第5話

 *ユウジ 8時間10分後*


なぁ、サチ! 

 なんぼ呼んでも返事がないやんか! 

 大丈夫か? 苦しいんか?

 俺がいるから大丈夫やぞ! 

 これはサチの手か? 

 まだ暖かいやんか!

 さあ、手握ってるから、大丈夫や!

 イーハトーブ見つけなあかんのやろ!

 二人で見つけに行こう!


 *サチ 8時間10分後*


 これは、ユウくんの手? 

 あぁ、死なないでユウくん! 

 真っ暗で、それに息ができない、

 ここは、土の中なのね。

 あぁ、ユウくん! 死なないで!

 わたしの手、離さないでね!


 あぁ、ここが土の中じゃなくて、

 空の上ならいいのに...。


 銀河鉄道に乗って、空を飛びたかったわ、二人でね。あぁ、お願い! 二人を助けてください! 神様! 私たち、いっぱいお祈りしてきたよ! 御朱印帳3冊? もっとあるかも? ユウくんもわたしも神社やらお寺巡るの好きだから、そりゃ御朱印目当てかもしれないけど、ちゃんと心を込めてお祈りしてたよ!だから、お願いです! 神様助けて!


 *ユウジ、サチ 8時間15分後*


「あれ? サチかな? この手、この温もり、そうだよね! さぁ、しっかり! 今から、二人で力合わせて、こんな土の塊なんか吹き飛ばすぞ! そんで、空の上に出掛けるぞ!」

 「ユウくんなの! ほんとに! 空の上に連れていってくれるの? ヤッター!わたし絶対手を離さないわ! さぁ、早くいきましょう!」

 俺たちは、気がつくと、二人で手を繋いで、小岩井農場の売店の外にいた。

 そう、せっかく来たのに農場に入れなくて、がっかりしているところだ。

 はい! ここから始めるで!

 「サチ! 一緒にイーハトーブ行くで!」


 「イルミネーションやってるみたいな写真載せるから、てっきりやってると思ってもうたわ」

 「あわてんぼうやね! 店員さんがびっくりしてたよね? こんな真っ暗闇の農場入ったら、牛さんに襲われるね。また今度、またね、来たらいいやん」

 「あーあ、入りたかったなあ! しゃあないなぁ、帰るか」

 あきらめて車に向かおうとした、その時、真っ暗な空から、何かがこっちに向かってやって来た!そして、物凄い突風で吹き飛ばされそうになって、俺は、咄嗟にサチを抱きよせて地面に伏せた。

 何か物凄い轟音とともに、巨大な物体が、俺たちめがけて飛んでくる! 眩い光を放ちながら!

 ヴォーン! キィーン! プシュー!

 その物体は、俺たちの目前で停止した。俺は、顔を上げて、その物体の正体を確かめようと目を凝らしたが、凄まじい砂煙でよく見えない。

 「こいわいすていしょーん! こいわいすていしょーん! お乗りの方はお急ぎを! えー、すぐに発車となります、お乗りの方はお急ぎを!」

 砂煙が収まって、その眩しい光を放っている物体をよく見ると、なんと!それは、蒸気機関車のようだった。

 「えっ? なんで? こんなところに機関車が?」

 「ねぇ! この形って、林風舎で買った"銀河鉄道の機関車の切り絵"じゃない?」

 君に言われてみると、確かに、あの切り絵の銀河鉄道の機関車の形だった。

 「そこのお二人さん、急いでください!」車掌?らしき男に声を掛けられて、「えっ?俺たちのこと?」と戸惑っていると、君が本当にうれしそうな笑顔で、「ねぇ、乗ろうよ!」と俺の手を引っ張って行く。びっくりして、でもなんかワクワクして、俺は、君と一緒にその機関車に乗り込んだ。


