第3話

 一歩、足を動かす度に、記憶が刺激され、昔の記憶を元に、幼き頃の俺と、あの子の姿を幻視する。


『このキノコ、食べれるの?』


『た、食べちゃダメ!』


 知らないキノコを見て、俺が食べようとするのを止めるシーン。


『カブトムシ、捕まえた!』


『虫ぃぃぃぃ!!』


 カブトムシを捕まえたが、なんとその子が虫嫌いで、しばらく会話がなかったシーン。


『……別れる前にさ、忘れないように写真撮ろうよ』


『…………うん』


 そして、別れる前日に、二人でツーショットを撮ったシーン。


 どれもが、俺の心の中で生きており、どれもが、大切な記憶。だから忘れないし、忘れたいとも思わない。


 神社に近づく度に、忙しなく鼓動が早くなる心臓。それは、疲れからではなく、もうすぐ会えるという緊張感からである。


 でも、10年経った。可能性の話を言うと、あの子が俺みたいに約束を覚えているとは限らないし、俺の事を忘れないようにと送った別れ際にとった写真じゃない写真を持っているとも限らないし、なんならもうこの街を離れているかもしれない。


 でも、俺は何となくだが、彼女はあそこにいる。ずっと俺の事を待っていると、心のどこかで自信を持って言える自分がいる。


 不思議だ。そんな根拠なんてどこにもないのに。


「…………お」


 歩いて五分。目の前には一体何弾あるのか分からない階段が目に入り、その上には見慣れた赤い鳥居が立っている。


 ……流石にここからじゃいるかどうか見えないよな……。


 かなり急な階段。踏み外したらまぁ大変だわな。よく子供の頃、踏み外して転落しなかったよな。


 階段を一段一段登っていく。一歩一歩、踏みしめるように登っていた足は、無意識のうちにどんどん早くなり、しまいには走り始める。


「はぁ……はぁ……」


 中学三年間帰宅部のエースとして活躍していた俺の体力では、登りきるまでに息を切らしてしまい、鳥居のその先を見ることも無く、呼吸を落ち着ける方を優先した。


「はぁ………ふぅ……」


 膝に手をついて、少し額から流れた汗を拭ってから、視線を、鳥居のその先へ。


「ーーーーーっ」


 息を飲んだ。いなかったから、という訳では無い。ちゃんと彼女はいてくれた。


 あの頃と変わらずに、長くて、綺麗なきつね色の髪。顔はこっちを向いておらず、手を後ろで組んでおり、服装はよく分からないが、膝上スカート、ということはわかった。


 彼女を見た瞬間、俺の意識はどこかへ吹っ飛び、疲れていたということすらも忘れてしまった。


 分かる。絶対に彼女だ。後ろ姿だけで分かった。それほど、あの時とーーーー俺と彼女が出会った瞬間に似ていた。


 ………確か、彼女と初めて出会った時も、かんな感じだったな。


 後ろで手を組んで、不思議な光が彼女を照らすようにしている、幻想的な光景。あの時は白色のワンピースだったが。


 無意識のうちに、1歩踏み込んだ。それに彼女がピクリと反応し、後ろ姿だけでも、彼女がため息を吐いたのが分かった。


「……もう、鳥居の真ん中は、神様が通る道だから通ったらダメだって……言ったでしょ?」


「…あぁ。そう、だったね……」


 彼女がゆっくりと振り返る。10年振りに見た顔は、昔とは違い、さらに綺麗に育っておりーーーー


「久しぶり、透くん。10年振りだね」


 そして、綺麗な顔をニコリと緩ませた。


「………あぁ、久しぶり、狐白」


 ーーーー俺の初恋を、更に加速させるものであった。


 こうして、俺たちは10年振りに初めてあった時と同じように再会を果たした。

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