋君、坂本さんの発明した収穫用のマジックハンドよ、こっちからあがりましょう」
ドームの鉄骨に取り付けられた階段を上ると、観光用のツリーロード以外にも、スパイスの中を渡るいくつものツリーロードが見えてくる。ツリーロードから近いところになったスパイスはいいのだが、遠い枝に着いたスパイスをマジックハンドでとるのは、やはり少し技術がいる。
「あら、七橋君は若くて力もあるし、なんて言ったっておばちゃんたちより二回りは体が大きいからすぐに手が届く感じね」
「がんばります!」
その頃、八岐は野菊や麗香たちを運ぶ前に、あの若くなった二宮を乗せて、またあの湖畔の公園に来ていた。
「じゃあ、二宮さん。今日はこの特別製の携帯を渡しておきます。これはこの湖畔でのみ連絡が取れる特殊な携帯です。今日は好きな時間に向こうに行って、好きな時間に帰ってきていただいて結構です。ただ予定が大幅にずれる場合は、この携帯で私にご連絡くださればいいのです」
「ほほう、それは便利だ。ありがたい。じゃあ、ちょっとそこまで行ってきます。…上海までね」
二宮は元気な足取りで出かけていった。だが、その時、ナターシャから緊急通信が入った。
「八岐様、ご報告します。幻影のバグが出現しました」
「幻影のバグと言うと、外部でも内部でもない出どころのわからないバグか?」
「はい、未知の領域から飛び込んできたとしか考えられません…」
「座標は? いったいどのあたりだ?」
「男爵邸のあたりだと思われます。まだ存在化はしていませんが…そのうち…」
「そんなことが…あり得るのか…」
「はい、確かに」
「では、イレギュラーイベント扱いにして、リスクの最小化を目指して対応するように…。私も、もうバンガロー村の女子グループをボート村まで運ばなければならない…」
「かしこまりました」
その頃、瑠璃は湖畔の散策路をてくてく歩いてそろそろ男爵邸に到着しようとしていた。まだ朝方なので、木陰の道は涼しく、湖から風が吹いてくると汗もすーっと引いて行く。瑠璃は遠景から男爵邸の写真を数枚撮り、今日はそのまま、湖側から近付いて行く。
「わあ、いい匂い、そうか、バラ園がちょうどいい季節なのね」
すると、あの省吾と呼ばれていた若い使用人が、瑠璃の姿を見つけて、近付いてきた。
「八千草瑠璃様、お待ちしておりました。さあ、こちらへ」
瑠璃は咲き誇るバラの小道を抜けて湖を臨むあずま屋へと案内される。
「すぐに用意が整います、しばらくお待ちください。今瑠璃様がお見えになって、ちょうどポットのお湯を沸かし始めたところでございます。すぐに主人も顔を出すと存じます。喉がお渇きのようなら、この冷水をどうぞ…」
瑠璃は素朴な彫り物のある椅子にもたれて、大きく深呼吸をした。湖の息吹に幾種類ものバラの香りが溶け込んで、胸がいっぱいになる。
その頃二宮は、上海の街でまさかの逃亡劇を繰り広げていた。果物屋の角を曲がり、さっと裏通りへ入る。だめだ、まだ足音が追いかけてくる。ヤンファに何かおいしいものとでも思って、市場で色々と買いこんでいたら、まさか、見つかってしまったのだ。
「…二宮さん、あんた、まずいことしたね」
カチャッというナイフの音が聞こえたかと思って振り向くと、なんとチャンの手下が二人、そこに立っていた。
「日本軍が面倒だから、命をとれとは言われてないけど、しばらく街に出られないように痛めつけろって言われたよ」
二宮はとっさに果物屋の店員に札を握らせ、オレンジの入った籠をひっくり返してその騒ぎの中を逃げ出してきたのだ。だが、やつらのしつこさはこんなものではない、もたもたしていると命取りになる。
「…もしもし八岐さん、すいません、今日は集合場所に時間通りいけません。こちらで泊っててもいいですか?」
電話に出た八岐はまるですべてを知っているように落ち着いて答えた。
「わかりました、こちらの方はすべてうまくやっておきます、ご心配なさらず…」
でも電話を切った途端、声が聞こえてきた。
「よし、こっちだ」
二宮はその若い力でわざと人ごみの中に潜り込むと、今度は大通りに向かって走り出した。
「へ、馬鹿な奴、大通りに出たら、こっちのものよ」
大通りには他のチャンの手下もいる…、手下たちはここがチャンスと追い込みにはいった。
「よし、二手に分かれる、ぬかるな、二宮はすぐそばにいるぞ!」
「おう」
チャンの手下は二手に分かれ、さらに大通りに待機していた仲間に口笛で合図を送った。
路面電車が目の前を通り過ぎ、何台もの車が行きすぎた直後だった。雑踏の中で声がした。
「二宮がいたぞー!」
そのあとで仲間を呼ぶ口笛が一瞬響き渡ったと思っていたら、拳銃の音とともにどなる声が聞こえた。
「まて、逃げると今度は頭を狙うぞ!」
雑踏が悲鳴とともに散り散りになり大通りは大パニック状態になった。
「血の跡がある、やつの足に確かに当たった。やつはもう走れない、すぐにとっ捕まえろ!」
拳銃に逃げ惑う人々、走り回るチャンの手下たち、遠くでは治安本部のサイレンの音も近づいてくる。だが、少しすると、ちゃんの手下たちがうろうろし始める。二宮がどこにもいないのだ。たいして歩いたり走ったりもできないはずの男が…?