 車両には、俺たちの他には誰もいない。一番前のボックス席に二人向かい合って窓側に座る。

 ヴォーン、ヴォーンと警笛が鳴って、車掌さんの「出発進行!」の声で、列車は動き出した。

 「ところでどこ行くんだろ?」君に聞いてみたが、景色を眺めるのに夢中で、返事がない。

 「うぁー、すごい! 空を飛んでるよ! もうさっきの売店があんなに下に見えるわ!」

 君のその声で、俺も外を眺めてみると、確かにこの列車は、空を飛んでいる! 売店がみるみる小さくなっていくのがわかる。でも、夜だからほかには何も見えない...? と思っていたら、おびただしい数の星たちが、一斉に輝きを増し、お月様も太陽のように明るくなった。

 「ねぇ! みんな踊ってるよ! 楽しそうだね!」君は、窓から飛び出してしまいそうな勢いで、身を乗り出して、動物たちのショーを見ている。

 「ユウくん、私を連れてきてくれてありがとう! この旅行とっても楽しくて、ずっとこのままどこまでも行けたらいいのにって思うくらいなの。ユウくんと一緒にね! どこまでも、いつまでもこうしていたい!」

 「本当に! 俺もだよ、サチ! 今日まで俺といてくれて、ありがとう!」

 お月様が見ているのは、わかってたけど、俺は、君を抱き寄せてキスをした。数えきれないほどの星たちが、二人を祝福しているように、また一段とキラキラと輝き出した。

 俺たちを乗せた"銀河鉄道の機関車の切り絵"は、イーハトーブの夜空を旋回して、農場の動物たちのショーを見せてくれている。

 「ねえ? 私と一緒になって良かった? なんて聞いてもちゃんと答えないんでしょ? いっつも冗談で誤魔化すんだもん!」

 「え〜、そんなこと言うてもなぁ。恥ずいやん。何、その顔? 怒ってんのか? もう、しゃあないなぁ、"お前と、一緒になって最高やで、俺は世界一の幸せモンやで!" これでええんか?」

 「もう、またそんな言い方するんやから!」

 「ほんまやんか、ほんまやで!」

 

 「ええ、ゴホン! お楽しみのところ申し訳ありません。そろそろショーは終わりにして、次の駅に向かいます。よろしいですか?」車掌さんが、申し訳なさそうに言ってきた。こいつ、ずっと見てたんか?

 「ありがとう!こんな素敵なショーを見せてくれて、さぁ次に向かいましょう!」君は、にっこりと笑って答えて、「車掌さん、次はどこに行くの?」と聞くと、「銀河ステーション」と言う。「なんか本物の銀河鉄道に乗ってるみたいやなぁ!それで、どこまで行くんや?」俺がふと思って聞くと、車掌は「行きたいところまで行くのです」となんかわかったようなわからないような答えだ。

 「そうよ、いつまでも、どこまでも行けるはずよ!」君は全部知ってるような言い方をした。

 列車は、星の煌めく夜空を走って、いや、飛んでか? 銀河ステーションへと向かった。


 * ユウジ、サチ 9時間後*


「お二人さん、お腹が空いているのではありませんか? 銀河ステーションまで一時間ほどかかりますので、その間、食堂車で何か召し上がってはいかがですか?」

 車掌さんにそう言われて、俺もサチもちょっとお腹空いたなぁと思ってたので、言われた通りに食堂車に行ってみることにした。

 そこは、高級なフレンチレストランのように、車両自体も少し違った内装になっていて、木目を上手く活かしたダークブラウンの壁で、天井には、王宮にあるような豪華なシャンデリアが吊るされていた。テーブルは、ゆったりと間隔を空けて、1両に6席しか置かれてない。赤いテーブルクロスが、シャンデリアの淡いオレンジ色の照明に映えている。席について、フレンチディナーのコースを注文した。

 「ねぇ、見て!岩手山が綺麗よ!」君に教えられて窓の外を見ると、何故か、秋晴れの空で、岩手山が白い雪を纏って堂々とそびえ立っていた。これは、俺がネットで見たまんまの景色や! さっきまで夜やったのに、夕陽が綺麗? どうなってんの? でも理想的な "思った通りの" 景色やね!

