第4話

「雫ちゃん、またな」

「うん。おじさんまたね」


雫は、悲しそうに焼肉店を見る。


(ありがとう。おじさん。元気でね)


蚊のなくような声だったが、聞き取れた。


「洋二くん、次はカラオケ行こう」

「カラオケか・・・久しぶりだな」

「うん。洋二くんの歌、聞きたい」

「じゃあ、行こうか」


こうして、カラオケ店に行った。


周りは怪訝な表情をしていたが、気にならない。


店員に案内された部屋に入ると、雫はマイクを握って離さなかった。

歌う曲は、全部知らない。


でも、とても上手い。


雫はもしかしたら、俺をからかっているのか・・・弄んでいるのか・・・

でも、それでもよかった。


最後にこうして、ときめく事が出来た。


あれ?

焼肉屋は、代金払ったか?


記憶にない。


俺の不安な顔に気が付いたのか、雫が声をかけてくる。


「あっ、洋二くん、ごめんね。次は、洋二くんのワンマンライブだよ」

「ワンマン?」

「何を歌ってもいいよ。邦楽なら」

「了解」


俺は、マイクを握り、力の限り熱唱した。

観客はひとり。


でも、心地良い拍手をくれた。


雫が、どういう環境なのか・・・

どうでも、良かった。


その後は、ウィンドウショッピングを楽しみ、あの海へと戻った。

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