「裏小路に姿を隠したか? 探せ探せ!」
チャンの手下たちは裏小路へと走って行った。その頃当の二宮は、大通りのいつもの場所に待機していたハンの人力車に倒れ込むように身を隠して協同租界の出口あたりを走っていた。ハンはいつもと変わらぬ舵棒操作で、からの人力車を引くふりをしてひたすら走っていた。二宮は、血が流れると怪しまれるので、激痛を我慢しながら、弾丸が貫通したふくらはぎのあたりを軍隊仕込みの止血法でぐるぐる巻きにして息をひそめていた。
「二宮の旦那、家に着きました、降りられますか? すぐにヤンファが手当てしますので…」
運よく血は止まりかけていた。二宮はハンの肩を借りて転がり込むように家の中へと入って行った。ヤンファが汲んできたきれいな水で傷の周りを洗い、そして布でしばって手当ては終わった。
「ハンさん、おれのリュックはあるかい?」
「はい、すぐ持ってまいります」
「今日、市場でみんなにお土産を買っていたら、運悪くチャンの手下に会っちまってな…。開けてみてくれよ」
ハンがリュックを開けると、ハンの大好物のカニの缶詰やソーセージ、ヤンファの大好きなフランスのお菓子などがぞろぞろと出てきた。
「二宮の旦那、すみません、おれたちのために…こんなに…」
「すまんな…おれがドジ踏んでしまって…」
ただ、足の激痛ばかりはどうしようもなく…二宮は激痛にうめき声をあげるばかりであった。するとヤンファがそっと寄り添って言った。
「二宮さん、私が手を当てて痛くなくなるようにお祈りすると、少し痛さが減って、傷が良く治るんだよ。今やってあげるから、ね」
ヤンファは足の傷の上にそっと手を当ててくれた…とても暖かくて…心が安らいだ。
「本当だ…ヤンファの手は…まるで魔法の手だね」
二宮はそう言って、少しだけほほ笑んだ。そのうち気が遠くなっていった。
その頃、野菊たちはボート村の船着き場から出港しようとしていた。ガラガラのボート村の中でそこだけ営業していたフィッシングセンターに入って行くと加藤と言う若い男が出てきて応対してくれた。
「おお、神社発行の許可証じゃないですか」
加藤は、あの木札を見るなり急に態度がまじめになり、テキパキと用意をしてくれたのだ。
「観光モーターボートの定期コースは、ゆっくり湖を一周した後、神波島に渡り、一度上陸してお参りした後、帰りに弁天洞を回って帰ることになりますが…それでいいですかね」
「はい、よろしくお願いします」
瀬川麗香がしっかりと答えた。昨日も開運パワーをたっぷりもらった、今日も最強のパワーを存分にすって、すべてを跳ね返す力を手に入れるのだ! 五人乗りの観光モーターボートはゆっくりと湖にい滑りだして行ったのだった。
「わあ、すっごーい!」
モーターボートはゆっくりカーブを切りながら、南側のボート村を離れ、穏やかな丘陵の上にある財団病院や熱帯植物園、丘の下のバブル別荘地やバンガロー村がある東岸へと回って行く。さらに波しぶきを上げて回り込んでいく。
そして、自然保護区域のある、北岸の大きな森が迫ってくる。青が瀬川や神沼からの湧水など大小の川が流れ込んでくる命の息吹を感じる場所だ。さらにしばらく進んでいくとゆっくりと男爵邸が近づいてくる。
「あれ、あの大きな帽子、瑠璃さんじゃない?」
めざとい塔子が男爵邸のあずま屋にいる人影を発見した。あずま屋のおしゃれなテーブルに向かい優雅に椅子に座っている。
「瑠璃さあん! 塔子でええす」
「野菊でえす、ここです、ボートでええす!」
すると瑠璃もボートに気が付き、立ち上がって湖畔に歩き出しながら、大きく手を振ってこたえてくれた。そしてボートがゆっくり正面に近づくと、モーターボートで手を振る塔子たちの写真を撮りまくってくれた
だが驚くべきはそのあとだった。瀬川麗香が突然息をひそめて、凝視した。瑠璃があずま屋へと戻って行くと、その時、男爵邸から、咲きほこるバラの花園を抜けて近付いてくる人影があった。一人はきちっとしたスーツを着た若い男、そして、その後ろからやってくるのは銀色のロングドレスを着た美しい女性だった。
「あ…あの時…?!」
あの湖の中から自分を呼んでいた美女ではなかったか? そんなはずはないと思っても、あの湖底に引き込まれそうな美しくも恐ろしい記憶の中にフラッシュバックして見えてきた姿だった。
「…?!」
わけもわからず、立ち尽くす麗香…、でもその女性は満面の笑顔で瑠璃を迎えているようにも見えた…思いすごしか…? やがてボートはゆっくり男爵邸を離れていったのだった。
「…どうしたの麗香さん?」
「…ううん…なんでもないわ…さあ、もうすぐ神波島よ」
モーターボートは遠くに火山を臨み広い野うちの広がる西岸を横に見ながら、湖の中央にある神波島へと近づいて行った。
「…芦原さんは社長の死に伴ういろいろな事務整理に取り掛かっています。少し遅れてこちらに来ます。先に始めていてくださいとのことでしたが、よろしいでしょうか」
「はい、承知しました。昨日の古い地図や金と銀の鍵が、今回の殺人事件に深くかかわっているというのが、私の見解です。殺人は犯人の思惑通り成功した。だが、まだ道路の復旧もできていないし、電気もまだまだ行き届かない。社長が死んで、謎の地図や金と銀の鍵が出てきたのだが、この状態では、怪しい動きをしたらすぐに分かってしまう。下手に動くこともできないし、逃げ出すこともできない。だから犯人は…」
「動かずに、いや動けずにこの別荘でじっとしているということですな」
「事故の翌日に、翼館でドローンを飛ばして土砂崩れの状態を見たのですが…道路だけの開通なら一週間ほどで復旧するだろうと言うことでした…復旧したら、もしくはその見通しがついたら犯人たちは動き出すに違いありません。それまでにこちらも捜査を進めておかなければならないのです。では、立石さん、まずはお話からお願いします」
高塚はまず古い新聞をとりだした。
「こちらに来る前に、西園寺社長の昔の活動を調べていた時に見つけた気になる記事です」
「ええ、よく憶えていますよ。新宿の再開発に絡んだ地上げ事件ですよね。この頃は得体のしれないやくざ見たいな輩がうちの社長の周りをうろうろしていましたよ」
地域の医療に貢献してきた緑会病院という中堅の病院が再開発に巻き込まれ移転先が決まらず、地域の人々が移転反対運動を起こしたと言う記事であった。結局は病院は社長に乗っ取られ、事実上移転の末、経営者一族は離散、そこで働いていた緑川が看護師として今この別荘にいるわけである。
「ええ、あの頃はうちの社長もむごいことをやっていたものです」
「…そして私にも調べきれなかったのは、そのあとの巨額脱税事件です」
「やはりそこですか…」
「結局あの新宿の時の再開発で社長が儲けた金のうち数億円以上が関係会社やダミー会社に送られたまま、行方が分からなくなっている…
「…いちおうその件で、当時金庫番だった赤坂とその部下だった東条が逮捕されたのですが…。結局裏帳簿などの証拠も見つからず…」
「事件はうやむやのまま終わり…多額の金が行方知れずになった…間違いないですね…」
すると立石は複雑な表情で答えた。
捜査に当たっていた「査察も全力投球し、本社から社長の自宅、各営業所なども間髪いれずに調べたのだが、証拠は出なかった…さらに複雑な金の流れを裏付ける手がかりさえ
どこかに消え去っていた…。」
「…つまり、その巨額の金や事件の証拠に鳴る者が、あの地図の示したどこかに隠されていたと言うのが、私の考えです。巨額脱税事件とその金の行方、謎の地図の解明が、今度の殺人事件に深く関係している…そう考えるわけです」
その時、遅れていた美人秘書の芦原が入って来た。なんとあのこわもての赤坂も一緒ではないか?!
