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緞帳が上がりきってから、まばらに拍手が起こり始めて渦になっていく。当たり前だけれど、ライブハウスとは全然雰囲気が違う。観客は好きで見に来たファンじゃない。授業の一環で見ざるおえないただの生徒だ。閉鎖的な、けだるげな空気感が不安をあおる。下手なものを聴かせると、問答無用で寝る連中だ。そんなの私のなけなしのプライドが許さない。インディーズだけど、これでもいっぱしのバンドマンだもの。それに、なにより。

ちら、と舞台中央で演奏の体勢のままスタンドマイク越しに生徒へ向けて講話する湊さんを見た。

なによりも、湊さんに恥かかせたくない。その気持ちが強かった。

「長々と話すよりも聴くほうが早いですね。それじゃあ一曲目いってみましょうか」

湊さんがマイクの位置をコントラバスへと移すと、私に目配せした。お互い練習していないから、湊さんの演奏をちゃんと聴くのは私も初めてだ。

すぅ、と湊さんが息をする。あんまりにきれいだから、呆けそうになる。

あ、と声を上げそうになった。最初の曲は私が弾き始めないと湊さんも始められないのだった。走らないように気を付けながら急いで鍵盤をたたいた。それに続いて、湊さんのコントラバスも鳴る。

あぁやっぱりだ。ちゃんと、音色も綺麗なんだ貴女は。それに、私に合わせてくれている。優しさがまるで演奏そのものに現れていて、ずしんとした重低音の中に温かみを感じた。落ち着いた曲だというのもあるけれど、凄く心地が良かった。ずっと弾いていたくなる。ピアノは嫌い。でも、湊さんのコントラバスと一緒に弾いていると不思議と自分の音も上等そうに聴こえて、いいものに思えてくる。

今だけ。今だけは、ピアノが好きだ。

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