第5話

 ゆっくりと唇を離し、狐白の顔を見つめる。その顔は、すごく真っ赤だった。


「………可愛いよ、狐白」


「……もう、ばか……」


 と言うと、狐白は俺の胸に顔を押し付けそのまますりすりと顔を横に動かす。耳がピコピコと忙しなく動き、しっぽがブワンブワン激しく上下していた。


「そういや狐白」


「んー?」


 なにやら物凄く上機嫌な狐白。


「なんで耳とかしっぽとか生えてんの?」


「本当にそういやだね」


 いや、本当は最初はしっぽか生えていた時に突っ込みたかったけど、狐白が可愛すぎて失念していた。


 胸から離れた狐白は俺の手を取ってから鳥居の前に移動する。


「この神社が稲荷神社の系列であることは知っているよね?」


「それは勿論」


 稲荷神社。稲荷神を祀る神社で、京都市伏見区深草にある伏見稲荷大社が総本宮で、全国で、個人で祀っているものや、企業やら会社やら含めるとそりゃもうたくさんある。


 そして、稲荷神が、お稲荷さんやら、お稲荷様とかあって、キツネを神として祀っていた家が………ってちょっと待て。


 あー、俺なんとなく気づいちゃったもんねー。ここまでお膳立てされるみたいに説明しちゃったら気づいちゃったもんねー。


「そうだよ透くん。私、稲荷神の娘なんだ」


「……………」


 なんて反応すればいいのか分からなかった。まぁ別に、狐白が今更どんな正体であっても死ぬまで愛し続けることは決定していたが、神とは予想外すぎたな………。


「どう?驚いた?」


「……そりゃ驚くよ。まず神って本当に居たんだな」


「うん。ちゃんといるよ。私、天照様にもあったことあるんだよ?」


「マジ?」


「うん。綺麗な黒髪な女性で、とても美人さんなんだ!」


「へぇ……」


 それは単純に興味がーーーっていてっ。


 突然痛みが発生したので、隣を見ると、プクーと頬をふくらませた狐白がいた。


「なぁに透くん。私という彼女がいながら、もう他の女の人ですか?」


「ち、違うって」


 俺は慌てて否定した。


「ほら、神様ってどんな感じなのかなぁって。純粋な興味だよ。好きなのは狐白だけだよ」


「も、もう……それならいいんですよ」


 はぁ、可愛いなぁ。


「それにほら、狐白の両親にも挨拶しに行かないとだし」


「へ!?そ、それはまだちょっと早いんじゃないかな!?」


 え?どうせなら早い内にお父さーーーーいや、お義父さんに娘さんを僕にください!とか言っておいたいいだろ?


 しかし、こう考えたら義理のお義父さんが神様とか何気にすごくね?


 とか思ったら、急に狐白の耳がピコーん!と反応したかと思うと、後ろを振り向いた。何事?と思った俺も振り向くとーーー神社が光ってた。


 いや、光ってたというよりも上から光が照らしてる?的な感じで、なんかこれから何か神々しいものでも登場すんのか?とか思ってたらーーー


「お、お父さん!?」


「え!お稲荷様!?」


 稲荷神お父さんの登場だった。


 黙って見ていると、なんか空からエレベーターみたいに人が降りてきて、境内に着地した。


 見た目は、白髪に、白い耳に白いしっぽ。なんか陰陽師の人が着ているような服を着ており、すっごいイケメンだった。


 稲荷神が、こちらを見やると、にこりと微笑んだ。その笑顔になんだがすごく平身低頭しなければ!とか思った。


「初めまして、だね。透くん。私は稲荷だ。よろしくね」


 と、俺にゴッドスマイルをしてくれたお稲荷様。


 めちゃくちゃ神々しいです。


 何か言わなければとか思った俺。色々と考えた結果ーーーーー


「は、初めまして!突然ですが娘さんを僕にください!」


「透くん!?」


 と、めちゃくちゃ切り込んでしまった。隣で狐白が顔を赤くした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る