2

川沿いをフラフラ歩いていくと、川に降りるための石段が現れる。そこに腰を下ろして、持ってきたアコギを静かに構えた。

何を弾こうかな。指先で弦をなぞる。知っている曲は多いけれど、弾ける曲は少ない。何年もやっているけど、未だにFのコードが苦手。特に上手くはないけれど、ただ早朝にこうゆう場所で演奏するのは、所謂エモさを感じて好きだ。

何の気なしに、そこにあった弦を爪弾く。

それは、とある曲の印象的な音。

記憶を辿って、その曲を少しずつ形作っていく。英詞で、歌えはしないけど昔から曲調が好きだった。軽快な、いかにもロックンロールって感じが好き。誰もが知ってるあのイギリスのロックバンドも歌ってた。歌詞の意味が、「彼女を見つけ出す」ってのをひたすら繰り返してるらしい。

「私も、見つけて欲しいや」

かわいた笑いと一緒に言葉がこぼれた。

誤魔化すように、曲をひとつなぎにかき鳴らす。下手だな、でも楽しい。

「上手ね」

後ろから声がして、反射的に振り返った。

けれどそこには誰もいない。不気味さと誰かに聴かれているかも、という小っ恥ずかしさがじわじわと広がっていく。腕時計は6時にじわじわと近づいていく。

雑にアコギを懐に抱えて、足早にその場を去った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る