「…遅れて申し訳ございません。それで、私の父のことをお話すればよろしいのでしょうか?」
芦原はうつむいたまま席に着いた。赤坂が言った。
「芦原さんの父上の会社は、その時うちの社長と大きな取引をしていて、その当時、私も何回もお父上とお会いしたものです。とても堅実で責任感の強い立派な方でしたよ」
すると芦原が事件の核心に触れる発言をしたのだった。
「私の父は、ここの社長を信じていろいろ協力していたのですが、ある日気がつくと、父の会社が巨額脱税事件の大きな裏金の流入先にされていたのです」
それは自分も知らなかったと、赤坂が驚きながら芦原を見た。
「もちろんそんな何億もの大金などどこにもあるはずもなかった…父や父の会社、私たち家族の周辺にも捜査の影が及ぶようになり、あの頃はみんな生きた心地がしませんでした」
芦原は一言一言絞り出すように続けた。
「父は疑いを晴らすべく、あちこちを飛び回っていたのですが、そのさなかに謎の交通事故で亡くなりました。脱税事件がうやむやになるきっかけになったのが、父の交通事故でした。父はすべての謎を一人で背負ったまま死んでいったのです」
それはまったく公表されていなかった高塚も初めて聞く事実だった。芦原は続けた。
「…父の事故は見通しのいい直線道路で、飲酒運転の上ハンドル操作を間違えて中央分離帯に接触したのが原因と言われていましたが、家族はだれも納得していません。なぜなら父は前年から願かけをして酒を絶っていたからです」
芦原はどうにもおさまらない表情でそう言った。
すると高塚は例の謎の地図の写しを取り出し、核心に迫る発言を始めた。
「私がこれからお話しすることは、全くのおとぎ話のようなことで、裏付けはありません。まずこの地図ですが、いったい何の地図なのでしょう? 西園寺社長が死んでから発表する者の中に入っていたということから考えると、かなり重要なものなのでしょう。さらに鍵が出てきたことと考え合わせると、重要なものが三か所に隠してあると考えるのが妥当でしょう。そこでまず考えたのが、消えた数億円でした」
「…でも地図に在る赤い印は三か所、鍵は二つしかありませんが?」
立石の問いかけに高塚はあの古い木の札を取り出しながらこう言った。
「たぶん、これが三つ目の鍵でしょう。古い木札で字がよく判読できないのですが、古い歴史のある者だと考えるとこうは推理できないでしょうか?」
高塚の鋭い視線に、芦原は、身を乗り出して聞いていた。
「地図の三地点のうちで古い歴史のある場所があります」
「それはやはり…」
「はい、湖の真ん中に在る神波島です。あそこには神沼神社と同じくらい古いと言われている神社があり、今は観光船は行かなくなりましたが、今も神波神社の宮司によってきちんと整備されています」
すると芦原が突然意外なことをしゃべり始めた。
「…そのことなんですが…実は神波島に観光船が行かなくなったのは亡くなった西園寺社長の意志かもしれないのです…」
「え?」
高塚と立石の視線が芦原に注がれた。
「バブルがはじけた後、観光船の定期コースが廃止になり、神波島へは許可がなければ行かれなくなりましたけれど、そう決めたのは西園寺社長です。観光船の収入は減りましたが、ぎりぎり赤字にはなっていなかった。観光船をやめてフィッシング用の小型ボート中心の観光に切り替えようと決断したのは西園寺社長です。その決断は成功し、全国から釣りファンが押しかけ、ボート村も繁栄しています。でも、その狙いが、神波島に人を近づけないためだとしたら…あの時の社長の決断が何かいつもと違っていたので…そんな気がしてきました…」
でも高塚は慎重な姿勢を崩さずに言った。
「だが、神波島に何か隠してあるとすれば、問題なのは古い木札です」
「それはどういうことですか?」
立石の問いに高塚は木札を見せながら言った。
「いいですか、金の鍵や銀の鍵なら、どこかにある鍵穴を見つければ開けることができます。でもこの木札はなんの仕掛けもないただの板のようです。つまり、誰かすべての事情を知る人間に見せることによって、初めて次の段階に進むことのできるものなのです。神波島は今は無人です。いったいだれが、この木札を判読して隠してある場所へと案内してくれるのでしょう?」
すると芦原がまた意外な事実を話し始めた。
「たぶん…それが誰だか私にはわかります…」
「やはり、神社の宮司さんですか?」
