#3 PM8:04 緑石通り・東向け


 ママが私を捨てに行く。場所はお墓だと言っていた。

 私がこぼしたお茶が、ママのスマホを駄目にしてしまったのが悪い。一生懸命謝っても、ママはずっと怒っていた。


 私がバカだから、ママのことを怒らせて、叩かれたりベランダに出されたりすることはしょっちゅうだった。ママが私のことを捨てたくなってもしょうがない。

 でも、夜のお墓でひとりぼっちというのがとても怖い。オバケが出たらどうしよう。想像しただけで涙が出そうになるけれど、また怒られるから必死に我慢する。


 車の中で、ママはずっと黙っていた。ハンドルを握って、隣の私を見ようとしない。

 道は混んでいた。ちょっと進んで、すぐに止まる。坂を下っていく赤いランプの列はとても綺麗だったけれど、ママはイライラしていて、指でハンドルを叩いてる。


 お墓までまだ遠いのだけれど、少しずつ近付いている。どこまでも、渋滞が続けばいいのにと思いながら横を向いた。

 窓の外にピザ屋さんがあった。真っ赤なトマトソースが塗られて、きれいなエビがのっかったピザの写真が大きな看板に載っている。ピザを食べたことない私は、どんな味がするんだろうと見とれてしまう。


 そういえば、私、晩御飯をまだ食べていなかったっけ。途端に、おなかが空いてきて、ぐうと鳴ってしまった。


「里美」


 ママが、私の名前を呼ぶ。ママが私の名前を呼ぶのは、私に怒っている時だ。

 こわごわ、ママの顔を見る。ママは、ちょっとだけ、悲しそうな目で私を見下ろしていた。


「うるさくして、悪い子ね」


 ママが笑っている。声は冷たいままで。

 私は泣いてしまいそうになった。





























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