3話
家から歩いて15分くらいの所にカフェがある。
そこは淡く暖かみのあるライトを中心に、少し暗めな雰囲気がある。
人の出入りは多く無いが、固定客が多くみんな家族みたいな雰囲気で話をしている。
この地にきて初めて入ったカフェだが、紅茶もコーヒーも絶品だ。
静かな時間帯と、人が集まる時間が分かれているため毎回静かな時間に来ては紅茶をお供に読書をしている。
週1回、もしくは悩んだ時に来ては心を落ち着けに来ている。
ことりと目の前に白いティーカップがおかれる。
本日は、アールグレイだ。
少しフルーティーな匂いを感じる。
マスターの出す紅茶は匂いからとても良いのだ。
勿論、コーヒーも美味しい。
「ありがとうございます。」
私がそう伝える前に、こちらを見ることなく無言で去っていく。
ここのマスターはとても無口だ。
通い始めて3年は経つはずだが、彼の声を一度も聞いた事がない。
しかし、身長は175センチある私より高い。
180センチはあると思う。
顔は少し強面だがキリッとした目元の、いわゆるイケメンだ。
髭を生やしているが、全く不快に思わないのはセンスが良いのか、なんなのか…
そして、めちゃくちゃ腰が細い。
思わず掴みたくなるくらい腰が細い。
エプロンを縛っているから分かる、あれは細い。
断じてイケメンだから、腰が細いから通っているわけではない。
いや、細い腰には妄想を広げさせていただいています。
30代後半だと常連さんからは聞いている。
あまりのイケメンフェイスに、たまにくる新規さんはみんな見惚れる。
そこから何回か通うが、マスターの素っ気なさに結局は離れていく。
駅からも遠いしね。
その中でも、大学生の美緒ちゃんは1年アタックを続けている。
今日は美緒ちゃんがいる日だ。
店内は私と美緒ちゃん、マスターしかいないが美緒ちゃんのおかげで穏やかだ。
「ねぇ〜マスター、今日うまく髪が巻けたんです!可愛いですか!?」
「……」
「あ、ケーキ作ったきたんです!マスターに食べて欲しいなぁ」
「……」
「マスター、返事くらい欲しいなぁ…」
「……」
もぉー!!!と美緒ちゃんが怒った。
今日は短い時間だったな。
「夏穂さん!!ケーキあげます!バイト行かなきゃ行けないし!」
「あ、ありがとう。頑張ってね…」
にっこり笑顔を向けて、美緒ちゃんは出入り口に小走りで向かった。
ドア前でくるりと振り向いた。
彼女がうまく巻けたと言っていた髪が揺れる。
女子力ってあんなのを言うのかなーと見つめる。
澪ちゃんはビシッと効果音がしそうな勢いでマスターを指さした。
「マスター!絶対振り向いてもらうんだから!」
アーモンド型のぱっちりな目尻を下げ、笑った。
そのまま、こちらの返答を待たずにカランカランと軽い音を立て、店を出て行った。
「マスターも人が悪いですね。返事くらいしてあげたらいいじゃないですか。」
「……」
今日は高井が来る前に時間が少しあったので紅茶を飲みに来ただけだ。
あと30分は時間がある。
一切返答をしないマスターを横目に本に目を落とす。
最近人気の異世界転生ものだ。
話は面白いし、キャラも魅力的だ。
どうしたら売れるようになるかなーと悩んでいると、マスターが横に立っていた。
マスターに視線を向けると、小さな白い石を差し出していた。
こんなことは初めてだ。
石を受け取ると、マスターはカウンターに戻っていった。
ここで恋愛フラグ!?と勘違いしてはいけない。
恋愛ミイラ化している人間は、いちいち期待はしない。
なんなら、白い石って…
なぜ石!?
よく分からない石を貰ったので、とりあえず財布の使わないポケットにつっこむ。
高井が来るまであとわずかだ。
本読もう…
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