「…いいえ、違います…社長は前の奥様をご病気で亡くし、生まれ変わったつもりで心を入れ直して、この湖の周辺の開発に当たられた。そこでこの湖周辺の大地主の西園寺の一族と知り合い、西園寺静江様と出会い再婚された。私が秘書になったのはその頃です。社長は人が変わったようになり、ここの再開発に打ち込まれていました。でもお仲間の中には昔からの怪しい知り合いの方もいました。私には把握しきれませんでしたが、この湖開発の裏の部分を一手に押さえていた、今も押さえている男がいるのです…それは…ボート村の黒仁田竜二です」
すると赤坂がぽつりと言った。
「黒仁田竜二…社長の若い頃からの付き合いで…やつは地上げ屋の実行部隊なんかを引き受けていた男です」
「では、神波島の方は、そちらを当たれば、あるいは見通しがつくかもしれません。あと地図にある赤い印は二つなのですが、立石さん、男爵邸の隠し部屋に心当たりはありませんかね? 実は私はこちらに宿を移し、この男爵邸の見取り図を作ることから始めたのです。そして、この男爵邸には、三か所の入ることのできない空間があることが判明しました。こちらをご覧ください」
そう言って高塚は正確に線引きされたこの男爵邸の一階と二階の手書きの見取り図を広げて見せた。
「厨房の横のここと、増設されたエレベーターの隣のここ、そして二階の大階段の上に奇妙な空間があることが分かりました」
立石はその見取り図の正確さに驚きながら、しばらくそれを眺めてからこう言った。
「厨房の横の空間は半地下の昔のワインクーラーですな。分かりにくいのですが取っ手がついていて、そこを持ち上げると壁ごとスライドして中に入れます。今はほとんど酒は入っていないはずです。それと、エレベーターのところの空間は、機械室となっています。数カ月に一回、エレベーターのメンテナンスの業者が来るときにだけ開けます。鍵は業者が持っているのですが、合い鍵は芦原さんが管理しているはずです。なにしろあのエレベーターは今まで社長専用で使っていたものですから」
すると芦原は他人事のように黙ってうなずいた。
「あとは二階の空間ですが、わたしもここが怪しいとは思っています。社長が、富子様の肖像画を取材のために持ってきた時、二階のどこかから持ってこられたからです。でも、二つの理由でどうにもなりません…」
「その理由とは?」
「大階段を上がったところに、畳1枚ほどの空間があるようなのですが、あまりにも狭すぎるのと、ドアが全くないのです。仕方なければ壁を剥がす手もあるでしょうが、もうここは市の管理物件になり、小さな工事からでも市の許可が必要になり、もう勝手に壊したりはできない面倒な状態になっております」
「ううむ。わたしもいろいろ調べたのですが、大階段の上の壁からは、鍵穴一つ見つられませんでした…。中に入る何らかの方法があるはずなのですが…」
すると芦原が、高塚をせかすように言葉を発した。
「高塚さん、ではうかがいますが、最後の赤い印、あの土砂崩れを起こした塚森山の山頂付近ですが、その地点についてはどう考えているんですか。もちろん今は立ち入り禁止だし、無理に昇れば二次災害で死ぬかもしれない場所です。あんなところに何かがあるとも思えないし、取り出せないし、でもやっぱりなにか隠してあるのでしょうか?」
すると高塚は、自信たっぷりにしゃべりだした。
「実は…私は今日の朝早くからだれにも知られないようにして行ってきたんですよ。塚森山のその地点に」
すると芦原が驚いた。
「だって塚森山への道路は全部封鎖されて、立ち入り禁止になっているじゃないですか?! あの柵を越えて中に入られたのですか?」
すると高塚は平然と答えた。
「もちろん柵を越えて立ち入り禁止区域には、一歩も入ってはいません。でもある閃きがあって進んでみたら、大きな扉と鍵穴を見つけたんです。たぶんあのがっしりした銀の鍵と合いそうな鍵穴をね」
そして高塚はスマホの画面で、今朝撮って来たデジタル写真をみんなに見せたのだった。みんなは驚いた。だが中でも赤坂の驚きようはなかった。
「本当だ、鉄の扉と鍵穴が確かに写っている…。高塚さん、あなた、鍵を入れてみたのですか? 扉を開けてみたのですか?」
「さあて、これ以上は捜査上の秘密と言うことで。あ、鍵は一応、たなに返しておきますよ」
「うそでしょ、あんなひどい土砂崩れの塚森山の、しかも山頂付近に行けるはずはないわ!」
でも証拠の写真もある、高塚は今朝、ついにあの塚森山の謎を解いていたのだ?!
