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本格的な梅雨入りを果たして、叩きつける雨音が聞こえた午後四時。学校から帰宅して、制服のままリビングのソファに体を埋めていた。

あの色々と衝撃的なライブから一週間。彼女に名前を聞かなかった事をひたすら後悔した。ネットの波で、何度も『黒髪・美人』と検索をかけたけど、しっぽすら掴めないまま今日に至る。幻だったんじゃないかとすら思えてくる。

気圧の変化に弱い頭部が、悲鳴をあげている。お姉ちゃんが帰るまでに、晩御飯の用意して、お風呂を沸かして、だのいくらでもやる事はあるのに不思議と体は動かない。世の親というのが、無償で家族の為に家事をやっていると思うと心底信じられない。分担していても私にはきつい。

けれど親が欲しいとは、思わない。ましてや、物心ついて以降の記憶に一切登場しないうちの両親なんて、いなくていい。今更我が物顔で私を娘と呼んできたって、絶対ママともパパとも言ってやらない。お姉ちゃんは、違うみたいだけど。

「あー!ヤダヤダ!!」

両頬から勢いよく気合いを注入して、嫌な思考を飛ばす。こういう時、私は放っておくとどんどん沈んでいく。だから自分で喝を入れてやらないと、壊れてしまう。

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