 「美味しいね! 前菜のサラダも、ポタージュも! メインはお肉かしら?」サチは、幸せな笑顔で、料理を楽しんでいる。

 「メインは、牛肉の赤ワイン煮やって! 岩手に来て正解だったよな。こんな楽しい旅行になって。小岩井農場にも頑張って来てよかったわ、ほんまはイルミネーションは、11月からしかやってないらしいで、ナイトクルーズなんかないのに、俺たちのためにやってくれたんやって、めっちゃラッキーやで俺たち!」

 「ユウくんが一生懸命、良い旅行にしようと、私を喜ばせようと考えてくれたからだよ! ありがとう!」

 俺たちは、これ以上ない、"思った通りの"料理と素晴らしい景色で、至福の時間を過ごしていた。

 「ミユは、東京で頑張ってるみたいやけど、ええ会社見つかって良かったなぁ」

 「そうよね、あの子は、頑張り屋さんだから。でも、一人暮らしは初めてだから、慣れるまでは、大変だと思うけど、まぁ、彼氏が近くにいるから、良かったんじゃない?」

 「彼氏? 嗚呼、なんかおるらしいなぁ、知らんけど」

 「知らんけどって、関西人しか言わないらしいけど、一応知ってるけど責任取りません、みたいな感じ?」

 「知らんけどは、知らんけどや、それ以上でもそれ以下でもないで」

 「うーん、よくわかりません」

 なんか取り止めのない話をしてたら、1組のカップルが入ってきて、俺の真正面のサチの向こう側のテーブルに座った。かなり年配の夫婦のようだ。俺たち以外にも客がいたんやと少し意外やったけど、まぁ、考えたら俺たちだけっていうのもおかしいかなと思った。

 俺は、サチにどうしても聞きたい事を、この際やから、聞いておこうと思った。なんとなく二人の雰囲気もええし、今なら聞けるかなと思ったんや。

 「あのなぁ、ちょっと聞きたい事があんねんけど、ええ?」

 「うん、何?」

 「俺と付き合う前にな、吉田先輩もサチにアタックしてたんやって? あんなかっこええ先輩やなくて、なんで俺を選んでくれたん?」

 「何それ? 今ごろですか? もうそんな昔の話どうでもいいでしょ!」

 「えっ! でもずっと引っかかってんねん! 仕事もできて、次期課長、将来の部長って言われてて、イケメンのあの先輩を振って、なんでこの俺を選んでくれたん?」

 「もう、好きだったからに決まってるでしょ! なんか抜けてて、世話焼いてあげないと、危なっかしい感じがして、でも明るくて皆んなに好かれてるところ? とにかく、一緒に居たら楽しいかなって思ったの! もう、いいでしょ!」

 「そっかあ、好きやったんや!! 聞いて良かったわ! ありがとう!」

 「でもいろいろ大変でしたけどねえ〜、結婚してみたらねえ、思ったようには行かないわよね。」

 「ちょっと待って! その前に、聞き逃すとこやったけど、"なんか抜けてて"って言わへんかった?」

 「そんな事言わへんで〜」

 「なんやその下手くそな関西弁は、まぁええわ。そんなにすきやったん?」

 「もう! 知らないで〜す!」

 「俺は、サチの事大好きやったんや。先輩が奪いにきても、絶対渡さんわ!」

 「もう、そんな事言って、こんなとこで、恥ずかしいからやめて。」

 「あぁ、他に客いてたんやな」と、その老夫婦の方を見ると、かなり年配のご様子で、ご夫婦とも80才は超えてるように見えた。旦那さんの方は、結構いかつい顔してて、どっかの偉い先生って感じがした。

 「あのご夫婦どうしたんだろうね? 結婚記念日かなにかかしら?」ミユも興味深そうにしてる。

 「なんかあの旦那さん、怖そうやな?」

 「そうね、学校の先生でもしてたのかな?」

 二人でそんな風に話をしていたら、その老夫婦の旦那さんの方が、突然、「オイ!」とかなり大きな威圧的な声で、ウエイトレスを呼んだ。あれ?ウエイトレスいたんだ。今まで車掌さんしか見てなかったけど。