「でも、実際に鉄の扉はあった…。おっといけない、犯人が聞いているかもしれません。またもっとはっきりわかったら報告いたします…。ではご協力ありがとうございました」
高塚はそこであえて話を打ち切り、部屋を後にした。
でも、実は今の赤坂と芦原の会話の中で思わぬ事実が分かった。事件の真相へと大きく一歩近づいたのだった。
その時、ナターシャ前園は、コンピュータ室で異常な数値の上昇を発見していた。早速八岐に知らせる。駆け付ける八岐。
「八岐様…異常事態です…。温かなプラスの波動と冷たいマイナスの波動の分布域と強さを表した図をご覧ください…」
「…うむ…今日の早朝から、塚森山でマイナスの波動が徐々に強くなり、異常なレベルにまで上昇している…? これは、いったい?」
「あんな山の中に何かあるはずもないのですが…」
「しかしこの数値だと、なにか悪い影響が起きるかもしれない…」
うなずくナターシャ、八岐は予想外の出来事に首をひねった。
「…塚森山…、忘れていた悪夢が何かのきっかけで呼び起こされたのかもしれない…?」
バラの花園の中心に位置するあずま屋からは、バラの花越しにキラキラ光る湖のさざ波が見える。光りながら打ち寄せて、バラの香りを運んでくる。すぐ横にある男爵邸の厨房から一直線につながるコンクリートの通路があり、そこをお茶のセットを乗せたワゴンが滑るようにやってくる。
「御苦労さま」
あの省吾と言う若い男が厨房の者からワゴンを受け取り、一緒にやって来たお嬢様とお茶の用意を始める。瑠璃は優雅に座りながら、心の中ではいったいなんと話しかければいいのか戸惑っていた。目の前にいるお嬢様は、どう見ても富子の肖像画にそっくりだ。
でも、にこやかにあいさつをしてくれて、一生懸命お茶の用意をしてくれているところを見ていると、人間味あふれて、幽霊のようには見えない。さっきモーターボートに手を振っていたわけだから、タイムスリップしたわけでもない。たぶん子孫の一人だとは思うけれど…。いったいなんと話しかければいいのだろうか。するとポットに茶葉を入れて熱湯を注ぎ、金の懐中時計で時間を測り始めたお嬢様が話しかけてきた。
「お客様、八千草瑠璃様ですよね。ミルクはお入れしますか?」
「いえ、ストレートで。それと呼ぶときは瑠璃で結構ですよ。それであなたをなんとお呼びすれば…」
するとお嬢様はまさかの通りの答えをしてきた。
「…私はこの男爵邸の一人娘の富子と申します。富子と呼んでくださって結構ですよ」
…本物なのか? すると富子はほほ笑みながら言った。
「…そりゃあ、驚きますよね。驚いて当たり前です。でも私の言ったことを信じてくれるなら、なんにも疑わずに信じてくれるなら、あなたの取材に全面的に協力しますよ」
すると瑠璃は迷わずに答えた。
「信じます」
「あら、ちょうど紅茶の茶葉が開いてきた時間になったわ」
富子が英国王室御用達と言う鮮やかな茶器に香り豊かな紅茶を注ぐ。すると省吾がバラのエキスと小さな花弁を使ったバラのプディングや、クッキーなどのお菓子を並べてくれた。
「わあ、このクッキーの箱なんてきれいな箱なのかしら」
とろけるプディングを頬張ったまま、瑠璃は興奮して喋り出した。
大きな金属の箱の蓋に風景画と花模様が描かれ、箱の中は丁寧にいくつにも仕切られて、さまざまな形のクッキーが並んでいた。
瑠璃は自分もこんなクッキーの箱がほしくて、持っていた小さなドールハウスにクッキーを並べた話などを始めた。富子様は大層喜んで、自分もおもちゃにクッキーを入れていたと言って、省吾に何かを取りに行かせた。
「かっわいい、乳母車のおもちゃね。え、中にクッキーが入ってるの?」
乳母車のおもちゃの中にはミルククッキーが、小さな包みごと入っていた。
「わあ、ミルククッキーも甘くてやわらかくておいしい!」
乳母車が瑠璃に受けると、富子は本物のトパーズや琥珀のついた小さな宝石箱を開けてくれた。中では宝石のような赤や黄色のキャンディーがキラキラ光っていた。なんでも神戸にいる親せきがときどき送ってくれるのだと言う。瑠璃が自分はミステリー作家だと言うと、富子は早速読みたいと言いだした。持ってくればよかったと思いながらふとバッグをのぞくと、真新しい最新刊が出てきた。あれ? 入れた覚えはないけれど。まあ、いいか。さっそく富子にプレゼントした。それから瑠璃は聞ける範囲で富子のことを聞いた。
今一番興味があるのは、男爵邸の日本画のコレクションだと言う。
富子の祖父が、日本画や浮世絵に興味があって昔から沢山あったのを、男爵がさらに買い集め、結構な貴重なコレクションになっているのだと言う。
「いま、そのコレクションを管理しているのは私なの。絵のことでいろいろ勉強もしています。あ、そうだ、瑠璃さん、明日もまた来てくださらないかしら?」
「え? 喜んできちゃいますけれど? いいんですか?」
「明日までにお父様の許可を得て、隠し部屋を見せられるようにしておくから…。中に瑠璃さんに見せたい色々なコレクションがあるのよ…」
瑠璃は隠し部屋を見せてもらう約束をして、帰りの支度をした。
「来てくれてありがとう、本当に今日は楽しくて、楽しくて…」
富子は目をうるませてそう言った。なぜか瑠璃も涙ぐんでお別れをした。
そのころ風間は病院で奇跡とも言える信じられない体験をしていた。
「約束の時間まであと三十分ある。なんでも言ってくれ。こちらも楽しくなってきたよ」
ネクストサピエンスの黒逸は、子どものように目を輝かせながら風間の次の言葉を待っていた。今日は病院に併設された大きな図書館で黒逸の知力を試そうと取材を申し込んだのだ。最初は本当に十六カ国語を話せるのかと、いろんな語学の本を出してはいろいろ質問をしてみた。世界を数十カ国回っている風間は、いろいろ試してみたのだが、どんな言葉を聞いても黒逸はすらすら話しだすのだ。でも英語やドイツ語、フランス語などは正解かどうか何となくわかるのだが、だんだんマイナーな言語でもすらすらしゃべりだすので、もうこっちが確かめられなくなり、十カ国語ほどで挫折した。そのあと、歴史、文学、数学や物理学など、あらゆる専門書を引っ張ってきては何を質問しても百点満点で答えるのだ。凄いと思ったのは、九十点でも九十五点でもない、いつも百点なのだ。もう風間の理解を越えていた。なんといったらいいのだろうか、
