冒険者 カイン・リヴァー

足立韋護

第一章 【欺く冒険者と欺きの遺跡】

二人の冒険者

 第一章 【欺く冒険者と欺きの遺跡】


「こんな、報酬少なすぎやしませんか!」


 若い短髪の男は、冒険者ギルドの受付で唾を飛ばしながら喚いていた。腰に木製の杖を身に着け、身に纏うローブはいくつもの汚れや傷が目立った。どうやら受け取った報酬が気に食わないようであった。受付嬢は呆れ気味に「依頼していたものが真っ二つにもなっていれば減額せざるを得ないでしょう……。報酬があるだけでも幸運と思っていただきたいです」とため息をつく。


「アベル、あんまり食い下がっても仕方ないだろ。真っ二つなのは事実なワケだ」


 アベルの後ろに立っていたアベルより若く見え、背の低い青年は眉をしかめるアベルに、苦虫を嚙み潰したような表情で頷いた。その背に担ぐ、人ほどはある大きな斧が特徴的であった。


「カインが言うなら……。今回はこれで引き下がるとしましょう」


「いつも冷静なお前が、ほんと金のことになるとうるさくなるのなぁ」


 二人が冒険者ギルドを出てから、石造りの家々の向こうに見える夕暮れ時の橙色の空を見上げた。ひんやりとし始めた風が、頬に当たる。


「お金は命そのものといっても過言ではないんですよ! あんな足元見られた金貨の枚数を許したら、次もきっと足元見てくるんですから」


「この世界に眠る宝物なんてまだまだあるだろ。あんま細かいこと心配すんなって」


 二人はそんなやり取りをしつつ、石畳の坂を上ったところにある酒場へと足を運んだ。仕事が終わったら、ほぼ必ずここへと足を運ぶ行きつけの酒場であった。二人が居を構える家の隣ということもあり、色々と世話になっていた。


「あ、いらっしゃいませ。カインさんにアベルさん」


「よっ、ホープ」


「ホープさん、いつものお酒とつまみを下さい」


 二人をにこやかに迎えたのは、髪を三つ編みに結った眼鏡の女性であった。このホープという女性は、この酒場の店主の娘で、昼間は幼年学校の教師、夜はウェイターの一人として働く。カインとアベルがこの首都に来てからの知り合いであった。

 カインとアベルが席につくと、麦酒と肉のステーキがテーブルに置かれた。この店の看板商品で、破格の値段で提供されるため、いつも頼むメニューとなっていた。


「今日はクエスト、達成されたそうですね。一品おまけしておきます」


 ホープがそう言い鳥の骨付き肉を差し出すと、カインは諸手を上げて喜んだ。


「うぉおおお! あんがとなホープ! いやぁできた娘さんだねぇ」


「ふふ、まるでお父さんみたいなこと仰いますね」


 その言葉に、カインは思わず表情を強張らせる。その様子を見たアベルが、慌てふためくようにして話を変えた。


「そ、そういえば! ホープさん最近幼年学校はいかがです?」


「え? ええ、最近は教え子達が卒業をして、青年学校へと進んでいったところです」


「あーもうそんな時期か。気温もちょうど良いじきだ、これから出張りやすくなるな」


「お二人とも、ちょうど去年の今頃越して来られましたよね。あんな大きな木箱を担いで」


 他の客に呼ばれたホープは「懐かしい話はまた今度」と、テーブルから去っていった。

 大きな木箱という言葉に、カインは一瞬眉を潜めたが、すぐに普段どおりの表情へと戻す。アベルもどこか消沈した様子で、酒を飲み干した。

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