13

バチンッ

意識が追いついた頃には、体が弾け飛んで後方に仰け反っていた。強烈な平手打ちを左頬に受けて、燃えるような痛みが広がっていく。切れた口の端から鉄の味がする。

しりもちをついて、傘や背負っていた荷物が地面に投げ出された。乾き始めの全身に、雨が染み込んでくる。

「遅い!!!!!!」

大変ご立腹の様子で、その人は怒鳴った。

細い脚で仁王立ちして、確かな怒りをその目に込めて私を見下している。

「ごめん、お姉ちゃん」

不味い口の中は、上手く動かない。それだけ言って、私は地面の荷物を片付け始めた。

その態度が気に食わなかったのか、お姉ちゃんは私の胸ぐらに手をかけてきた。

「ごめんもすみませんもなんの足しにもならない。行動で示せ」

空いてる方の手で、開け放たれた戸の奥を指す。そこにあるのは、廊下の端の扉。

その部屋は、私が一番嫌いな場所。

「連弾の練習がしたい。付き合え」

拒否権はない。と、ばかりに私の返答を待たずにお姉ちゃんは先に家に入っていった。


なんで、思いつかなかったんだよ。馬鹿。


誰の事も責められずに、結局また自分が嫌になる。言ったって、お姉ちゃんが覚えてるはずない。お姉ちゃんには聞こえないし、見えないんだから。

そんな単純な事を忘れるなんて。自分でも気づかなかったけど、本当は今日を楽しみにしてたんだな、私は。

腑に落ちた。私が悪い。

だから、もうこの事は考えない。

首を振って、余計な事は振り落とす。

荷物を拾って、振り向きもせず進んでいくお姉ちゃんの後を追った。




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