第2話

「……ここだな」


 メモ帳片手に数十分歩き、これから三年間、俺の帰るべき家となったマンションを見上げた。


 荷物は既に搬入済み、鍵も既に貰ってあるので、少し早歩き気味にマンションへと入っていく。


 ……さて、マンションにも入れたし、そろそろみのりからのメッセージを見てみるか。


 と思い、ポケットからスマホを取り出して機内モードを解除したのだが……。


「………あいつ」


 そこには、みのりからのメッセージが沢山届いており、しまいには、母さんからも『アンタ!早くみのりに電話しな!』と来ていた。


 うん、これは俺が悪い。全力で謝るか。


 と思い、みのりへと電話をかけ、1コール目でガチャっと音が聞こえた。


「みのーーーー」


「お兄ちゃぁぁぁぁぁぁん!!!」


 物凄い大音量でみのりの声が聞こえたため、慌ててスマホを耳から離した。


「えぐっ……えぐっ……お兄ちゃん……」


「……そ、その……みのり、ごめんな?ほら、電車って電話したらダメだしーーーー」


「言い訳なんていらないよぉ……えぐっ」


「……………………」


 いや、言い訳じゃないんですけど。ほんとだから。


「………ほ、ほら、お兄ちゃんが今からみのりの相手してやるから、泣きやめって……な?」


「えぐっ……なら帰ってきてよお兄ちゃん……」


「おい………」


 なんと鬼畜な妹か。俺さっき、このマンションに着いたのにもう実家に帰れと?流石にきついよみのりちゃん。


「さ、流石にそれは無理かなぁ……はは」


「お兄ちゃん……寂しいよぉ……えぐっ」


「くっ………」


 そ、そろそろ泣き止んでくれるかい?みのりちゃん。俺って少しはシスコン入ってるからさ、これ以上泣かれると流石に精神的に………。


「……わ、分かった。金曜日にはそっちいるから……な?だから、ここは泣き止んでくれみのり……そろそろ俺の精神が」


「えぐっ……じゃあ約束して」


「約束………?」


 一体何を約束させようとしているのか………。


「1週間……は、流石にだめ……2週間に一回は帰ってきて……」


「………Really?」


「りありー」


 ………マジですか?みのりちゃん……?お金どれだけかかると思ってるの?


「じゃないと、みのりまだ泣くから」


「………分かった」


 妹の涙の前に、俺は無力だった。


 みのりとの通話を切り、部屋を見渡す。両親と話し合って借りたのは、学校から歩いて約20分の場所にあるマンションである。


 家賃は五万で1LKで、トイレと風呂も着いており、中々いい条件だったので、この部屋を借りた。


 そこには、これから外に出されるである荷物が入ったダンボールが転がっている。


 が、俺は一旦それを無視して、リュックサックを床に置いて、サイフとスマホだけを持ってまたすぐに外に出た。しっかりと鍵を閉めて、俺はこの晴山市のシンボルマークであり、晴山へと歩みを進めた。


 この晴山市の中心に聳え立つこの晴山。標高は700mで、春は桜、秋は紅葉と見事なものが見れて、観光客で溢れかえる。また、山頂は展望台となっており、標高400mまでは車で移動できるようになっている。


 その晴山の中腹に、目的の神社はある。晴山の麓にたどり着いた俺は、展望台まで続いている多くの人が使っている道路をスルーして、そのまま真っ直ぐ進み続ける。


「………あった」


 そのままぐるーっと麓を回るように晴山を歩き続けたが、目的の道はきちんとキチンとあった。


 周りは、随分と変わってしまったが、この道だけは10年前と同じであるため、俺は躊躇なくその山の中へ続く道へと踏み入れた。


「…………懐かしいな」


 この道に入った瞬間から、辺りは一気に幻想的な雰囲気になり、木漏れ日がこれから俺が進むべきを道を照らしてくれる。


 昔は、この光景にすげー!とか馬鹿みたいにはしゃいでたっけな。


 昔の自分を思い出し、クスッと笑ってから、俺はそのまま木漏れ日が照らす道を歩き始めた。

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