 「なんかメニューがさっぱりわからん! ちょっとつまみたいだけだから....、サンドウィッチかなんか持ってきて」とメニューに無いものを頼んでいる。

 「えっ? サンドウィッチですか? 少々お待ちください」ウエイトレスも困惑して、一旦下がっていった。

 うわ!面倒くさい奴!と思って見てたら、ウエイトレスがまたやってきて

 「サンドウィッチですが、ハムサンドでよろしいですか?」と聞いている。「いいよ!早く持ってきて!」何という傲慢なジジイ! メニューにないものを作ってくれるというのにお礼も言わずに、当たり前みたいに、早よ持ってこいかよと思っていると、サチもこっちに目配せして、苦笑いしている。

 そのハムサンドも無事やってきて、俺たちのテーブルにメインディッシュの赤ワイン煮が運ばれてきた。その後も、その旦那さんは、ウェイトレスを呼びつけて、何かと注文つけていたが、サンドウィッチも食べ終えたのか、にこやかになって、奥さんと談笑していた。

 「ねえ、ユウくん! この旅行プレゼントしてくれてありがとう!」サチが、少し酔ったのか、頬を赤らめて、そんな事を言ってくれた。

 「ええ? 何? 当たり前やん、今まで苦労ばっかりかけてなぁ...。でも、俺もちょっとは出世して余裕? みたいなんが出てきたんかな? まぁ、出世いうても安月給やけどな。」

 「本当やね。家計は、相変わらず苦しいけどね。でもこうやって二人で、たまに旅行できるくらいの余裕は、出来てきたね。」

 「あっ、家計は苦しいんやな、まだまだ頑張りま〜す! だから、これからもよろしくお願いします。二人でこれからも、いっぱいいろんなところ行こうな!」

 本当に楽しい旅行に出来て良かったと心の底から感じて、サチのことが愛おしくて、いつまでも一緒に生きていきたいと思っていた。でも、いつか離れ離れになってしまうんやないかと、何故かめちゃくちゃ不安な気持ちになっていた。

 だから...サチの手を握りしめて、「好きやで」と言おうとした...、その時、突然、聞こえてきたんや、それは... ...、

 

 「バラが咲いた、バラが咲いた、真っ赤なバラが、淋しかった僕の庭が明るくなあった、バラよ、バラよ、小さなバラ、いつまでもそこに咲いてておくれー」

 えっ? 何? 誰が歌うてんの? 

 俺たちの、他には、あの老夫婦しか居れへんけど...。

 なんと、ジジイが、いや老夫婦の旦那様が、大声で、朗々と「バラが咲いた」を熱唱し始めたのだった。

 俺たちは、最初、え?となにが起こっているのか、理解できなかったが、延々と続く熱唱に、思わず笑顔になってしまい、二人で見つめ合うしかなかった。そして、窓の外を見たら、真っ赤なバラが一面に咲き乱れていた。

 「どうしたの? 一面バラで、映えるわ!」ワインでほろ酔いのサチが、窓にへばりついて微笑んでいる。ちょっと怖いわ~! 真っ赤なバラの花園を通り過ぎると、次には、真っ白なバラが、これまた一面に咲き乱れていて、「今度は、真っ白!めっちゃ綺麗!」サチは、窓に顔を押しつけて大喜びで、「鼻、潰れてまうで!」と言っても見惚れて聞こえないみたい。ジジイ、じゃなくて旦那様もそのバラの花園に見惚れながら、ノリノリで歌い続ける。そしてその後、もっと思いがけない展開が待っていた。なんと、「バラが咲いた」が二番に入るところで、奥様が、一緒に歌い出したのだ。

 「バラが散った、バラが散った、」旦那も嬉しそうに一緒に歌い出す。

 「いつの間にか僕の庭は、前のように淋しくなった。僕の庭のバラは、散ってしまったけれど... えーと?」

 「お父ちゃん、忘れてしもうた?」

 「待て! あっ、思い出したぞ!

