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私達の出番分のリハーサルが終わると、あわこはスタッフさんに演出の相談をしに行った。

少しひりつく喉に水を流し込んで、私はギターをケースにしまい込む。懐かしい耳鳴りがじわじわ身体中に広がっていく。ライブに出るのは久しぶりのことなので、感覚が抜けていて、技術もそうだけどミスが目立つ。練習はしていたけれど、やっぱり自分は下手なんだと思い知らされる。あわこといっちんが上手い分余計に。

「日生、楽器を楽屋のロッカーに入れていいってさ。置いてこようか?」

ぼーっと水を飲んでいた私に、いっちんが声を掛ける。

「あ、うんありがとう」

傍らに置いていたギターケースを渡す。

ステージから降りていくいっちんの背中を見送って、あわこの方を向く。大人の中でも物怖じせずに意見を言うあわこの姿を、私の目はかっこいい人間として映す。

いっちんもそうだ。どんな所でも溶け込める強かさを持ち、いつも肝を据わらせている。

私はいつも、その二人にぶらさがっている。才能も、人としても、私なんて何処にもいない。

「ねぇ、君さ」

不意に声をかけられて、反射的に首が凄い勢いで声の方へ向く。声の主は男性スタッフさんの一人だった。

「照元さん、だっけ。"LUNA"に似てるって言われない?」

不快感が、心臓を舐める感覚がする。聞きたくない名前、聞かないようにしていた名前。

「顔もそうなんだけど、何より声が凄く似てるね。歌の感じもそっくり。親戚とかだったりするの?」

何一つ悪気のなさそうな、自分は褒め言葉を言っていると、信じて疑わない瞳が私を見ている。

「そう、ですかね」

乾いた笑いを、引っ張り出す。

気まずい。

なのに、彼は心底嬉しそうな顔をしている。

「俺さ、LUNAがすっごく好きで、君の声聴いてびっくりした」

「すみません、失礼しますね」

足早に、彼の前から離れていく。

また、私じゃない。

この人も、私を見てくれないんだ。皆が見ているのは、私の知らない"LUNA"という歌手の姿。

噂に聞くLUNAは、十数年前に一斉を風靡したアイドル歌手。彼女は、大人数グループが流行り始めたその時代に逆境して、たった一人でステージから人々を魅了してみせた。

優れたビジュアルに、唯一無二の透き通った歌声。実生活は謎に包まれ、更に聴衆を盛り上がらせた。人気絶頂の中で、活動期間をたった三年で幕引きした。音沙汰の無かった引退から六年後、一度だけ音楽番組のクリスマス特番に出たのを最後に、表舞台から一切姿を消した。

そんな輝かしく素晴らしい女性に似ているというのは、本来なら喜ばしいこと。なのに私が嫌がるのは、単純に彼女が嫌いだから。

会ったことも話したことも無い。だから、大っ嫌いなんだ。

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