140話 霧魔法
相良甚之助。
譜代衆、家老の長子として、武門に身を置く者ならどうしても欲しい大きな
所詮は老齢に差し掛かり、噂に尾ひれがついただけのものだろうと侮ったツケは、
相手は剣術だけでなく、棒術も備えていたという事だ。
油断、侮り、慢心。
うつ
結局、負わされた怪我のお陰で戦功は上げられないまま戦線離脱し、しばらく猪武者だと嘲笑されたのだ。
◇
三体の魔人を前にして、前世の記憶が一瞬で頭に流れる。
「嫌な事を思い出させてくれる…」
だが、これは記憶であり予言ではない。考えようによっては、自らへの警告とも取れるだろう。
そして落ちている大盾。どうやらアッガスさん達が倒したのは
何にせよ、まず倒すべきは
接戦なんて演じてやらん。
「―――
ィィィン―――
大地魔法を掛け、夜桜を抜くと同時に強化を全開。星刻石の魔力核が
「参るっ!」
ドンッ!
地を蹴り、一直線にソルムへ斬り掛かったジンの動きを予想していたのはゴドルフだけではない。アッガスもウォーレスも含め、ジンはまず
「―――
だが、初撃を止めるべくジンとソルムの射線に素早く入り込もうとしたゴドルフの目の前に、突如土壁が現れる。
夜桜を通して発動される魔法の威力は数倍に跳ね上がる。これまで自分の実力が測りにくくなると避けてきた手段だが、今はそうも言ってられない。遠慮なく相棒の力を借りる事にする。
ガコン!
「なにっ!?」
ゴドルフは進路をふさぐ土壁を一撃で払うべく
これで
「陣魔法か!」
「―――
三方向の魔法陣から大火球が放たれる。やはり相手は
迫りくる大火球を前にして
上空に回避した後、予定調和の如く見えざる矢が無数に放たれるがこれも想定内。風渡りを使用し、未だ爆発の衝撃が止まない地上へ急降下。火球など直撃を避ければ恐るるに足らない。炎熱の残る空間へ戻ると同時に
ギャゴッ!
振り下ろされた一撃を受け流さず、あえて受け止めると地面が足の形に窪むが、身体にダメージは無し。
「その武器と違って、
「ふっ、お前の剣はどうなんだ?」
刹那
ガチュンッ!
互いの自慢の得物が生み出す金属ならぬ合奏は、かくも鈍い音である。
「ぬっ!?」
夜桜の刃先が
俺は最初に
そして今、目の前で見て確信した。斧にさほど使い込まれた様子は無く、最近作られたものだと。まさか帝都で自分が売りに出した素材が相対する敵の手に渡るとは…因果なものだと、溜息をつかざるを得ない。
だが二度打ち合って気付いたことがある。それは相手の
恐らく、同じ黒王竜の鱗で作られているが
飛びのいた一方のゴドルフも、感じるものはほぼ同じ。
武器の優位性どころか、敵の剣は黒王竜の素材以外の強力なものが使われている事は、赤く散りばめられた魔力核で容易に想像できた。いくら魔力核で強化魔法を強化しているとは言え、本来、魔力核それ自体の脆さを補える程のものでは無い。
(まさか
金属製の武器ならば、刃先に刃が食い込んだ時点でそこからヒビが広がり、程なく武器としては使い物にならなくなる。ゴドルフの
武器で劣る事はないと改めて確信した俺は、斧術士が飛びのいたのと同時に放たれた見えざる矢を躱し、未だ魔力の残る三つの魔法陣から大火球の発動を背中越しに感じ取る。
これに対し、夜桜を地に突き刺し再度地魔法を発動。土壁と大火球の衝突により舞い上がった砂塵を魔力反応を頼りに突き抜け、邂逅した魔導師を真向斬り下ろした。
シュアッ
斬った。音も無く。
視覚情報では、両断された魔導師は表情も声も無く、静かに消えていこうとしている。
「―――
だが、二つに分かれた魔導師は魔法を発動。消失と共に霧が爆発的に発生し、瞬く間に濃霧が辺り一帯を包み込んだ。
「最期の言葉が魔法とは…その心意気や」
失われた視界。俺は焦ることなく
「―――
「っ!? 馬鹿なっ!」
「まさかこれをたった一人、しかも人間を相手に使う事になるとは思いませんでしたよ」
「これでいい。こいつは強い」
「女王はあっさり終わっちゃったし、こいつで鬱憤晴らしたい!」
無機質な声が再度響き、濃霧から
「我々は
「ゴドルフだ。見事な剣だな小僧」
「僕はエンリケ! ドルムさんをやった
魔導師が生きていた事、名乗ってきた事も驚いたが、今俺が最も驚いているのが濃霧の中、魔導師の魔力反応が五つある事だ。しかも霧自体が魔力で作り出された物なので探知の邪魔をし、魔力の発生源であるソルムの反応もおぼろげな状態なのだ。この中で魔力反応を頼りに戦うのはかなりの危険が伴う。
「参ったな…たった今ソルムさんの魔力反応が五つから六つになりました。このような魔法は初めて見ます。霧から出ようとすればどうなるのです?」
聞きながら夜桜を鞘に納め、再度鯉口を切る。
―――
「たった今、その手段は絶たれました」
俺の質問に魔法で返したソルムの魔力反応は三つに減っている。
もはや、
「ふーっ。こういう展開が嫌だったので最初から飛ばしたんですが…やはり貴方には早々に退場して頂きたかった」
「それは残念でしたね」
ソルムの言葉の終わりと共に、再度魔人の圧力が発せられた。
腰を落とし、夜桜の
視覚と魔力反応を奪われた今、敵に達する手段は一つだ。
「私はジン・リカルド。あなた方を討伐します」
―――
ピシッ パチッ
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