大学生が小学一年生の問題を解いている感じだ。もちろん勉強しなければ知力は身に着かない。彼は幼少時より、ネクストサピエンス用の特別な教育プログラムで育てられたと言う。たとえば言語などは、先生が十人いると、それぞれの先生が授業をそれぞれの異なった言語で行うそうだ。つまり幼稚園時代から、ある先生は英語だけで接し、ある先生はフランス語だけしかしゃべらない、ドイツ語、ギリシア語など沢山いるわけだ。彼は言語は人によって違うものだという感覚で育ち、幼少時からすでに十カ国語以上を理解し、それを使って授業受けていたという。
さらに、複合問題を解くのが、幼少時より当たり前だったそうだ。たとえば自分が探偵になって犯人を当てるという問題があるとすると、語学力と読解力を駆使して謎の外国語の手紙の謎を解き、理科の実験によってトリックを暴き、数学力を使って、犯人を特定すると言った具合の問題を普通に解いていたと言うのだ。
だが風間のふとした思いつきが、次の一言が、大きな波乱を呼ぶことになる。
「黒逸院長、明日も1時間だけよろしいでしょうか?」
「今度は何で挑戦してくるつもりかな? ぼくは負けないぞ、ハハハ」
「運動能力です。ネクストサピエンスが運動能力もずば抜けていることを確かめたいのです」
すると黒逸院長も、興味深そうに答えた。
「それは面白いかもしれない。まだ私は体力や運動能力の細かい測定や診断はやったことがないからだ」
そして風間と打ち合わせして、明日の午後一番で、隣の総合スポーツセンターへ行くことが決まってしまった…。
同じ頃、スポーツセンターで、鉄馬も、野菊たちを明日こそ試合に呼ぼうと決断したところだった。鉄馬は今日も運動能力の分析を行ったのだが、結果が抜群に良かったのだ。
「君は最初の分析では、どちらかと言うと能力面よりメンタル面での問題が大きいタイプだった。その日の気分で調子が上下するという分析が出た。でもなぜか昨日、今日と何か吹っ切れたのか、メンタル面もブレがなくなり、それに合わせるように運動能力も右上がりだ。明日で我々のプロジェクトも一時終わりだが、明日はもっといい点数がとれるかもしれないぞ」
トレーナーの照井が大きくうなずきながら、鉄馬の背中をたたいた。
「よし、明日こそ、間違いなく、野菊を呼ぶぞ!」
鉄馬の頭の中には、あの高校の時のボート小屋のキスの思い出が浮かんでいた。あの浜辺の合宿所で眺めていた高校生の野菊の面影が鮮明に浮かんでいた。
その時、空間を越えて、何かが起ころうとしていた。
「あれ、私どうしたのかな…なんか目がおかしい?」
神波島に上陸した時…塔子がつぶやいた。神波島の周りには、ごつごつした岩礁が出ている地帯があり、ボートのスピードを遅くして慎重に進んでいかなければならない。このあたりが、バス釣りの穴場になっていて、普段は釣りのボートが沢山浮かんでいる場所だ。霧の中、昔ボート部が遭難して死者が出たのもこのあたりだと言う。そこを抜けると意外と整備された船着き場があり、そこでモーターボートは止まった。運転していた加藤は、神社への道を簡単に説明し、三人を船着き場から上陸させた。
「道は一本道で間違いないし、行って帰って五分ぐらいのところですから、なにかあったら大声出しても聞こえますよ。じゃあ、俺はボートで待機してますから…」
ところがまた瀬川麗香が資料を取り出し、加藤に注文をつけ始めた。
「一回券には違いないけれど、この木札を持っている参拝者は、記念品を買って帰れると聞いていますけれど…」
「…そ、そうだったかなあ…すいません、私も向こうまで行きます。行けばわかると思うので…」
ここは変岩・奇岩の名所で、奥には弁天岩と言う昔の観光の目玉だったところもある。
緑深い島なので、歩くのも大変だろうと思っていたら、もともとの溶岩を削って階段にしたり、溶岩を砕いて敷き詰めたりして、きちんと参道が整備してあった。とっとこ先頭を歩いて行く加藤に従って、みんなのんびりと歩いて行く。
「なんか木々が生き生きしていて、私たちを歓迎してくれてるみたいね」
そう言って野菊が振り向いた時、塔子の目には、なぜか野菊が、すべての風景の中で野菊だけが、二重になって見えたのだった。
「あれ、私どうしたのかな…なんか目がおかしい?」
塔子はすぐに隣にいた瀬川麗香に聞いて見た。
「そうねえ、でもどちらかと言うと野菊さんが二重に見えるようになったと言うよりは、野菊さんが二人いて、それが同じ場所に立っていたような…そんな感じに一瞬見えたけど…おかしいわね…もう普通に戻っている」
どうも麗香にも同じように見えたらしい。ちょっと不思議な感じだったが、歩くにつれ、若葉の芳香、数百年を経た樹木の精気、そしてところどころに咲いた白い花など、島の静けさと聖なる息吹に包まれて心が澄んでいった。すぐに小さな神社の建物が見えてきた。大きな神木のすぐ奥だ。
「わあ、きれい。こんこんと泉が湧きだしてる…」
神社のお堂の前には小さな泉が湧き、みんなはそこで手を洗い、お参りをした。良くあるぶら下げられた大きな鈴ではなく、お堂の入り口に棒の先についた小さな鈴が刺さっているだけだった。
「リリーン」
棒をちょっとだけ触ると、邪気をはらう澄んだ鈴の音が鳴り響いた。
「いわれはよく知らないけれど…心が洗われるような場所だね…」
塔子がぽつりと言った。そして三人は、思い思いに願い事をすると、お堂の横でうろちょろし始めた加藤に質問した。
「ええっと記念品は買えるんでしょうか?」
すると加藤はちょっとおどおどしながら、麗香に答えた。
「すいません、案内は初めてなもので段取りが悪くて。ええ、もちろん買えますとも。一体どんなものが買えるって書いていました?」
麗香は資料をひっくりかえし、以前は観光客ならだれでも買えていたものを読み上げた。
