酒場で飲み食いを続けていると、野太い声の酒に酔った男が、酒の肴と言わんばかりに、とある話を持ち出していた。


「知ってっかぁ? 西の森の中によ、実は遺跡があるらしいんだが、その奥には"斬るだけで生き物を確実に殺すことができる魔武具"ってのがあるらしいのよ」


「ああー? そんなのあるわきゃねぇよ! そんなのあったら、誰だってこの国の王家直属騎士様にすぐなれちまうだろ」


 そんな彼らのもとに、カインが椅子を寄せた。


「今の話、もっと詳しく聞かせてくれ」


 カインの真剣な眼差しに、二人はゲラゲラと笑い声を上げた。


「オイオイちびっ子、こいつのおとぎ話を信じちゃいけねぇぜ。こいついつもホラ吹きやがるんだ」


「ホラじゃねぇって! だけどよガキ、目上の人間には礼儀正しくせんとなぁ? お前さん、なかなかに無礼だぜ……?」


 男がその厚い掌でカインの細腕を握る。その丸太のような腕には血管が浮き上がり、カインの腕をひねり上げようとしているようであった。カインは代わりと言わんばかりに、片手でその男の腕を掴んだ。


「見た目で判断してんじゃねぇぞ、クソガキども」


 そう言ったカインの腕が僅かに震えると、カインに掴まれていた男の腕がまるでこんにゃくのように自由自在に形を変えたように見えた。男が唸り声をあげて、地面を這いずり回った。


「カイン、騒ぎを起こさないで下さい」


「掴まれたから掴み返しただけだ。勝手にひっくり返ったのは向こうだろ」


「ほしい情報を自ら潰してるのは、どう言い訳します?」


「……それも、そうだな」


 アベルに諌められたカインは、不満げに自分のテーブルに戻った。カウンターの奥では、ホープが心配げにこちらを見つめていたので、カインは手をひらひらと振って応えた。


「それにしても、西の森って言ったか……」


「明日にでも行きましょう」


 カインはニヤリと口角上げ、アベルを見上げた。


「いや、今からだ」


 アベルは「嫌な予感はしてたんですよ」とため息をついた。二人はテーブルの食事を平らげ、カインは大斧をいとも簡単に背中へ担ぎ、すぐさま酒場を後にする。

 空はすっかり紺色になっており、星々が薄っすらと顔を覗かせていた。


 グラントは東西に出入り口があり、流通の要衝ということもあって、夜間の出入りも可能である。

 西門から出た二人は、馬屋から馬を二頭借り、西の森へと馬を走らせた。


「さっきの噂聞いた奴に先を取られるかも知れない! とにかく急ぐぞ!」


「いつもならば止めていますが……今回は仕方ありません」

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