23
おいてけぼりを食らったまま、曲が終わる。情けなさやら悔しさやら、唇を噛み締めて俯くことしかできなかった。湊さんが聴衆に向けてなにか喋っているのが聞こえる。合わせる顔がなかった。
急だとしても、伴奏を引き受けたのは自分。
臆していたって、最後にやると決めたのは自分。無理矢理だった瞬間は、どこにも存在しない。
初めて、人生で初めてだと思う。
敗北を味わった気分だった。
「それじゃあ、アシスタントのエルちゃんにも大きな拍手を」
聞きなれない名前で紹介され、全校生徒の前に立たされた。かろうじて、マイクを渡すだとかの処刑じみた事はされなかったけれど、脂汗が止まらなかった。視線はずっと泳ぎっぱなしで、舞台袖に早く引っ込みたい一心でスカートの裾を握りしめた。崩れていくプリーツの目が、ぼんやりしたレンズ越しに見えた。視界に透明な膜が張り始めて、ぽたりと一つ水滴が眼鏡に落ちた。その様子が目に留まったのか、ようやっと脇に捌けるよう湊さんが促してくれた。
半泣きで舞台を降りるなんて屈辱、初めてだった。やろうと思えば、人並みかそれ以上の成果を収められる。私は、俗に言うと才に恵まれていた。ピアノも、歌も、ギターも、全部借り物の七光りのくせに、どこか自分の物な気になって、ひけらかしていた。
けれど、借り物は所詮借り物で、結局は見よう見まねなもんだから、使い方なんて知らない。その結果がこれだ。無様にも程がある。
もっとちゃんと練習してれば、向き合ってれば、少なくとも泣くこともなかった。
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