第8話 抱えてたもの
洗い物が終わって、雪森さんが、
「よし、終わり。和樹くん、ご飯食べて、少し眠いんじゃない?」
「確かに、言われてみれば、少しだけ眠いですね」
そう言うと、雪森さんがキッチンから出た。あ、なるほど、俺が眠いって分かったから、今日はもう帰るのか。少し寂しいような、なんというかー
ってあれ?
雪森さんは玄関の方ではなく、ソファーへ座った。
「ゆ、雪森さん?」
「さあ、おいで和樹くん。私のお膝に」
え。なにが起こっている。
「雪森さん、、こ、これは?」
「だって、和樹くん、引っ越した日から顔色悪いもん。今はもっとひどいし。ちゃんと寝れないんでしょう?」
え。顔色が悪い?だれが?俺が?そんなはずは無い。
「い、いや、僕は全然大丈夫ですよ?」
だって俺は今も元気だ。憧れの日本へ来て、幸せだ。そう、俺は全然、だいじょー
「なんで無理するの?」
「え?」
「いつも無理してるでしょう?遅くまで仕事して、家でも仕事してるって花子さんが言ってたよ。」
「それは…」
そうか、日本に着いた時から、色んな人に見られてたのは、明らかに顔色が悪いからか。思えば、日本に来る、一年前からずっと寝る間も惜しんで頑張って仕事をしてきた。日本に来てからはもっとだ。だから、鈴木さんや会社の先輩もちゃんと寝てるか、何度も聞いてきたのか、、
「だからー」
「ほら、お姉さんのお膝においで」
黒色のソファーに座り、まるで女神のような笑顔で自分の膝を手でポンポン、とする雪森さん。
俺はその光景があまりにも衝撃的で夢か現実か分からなかった。
美人なお姉さんに膝枕してもらう…て言うのが全世界の男たちの夢であるかもしれんが
それ以上に………
俺にこんな優しい言葉をかけてくれる人なんて今まで一人も居なかった。
俺は無意識のうちに溢れてしまいそうな涙を必死堪えながらそんな事を考えていた。
「お姉さんの前では無理しなくってもいいんだよ?泣いていいんだよ?」
雪森さんは立ち上がり、俺の方へ歩いてきた。
俺はその言葉を聞いて、もう、我慢出来なくなり、涙が奢れてしまった。必死に手で隠そうとすると、
「こーら、ダメだよ、隠そうとしても。ほら、おいで」
と言って、雪森さんは俺をそっと、抱きしめてくれた。俺は意識がなくなったみたいに力が抜け、されるがままになっていた。だが、雪森さんは優しく、そのまま、ゆっくりとソファーへ移動し、俺を彼女の膝へと寝かしてくれた。そして、優しく、頭を撫でてくれてた。
「よしよし、寂しかったでしょう?」
そうだ。俺は日本に来てから、毎日、寂しい。ずっとカナダにいて欲しいと思ってる家族にそんな事は言えない、弱音を吐ける友達もいない。ずっと誰かと喋りたかった。
誰かと話して、楽になりたかった…
「お姉さんが話、聞いてあげるよ?」
誰かに頑張ったね、て言われたかった、、
「和樹くんは頑張ったね」
誰かにそばにいて欲しかった、、
「お姉さんがそばにいるからね」
「なんで、全部分かるんですか、、」
「よしよし、いい子いい子」
俺はいい歳にもなって、他人の膝の上で静かに泣いた。今まで抱えてたものが涙になって、落ちていくように。
それでも、雪森さんはなにひとつ、聞こうとしなかった。
ただ、優しく、柔らかく、頭を撫でてくれた。
俺は泣き疲れたせいか、彼女の優しさのせいか、あるいはどっちものせいで、寝てしまった。
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