141話 迅雷
思考を経由して四肢を動かすのではなく、感じ取った感覚から直接身体を反応させる事が出来る魔法、それが迅雷である。
さらに、帯電した筋肉は意識下の運動能力を飛躍的に向上させる事が出来るが、使用後の反動は言うに及ばず。痛みという防御機能を無視し、潜在能力を強引に引き出された筋線維は、運動による消耗と帯電による刺激によりちぎれ、後に激しい痛みを伴うのだ。
微弱な雷電が俺を中心に放出され、触れたモノに瞬時に反応する。それもこの魔法の特徴である。
確実に『
迅雷の発動後、すぐに複数の見えざる矢が正確に俺を目掛けて飛んでくるが、全て抜刀術で撃ち落とす。刀を振るという反射を展開している以上、回避の選択は今の俺には無い。
はっきり言って
「やはり位置は把握されているな」
視覚情報と魔力反応を失っているのはゴドルフとエンリケも同じはず。
だが、そんな膠着状態を戦いの手段とするはずが無いのは考えるまでも無いだろう。先程、ソルムは三つの魔法を発動していた。詳細は分からないが、今はそれを詮索している場合でも無い。魔力の供給主であるソルムを討たない限り、この霧は解除される事は無いのだ。
ジンが相まみえている霧魔法。これこそ彼らが
魔導師ソルムが放った霧属性魔法は二つ。
一つは
魔力を霧に変換し、対象の視界を奪った上で自らの魔力で辺りを満たすという魔法である。霧自体に攻撃性は皆無だが、霧の中にいる者の動きは発動者に伝わるという、
次に使用したのが
ジンが霧の中に複数のソルムの魔力体を感じ取ったのは、この魔法の影響だった。
そして最後に放った魔法が
「さぁ、どう出る…」
静寂が支配する中、背後から
ギャドッ!
「っ!」
完全な奇襲だったのにもかかわらず真っ向受け止められたゴドルフは、一撃離脱を試みようと即座に背後に飛ぶが、それをジンが許すはずもなかった。
雷の如き速度で瞬時にゴドルフの零距離まで迫り、猛攻撃を浴びせる。
ガガガガガガッ!
「ぉぉぉぉおおおっ!」
「む、ぐぐっ!」
この速度の攻撃は斧では到底受け止めきれまいっ!
顔を腕を、胴を脚をと嵐のような斬撃がゴドルフに襲いかかる。防いだはずの斬撃の剣風がピシピシと身体を
刀身を全力で強化され、迅雷を発動した状態で振り抜かれる夜桜の斬撃の前では、防御すら意味をなさなかった。
この一撃を待っていた。
予備動作から丸見えの攻撃は、どれだけ重い一撃だろうが関係なく
ゴッ!
受け流せる。
「なっ―――」
戦闘開始からこれまで打ち合いの姿勢に
スンッ
「―――に」
渾身の一撃を受け流されたゴドルフは大きく前のめり、バランスを崩す。その背へ夜桜の
「まさか初撃から受け切っていたのは、この為の誘い」
「…かもしれませんね」
「はっ、たまらんな…」
手ごたえあり。今のゴドルフも幻像だったらと案じたが、どうやら実体だったようだ。
倒れたゴドルフを
矢を避けられるのではなく、撃ち落とされている事に気付いていないのだろうか。濃霧に包まれるまでは全て避けていたから
「俺が動いていないことは知れているはず。となると…」
矢の終わりが見え始めるかと見切った瞬間、全方向から灼熱が迫りくる。
(やはり矢は牽制だったか! 回避は間に合わん!)
灼熱が迫りくる一方向に突進。目前に現れたのはソルムの大火球だった。
「はぁっ!」
ヒュバッ! ―――ドゴァァァ!
火球を真っ二つに切り裂くと同時に、背中越しに火球同士の衝突による大爆発が起こり
シュオン!
魔法陣ごとソルムを真っ二つに斬り裂くが、やはり手ごたえはなく幻像だった。破壊された魔法陣からさらに霧が生まれ、霧は濃さを増すが今更だろう。それより驚くべきは魔法陣が二つあった事だ。
前世の苦い記憶にあった、棒術まで修めていた剣術家に散々にやられた経験がここで生きたと言える。霧から生まれた幻像が他の属性魔法を放つわけがないという先入観を捨てていなければ、今頃消し炭になっていたかもしれない。
あと何体の幻像があるのか分からないが、この霧の中のどこかに実体はあるはずだ。駆けながら、止むことなく降り注ぐ見えざる矢の雨を
迅雷も延々と発動していられる訳ではない。視界を奪われ、魔力反応に依らずに超反応で敵の攻撃を
矢を
一方の魔導師ソルムは濃霧の中、難なく火球魔法を斬り防がれ、次々に幻像を破壊されてゆく現状を驚きをもって受け止めていた。
魔法を斬るという行為自体、簡単な事ではない。放たれた魔法に込められた魔力と同等以上でないと、その魔法に干渉することは出来ない。つまりここでは、火球に対して剣を突き立てたところで、通常は火球に飲み込まれ、燃やされて爆発するだけなのだ。
だが、ジンはそうはならない。ソルムの魔法陣から放たれる上位魔法、
(ただの人間が、これほどの魔力を持つものなのでしょうか…剣士ながらに属性魔法も扱えるようですが、私は
もう一つソルムの戦術にあったのが魔法陣の移動である。
通常、魔法陣は設置後の移動はできない。したがって霧の中の敵が偶然魔法陣を発見、破壊されることも十分に考えられる。それを防ぐため魔法陣を移動させて幻像ごと敵に見失わせ、一方的に攻撃し続けるというのがソルムの戦術であり、この三連魔法の真骨頂なのである。
彼らが
当初ジンがソルムの魔力反応の数を読み切れなかったのは、霧の中を縦横無尽に魔法陣を移動させていたからである。
だが今は攻撃手段としている火属性陣魔法により、逆に魔法陣の位置を把握されてしまっている。ジンは火球を斬り防いでソルムが魔法陣を移動させる前に到達してしまい、そして次の瞬間には魔法陣ごとかき消してしまうのだ。これにはさすがのソルムも対処のしようがなかった。
魔法陣の位置を知らしめない為に火球の発動を止めれば攻撃の手段が無くなり、火球を発動すればその位置が露見して破壊されてしまう。
(攻撃を止め、膠着させても何の意味も無い。ここは十分に消耗してもらいましょう)
「まさかこの手も使う事になるとは…」
知り得る事の無い夜桜を携えたジンの力の前に、魔人は彼岸にて嘆息を漏らす事になる。
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