挿話 ~神々の小噺Ⅳ~
「危なかったねー。甚君またここにくるかと思っちゃった」
運命神フォルトゥナは紅茶のような何かを傾けながら、ホッと一息つく。
彼女の側には自らの神域に引きこもっている魔神ハーバーン、お昼寝中の水神ミズハノメを除き、他五人の神が卓を共にしていた。
「素晴らしい戦いだった! あれが武士、侍というやつか! 俺の加護持ちが負けちまうとはな! わっはっは!」
戦神マルスは酒のような何かを豪快にあおり、大声をあげながらジンの
彼らは人間の世界の『時間』というものを理解はしているが、神界に時間軸の概念はない。彼らからしてみれば同時に起こったこの大きな戦いが、今絶賛話題の中心だ。
「確かに甚之助さん凄かったね。僕の子の眷属にももう会うなんて、分からないものだね」
獣神パーンは、甚之助が自身の眷属である幻獣と聖獣と関りをすでに持ったことにも驚きを隠せない。なにせ自分達が送り出した世界において、獣神の眷属と関わる人間などほんのわずかなのだ。
「あたしゃとミズハノメの加護持ちが共におったんじゃ。さもあろうて」
大地神であるメーテルはこういう結果もあるだろうと、茶のような何かをすすりながら事も無げに言った。自身が作り出した大地を、戦いでゴリゴリ削られた事にもまったく気にする素振りはない。
だがここで一神、いつもは甚之助の振る舞いに不満を爆発させていたが、今回は皆と同様に、いや、それ以上に機嫌のよい神がいる。
愛と美を司る神、ディーナである。
「むふふふ…」
「よかったのぅ、ディーナや。お主のおまじないの効果が出たといったところかの?」
メーテルと同様に茶のような何かをすすりながら、創造神たるゼウスがディーナに水を向ける。
当然、戦いの後のジンとアイレ、コハク、ルーナのやり取りを指している。
「はい、ゼウス様。
「『受け取らせてもらう。君の全て』…ああっ! 愛! これこそ愛よぉっ!」
「えー…ほんとに愛なのかしら…。まぁディーナが言うんならそうなんだろうけど…」
両腕を抱いて腰をクネらせるディーナに、フォルトゥナが訝し気にあきれ顔を向ける。
「受け身な上に結局うやむやになる…点数をつければニ十点ってところだけど、十分な成果だわ!」
とにかく、とゼウスが声を上げる。
「今回は甚之助にとって大きな出来事だったという事じゃ。そろそろハーバーンが何からしら刺激を与えようとしてもおかしくはないからの。また近い内皆で集まるじゃろう」
確かにと、その場の皆はうなずき解散となった。
◇ ◇ ◇ ◇
魔神ハーバーンの神域。
「楽しみが減ったわ」
ハーバーンは自身が注目していた個体名メフィストが、大地神メーテルの加護をもつ者に魔素に還された瞬間を目の当たりにし、軽く舌打ちをする。
戦神、大地神、水神の加護を持つ者が一堂に甚之助の元へ集まったのも、運命神の”まじない”と甚之助の魂の強さによるものかと、ハーバーンは納得せざるを得ない。
「まぁいい。面白いものは見れた。理にたどり着いた暁には、余の創造する理で揺り動かしてやるとするか。今世の糧たる人間…果たして生き残り、次なる進化を果たす事はできるかな?」
不気味な笑みを浮かべるハーバーン。
「前回…いや、その前もか。見事に絶滅したが…クフフフ…楽しみだ」
世界が神に試される日もそう遠くは無いのかもしれない。
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