「ええっと…まず、この神波神社のオリジナルお守り、それからあの戸口にもあった邪気を払う鈴…」
その時、好奇心からお堂の中を格子戸の隙間から何気なく覗いていた塔子が驚いた。お堂の中には小さな木の机があるのだが、麗香がお札といえばお札が、鈴と言えば鈴が現れて、商品として並んで行くのだ…。
「え、どういうこと?」
麗香はさらに続ける。
「それとちょっと値段が高いけど…それはそれは霊験あらたかな、翡翠の目を持つ竜神様の金属のお札ですね」
塔子は息もつかずにそれを見ていた。銀色の板の上に、みるみる昇り竜の彫り物が刻まれていき、最後に深い緑色にひかる目がきらめいた。
加藤がガラッと小さなお堂を開ける。
「ありましたありました。お客さんがおっしゃっていたものがちゃんとありましたよ」
麗香は柄のついたあの鈴と昇り竜の金属のお札を早速買った。野菊と塔子もお揃いでオリジナルお守りを買ってにこにこだ。
でもあのお堂の中でこれから買うものがならんでいったのは幻か、それとも…。塔子は野菊の二重に見えたことと言い、もう一度目をこすった。
やがて三人はボートに戻って、本当の御神体のあるという弁天洞へと出発だ。
弁天岩という、少し大きな岩礁が島のそばにあり、そこに小さな横穴が開いているだけなのだが、その風情がなんとも霊格がただよい、時に翡翠のように光ると言うのだが、どこがどのように光るのかもわからない…。
「あ、本当だ、小さな洞窟の奥に、すらっと立ちあがった弁天様みたいな彫刻が見えるよ」
「おお!」
みんなボートの上から中を覗き込んで驚いた。
「今日は波が静かだから奥まで良く見える…あんたら運がいいね」
加藤が運転しながらさらに近付いて行った。その時だった。何の加減か、短い洞窟の中にさっと日が差し、洞窟の水底が、エメラルドグリーンに輝きだしたのだ…。
「わあ、なんてきれいなの? これこそ、翡翠の光だわ!」
ヨーロッパにも青の洞窟という名所があるが、こっちは青みがかった深いグリーンだった。なんと不思議な翡翠の光、照り返しを受けて、洞窟全体が光っているようだった。
揺り返す波の音を背に、みんなはしばらく翡翠色の世界に浸っていた。
「すごい、パワースポットだったね…」
みんな聖なる息吹で胸を見たし、静かに神波島をあとにし、バンガロー村へと帰って行ったのだった。
その頃七橋は、カレーの坂本さんを連れて、翼館に帰っていた。
「いやあ、スパイスにあんなに種類があるのも知らなかったんですが、クローブとかナツメグとか、あんなに高い木になってしまって、僕はツリーロードからとりましたけど、現地の人は大変なんでしょうね。カレーを食べる時の気持ちが変わりますね…」
収穫したスパイスは、中古別荘を改造した加工場で選別・乾燥されてやっと製品のスパイスになる。さらにそれをブレンドし、ほかにない、世界でただ一つの味を坂本さんは作り上げるのだ。今日の夕食はスパイシーカツカレーだ。みんなの瞳が子どものように輝く。
みんなでたらふく食べて、そのあとはサチエさんのチャイでくつろぐ。
カルダモンの実をつぶし、シナモン、クローブと混ぜる。深いコクを出すためにオールスパイスを少し振るのがサチエさん流だ。これを六十度に温めた低温殺菌牛乳で抽出し、わずかな黒糖を加える。これが本当にうまい。疲れが音を立てて溶けていく。そこに今日も、御剣さんがやって来た。
「七橋君がわしの幸せや夢の話を聞いた時、納得できないと言う顔をしておったなあ…」
「…だって、先生のような素晴らしい方が、特に夢も希望もないとおっしゃるので、どういうことかと思っていました」
すると御剣さんは長くなると前置きして昔話から始めた。学生時代、大学の時の自然科学の教授と意気投合し、大学院でも研究を続け、そのあとも非常勤講師などをしながら研究を続けたと言う。そしてずっと研究をともにしてきた後輩と結婚、それが奥さんだと言う。写真を見せてくれたが、短髪で活動的な、とても美しい人だった。
「彼女は一緒に研究をしてきたかわいい後輩であり、苦労をともにしてきた戦友も同じだった、お互いの短所も長所も分かっていたから、一生一緒にいると信じていた…」
だが、すべてがうまく行き、博士号もとり、女の子も授かった幸せの絶頂で、奥さんの乳ガンが発覚、すでにステージ四だった。子どもやあなたと離れたくないと毎日しくしく泣く妻を励まし、子育てをしながら二人でガンと戦った。いろいろな治療に挑戦し、カツラを買ったり、眉毛を書いたり、でも、いろいろな苦労や手術もがんばれば、乗り越えられると、すべてを投げうって治療したが、奥さんは娘を残して他界した。
たった七年間の結婚生活だった。博士は一人で娘を育てながらさらに研究に励み、世界的な名声を得るが、娘が成人してやっと就職した頃、今度は御剣さん本人が倒れた。難しい心臓病で、何度も手術をして、何度も入退院を繰り返した。一度は大学に復帰したものの、無理をして再び倒れ、このままでは寿命を縮めると娘に説得され、この湖のほとりで、スローライフを送ることにしたのだと言う。
「死にかけたことは二度ほどあった。心臓に鋭い痛みが走り、今度こそは死ぬと、真夜中に病院のベッドで死を覚悟した時もあった。でも不思議におれは死ぬんだなと思った瞬間、だんだんと安らかな気持ちになった。きっと生物は少しでも苦しまないで死ねるように何らかのプログラムがされているのだろう。でも安らかな眠りに着く前に、看護師さんが気付いてくれて…目が覚めると、集中治療室にいて、娘が涙でぐしゃぐしゃになった顔で手を握っていてくれた。そんなことが二度続き、それからも良くなったり、悪くなったりを繰り返し…そんな生活をしていると、こう思うようになった。ああ、朝だ。今日もまだ生きていた。ありがとう、ありがとう…とね。娘はもう結婚して子供もいるのだが、子育てが忙しいと言うのに、時々ここにも来てくれる。翼館のみんなも本当に良くしてくれる。私は一人ではとても生きていられない、みんなが支えてくれるからここにいる。生きているだけで、それだけで感謝するしかない。とにかく毎日をいつ死んでもいいように悔いのないように生きて行こう。周りの人は、すべての出会いはかけがえのないものに改めて思えるのだ。だから七橋君、もはや今の私にはかなえたい夢も手に入れたい幸福もない。当り前の毎日をありのままに過ごすだけで心が震えるほど楽しい。君と出会えて、語り合うだけで、私は嬉しくて、嬉しくてたまらない。夢も幸せもすべて私が生きているそのものの中にあるのだから…。すまんな、涙もろくなってしまって。でも君と語ることは、とてもたのしいのだよ」
