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ジリジリと照りつけるライトに目を細めながら、各々がチューニングや音作りに集中する。アコギとエレキギターだと、弦の太さが違っていて、私はエレキギターが若干苦手。

ピックを握りしめて、試しにFのコードを爪弾く。少し掠れた、不安定な伸びを残して音が消えていく。

背後の2人の音が消えたので、私も調節をやめにした。背筋を伸ばして、ピックを持ち直す。

「よろしくお願いしますー!」

あわこが後ろで声をあげたので、私も合わせて頭を下げた。スタッフさんに笑顔で返されて、背筋の力が少しほぐれる。リラックスして、落ち着いて、そうすればきっと大丈夫だから。

「一曲目、『群青崇拝』のラスサビだけやります」

私の言葉を合図に、照明が青色に変わる。

『群青崇拝』は、りちぇっとはうすのオリジナル曲。作詞はあわこ、作曲がいっちん。

あわこ曰く、二人の自分に苦悩する、というのがコンセプトの歌詞らしい。人となりである自分と、才能である自分、二人のうち愛されるのは才能ばかりと嘆いている。

いっちんはこの歌詞に、アップテンポな曲をつけた。かっこいい曲に、ストーリーのある歌詞、本来私はこういう音楽が好きだったはずだけれど、何故かこの曲だけは真正面から向き合うことが出来なかった。得意としている、感情を乗せて歌うのも奏でるのもこの曲の前では無力と化してしまう。

いつも通り、楽譜通りに音をなぞる。

つまらない。

『ああ、どうぞ捨ておいて』

この曲の最後の詞は、見放される事を望んで終わる。それは才能である自分に対して言ったと同時に、才能のない凡骨な自分を捨ててと他の誰かに言っていると私は思っている。精一杯、感情移入できないなりに切なさを歌声とギターに込める。

それぞれの楽器の音が消えていく。

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