 けれども、やな、淋しくなったけれど、いや、淋しかった僕の心にバラが咲いた、バラが咲いた、バラが咲いた、僕の心にいつまでも散らないバラが咲いた~」奥様も合わせるように

 「バラが咲いた~」そして、大拍手!「お父ちゃん、上手ですわ! さすが!」

 二人の微笑ましいやりとりに、なんか知らんけど、あっ、また知らんけどが出てしもたけど、なんか、涙が出てきて止まらんわ! 君も笑いながら泣いていたよな。

 「私たちもあんな風になれたかな? ねぇ、ユウくん、なれたよね? ずっと仲良しで暮らせたよね。」

 君の顔が、涙でいっぱいの笑顔が、かすんでいく。段々と見えなくなっていく...。

 「バラが咲いた、バラが咲いた、僕の心にいつまでも散らないバラが咲いた」仲良し老夫婦の大声の歌も、段々小さくなって、聞こえなくなっていく...。

 

 沈黙が支配した真っ暗な闇がやってきて、全てのものに、この世界の全てに覆いかぶさっていく。

 

 息ができない... 息ができない...

ユウジ!大丈夫? サチ!大丈夫か?


「もう今さら、どうしようもないけど、もっと、ちゃんとすれば良かったと思う事がいっぱいあるわ。

 プロポーズの言葉は「絶対、君を幸せにします」やったのに...。

 ダイヤの指輪なんて買ってあげられへんし、安月給やから、家のこともミユのことも全部任せてなぁ。結婚してからは、喧嘩ばっかりして、悲しませてなぁ。

 ミユが生まれた日、仕事で失敗して、すぐに駆けつけてられへんで、やっと駆けつけたのに、結局、上司に呼びつけられて...、ほんま最低の旦那やなぁ?

 あぁ、もっと優しくすれば良かったわ。こんな事になるなんて、考えられへんやん。サチ、君はずっといてくれると思ってたんや、俺の隣に、ずーっと、おるもんやと...。なんの確証もなく、ただ、君はいるもんだと、いなくなるなんて考えもしなかった。君がいないと、いないと、なんもできへんのに、なーんにもちゃんとできへんのに。ほんま、俺はどうしょうもないアホやな。」


「こんな事になって、あなたのこと、ほんとに好きなんだってわかった。

 私は、あなたの大きな手の中で、守られて生きてきたのね。たぶん、あなたは優しいから、私が弱音吐いたり、辛くて、後ろ向きなことばっかり言って困らせた時、叱ってくれたんだよね、「あかんで、しっかりしろ!そんなにくよくよしてもしゃあない!」ってね。

 そして、何も聞いてないようなふりして、冗談いって笑かしてくれたんだよね。なによ、ちっとも優しくしてくれないし、仕事ばっかりして、かまってくれないなんて思って、わがままばっかり言って、困らせて、ごめんね。ユウくん、あなたと一緒に生きてきて、幸せよ。だから、ずっと一緒にいてね! 死なないでね!」

 

 *ミユ 10時間後*

 

東北道の大規模崩落事故現場です。事故から、すでに3日が経とうとしています。生存者の命のリミットとされる72時間が、まもなくやってきます。ご覧のように、かなりの量の土砂が、いまだに残されたままです。今までに10名の方々の死亡が確認されており、さらに、この土砂の下には、多くの車両が埋まっているものと見られます。現場では、このように懸命の救助活動が続けられています。

 ミユは、テレビから流れてくる絶望的な状況に、耳を塞ぎ、顔を覆ってただ泣くばかりだった。事故のニュースに嫌な予感がして、サチとユウジの携帯に連絡したが全く繋がらず、居てもたってもいられなくて、会社を早退して実家に来てみたが、案の定、出掛けていて不在だった。それから3日間、両親からの連絡を一人で待っている。明日には、彼氏の車で現地に行くことにしている。

 「大丈夫、お父さんもお母さんも運がいいって言ってたもん...」自分に言い聞かせてみるが、涙が出てきて止まらない。

 「明日ごめんね。ほんとに一緒にいってくれるの? うん、ありがとう」

 彼氏と電話している、その時、テレビ画面に速報が流れた。


 "東北道崩落事故現場で新たに男女二人が発見されました"

「ごめん、今、速報が入ったの、また、後で掛け直すわ!」ミユは、慌ててチャンネルを切り替えて、新しい情報が流れてないか探した。すると、ニュース番組で、ちょうど現場からのレポートをしているところだった。


 「発見された二人は、男女で、折り重なるようにして土の中に埋もれていたとの事です。今のところ、生死は判明しておりません...」

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