そうか何度も死にかけるような人生の果てに、御剣さんは夢も希望も関係ないところに行きついたのか。七橋は、納得して寝室へと向かったのであった。
風間は、その夜、自分の部屋で何かに打ち込んでいた。アメリカの三人の事件、病院にいるときと退院した時の意識や記憶の違い、三人が見たゾンビやバンパイアの事件の検証を再び行っていた。
「コカインの中毒患者セレニアス・グリフィスの入院中のレポートより」
「…コカインの常習でしょっぴかれ、警察からドラッグ更生プログラムとかに、強制的に送り込まれちまった俺は、気がつくと見知らぬ街にいた。足に発信機の着いたリングをはめさせられて、このオレゴン州の小さな田舎町から出ちゃいけねえ、電波の届きにくい地下室には入ってはいけねえっていろいろ面倒くさいったらありゃしない。ドラッグ更生施設とは名ばかりのいたって普通のネクサピスとかいう病院で寝起きし、わずかな小遣いをもらって、なんの楽しみもないこんな街にもう一週間だ。俺は、大都会のあの店に戻りたい、ジャズがやりたいんだと言うと、病院の娯楽室にある古いピアノを弾けばいいと怒鳴られる。死にかけのじいさんや、あくびを連発する婆さんの前で弾くのもまあ、やってみればそれほど悪くもない。外出も自由にできる。病院の向かいにはガソリンスタンドとコンビニがあり、ガソリンスタンドのローラはナイスボディで通りかかると必ず声をかけてくれるし、コンビニの店長のジムはいい人で、世間話もするようになった。街のあちこちにも探検に出かけて、けっこう知り合いもできた。だが、そろそろコカインをやりたくてうずうずしてきた俺の前に、見たことのあるキャンピングカーが現れた。コンビニに買い物に出かけた時だった。駐車場に止まった車のドアが開く。コカインの売人のレイモンドが降りてきて、後払いでいい、中にコカインがある。中でやれば誰にもバレやしないと、ささやく。俺は悪いとわかっていても、足が止まらず、すぐに乗り込んだ。ところが、間違いなく、本物のコカインなのだが、服用しても、なぜか気分が悪くなってくる。おかしい、どうしちまったんだとレイモンドに声をかけると返事がない。キャンピングカーを降りると、レイモンドが、目を開けたまま、あおむけに倒れて動かなくなっていた?! いったいなにが起きた? 誰がこんなことを? するとコンビニのドアの陰から、店長のジムが血に染まった口を大きく開けて飛びかかってきた? ゾンビか? おれはジムをとっさに突き飛ばしたが、ジムは何もなかったように、すぐに起き上がり、追いかけて来た。レイモンドも起き上がり、異常な瞳でこちらを見ている?!! 気がつくと、コンビニの中にいた五人ほどの客もいつの間にかゾンビと化して店の外に出てくる。トラックの運転手のジョージ、美容室のカレン、肉屋のルーファス、みんな近所の知った顔だ。助けを求めながら、コンビニの前から走り出す、異変に気付いたガソリンスタンドのローラが、俺に助けを求めてくる。ローラの手を引いて、あわてて病院のロビーに駆け込み、中から内鍵をかける、ゾンビたちは入れなくて病院の前でうろうろし始める。とりあえず安心して、娯楽室へと向かう、いつもの退屈な空間がそこにある。ところが突然左腕に激痛が走る。まさか、ローラがゾンビとなり、噛み付いている?!やっとのことで振りほどき、あたりを見回すと、じいさんや婆さんがゾンビとなり、襲いかかってきて…そこで時間が戻って、コンビニの前で何もなかったように時間が流れだす。ジムも、周りすべてが元通りに戻っている…そんな夢のようなことが何度もあった。病院中を走り回って、ゾンビに追われて屋上から落下して元に戻ったこともあった。わざと街の外に出て、警察につかまってゾンビから逃れようと、隣町までバスに乗ったこともあった。逮捕に来た警察官がゾンビに変わり、パトカーが狂ったように追跡してきた。何度も轢き殺されそうになり、最後にはパトカーは正面衝突して炎上、かえってずっと恐ろしかった。レイモンドもキャンピングカーで二度ほど来たが、やつがいなくてもある時は患者の仲間が、ある時はローラのセクシーな友人がコカインをくれることがあった。ヒッチハイクして遠い町まで脱出した時は運転手がゾンビに代わった。だがどこへ逃げてもどんな方法を使おうとも、最後の最後にはゾンビに襲われてすべては終わる。恐怖だけが蓄積し、コカインの拒絶だけが解決方法だった」
これはセレニアス・グリフィスの中期のレポートであった。最後には彼はゾンビと戦うための武器になるものを遠くの街の日曜大工センターで買い求め、全員がゾンビとなったその街のショッピングモールで壮絶な戦いを行い、壮絶に敗れ去り、そして二度とコカインに手を出さなくなり退院するのである。
ゾンビやバンパイヤの出てくる世界は、やはりありえない世界だ…。だとすると…?! 最後に風間はあるところに行きつく。
「けっこうこの世界の謎を解くカギはこの辺にありそうだ…」
風間は黒い携帯の存在に気付き、どうも、いくつかの矛盾点を整理する。
1 電波が通じるとシグナルが光るのだが…通じる相手と通じない相手、中にはシグナルが一度も光らない相手もいる…。
2 通じない相手は、実際、会うこともできない。どこにいるのかも確認できない。 (七橋と高塚?)
3 八岐に確かめると、単にスイッチが切られているだけだと言うのだが…。
風間はどうしたものかと、ずっと作戦を練っていた…。
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