洞穴戦
「あの時はよくもやってくれたなぁ、クソガキ。そのバカでかい斧も一緒に身ぐるみ置いて行ってもらおうか」
聞き覚えのある声だった。背後から尾行してきたらしい男達の中に、酒場でこの遺跡の噂を流した男が混じっていた。つまり、彼が流布していた噂の正体とは、盗賊行為のための罠なのだと、二人は悟った。
遺跡は出入り口へ続く通路側と、巨大な広間側とで分かれており、その間にてカインらは挟撃されていた。
「アベル、通路側足止めできるか。十五秒でいい。広場側は俺がやる」
「ええ、無理はしないで下さい」
アベルは腰につけた杖を構え、カインは背負っていた大斧を軽々と持ち直し、二人は背合わせになるようにして、男達へと向き直った。
「炎の気、その妨げを顕現せよ」
アベルが杖を一振りすると、周囲にあった松明の火が小さくなった。途端に火柱が数本、熱気をほとばしらせながら天井まで立ち昇る。広間の入り口と通路を遮断し、尾行してきた男達の追撃を塞いだ。男らは「魔導だ! 気をつけろ!」と退いていく。
アベルは詠唱を続けた。
「風の気、渦巻く流体を顕現せよ」
二人の髪の毛がゆらりと揺らいだ。
それを察知したカインは、立ち向かってきた数人に重い蹴りをお見舞いして突き飛ばすと、渾身の力を込めて大斧を地面に叩きつけた。
洞穴中に爆音が反響し、地面が鳴動した。同時に激しい土煙が周囲の視界を阻む。
男達はむせるようにしていくつもの咳を放った。視界は遮られ、息をするのもままならない。しかし、カインとアベルは、魔導によって粉塵が眼前で弾け飛んでいるおかげで、口も目も覆う様子はなかった。
「まだまだこんなもんじゃねぇぞォ!」
粉塵の中から男達の影を見つけ出したカインは、地面がめり込むほど踏み込み、駆け出し、拳を振りかぶった。鈍い音とともに男の一人は壁面まで飛ばされる。続けざまに斧を振りかぶり、男達をまとめて弾き飛ばした。
「ほらほらもっとかかってこぉい!」
粉塵が薄れだしたところで立っていた最後の男が、おもむろに剣を取り出し、完全に伸びてしまっている男達を庇うようにして立ちはだかった。カインは斧に手をかけながら、それを半笑いで見つめる。
「一応、連帯意識はあるんだな」
「仲間だからな」
「あぁそうかい────なら守り切ってみせろよ!」
カインが斧を乱暴に投げつけると、男はそれを剣で弾こうとするが、あまりの重さに弾き切る頃には剣が使い物にならなくなるほどに、ヒビ割れてしまった。その光景に眉をしかめる男だったが、視界の端にカインが近付いていたことに気づく。
カインは渾身の拳を放ったが、男の腕に受け流された。風圧が男の顔に強く当たる。間髪入れずに、カインの右足で男の足を払ったがそれも跳躍して避けられる。
カインは物珍しそうに「ほう」と口角を上げ、男が宙で放った牽制の蹴りを受け止め、その足を掴む。その流れのまま追い切り地面へと叩きつけた。衝撃音が洞穴中に響き渡り、男は白目を剥きながら泡を吹いていた。
「アベル、そっちはまだ足止めしてるか」
「いえ、カインが嬉々として男を振り回していたあたりから、逃げ出して行きましたよ」
「ちっ、あの酒場で騙してきた野郎も逃げたか。まあいい、もうちっとここを探ったら帰るぞ」
「はい、一応ギルドにも報告をしておきましょう」
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